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■2009/09/01 (Tue)
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判

P042 第4章 見合う前に跳べ

18

屋敷を出ると、マイクロバスが一台待ち構えていた。乗り込むと、先頭の席に糸色先生が座って、窓の外を眺めていた。
「先生!」
まといが糸色先生に飛びつこうとした。
「駄目よ。私が隣に座るんだから。」
千里がまといの腕を掴んで引き止めた。
「いいから早く座んなさい。邪魔よ」
カエレが冷淡な声で、千里とまといを諌めた。千里とまといは、互いを睨みつけて、一緒の席に座った。それが無言で合意した妥協点らしい。ただし隣同士に座っても、千里とまといはつん、と別方向に顔を向けてしまった。
私たちみんながそれぞれの席に座ると、マイクロバスは出発した。私はぼんやりと窓の外の風景に目を向けた。窓の外は、緑に色づく田園風景が見えた。でも私は、そんな景色にも感心がいかなかった。
さっき私が屋敷で見たものはなんだったのだろうか。私の体内で、すっきり晴れないものがあった。
「奈美ちゃん、ジュースだよ」
隣に座った可符香が、私に声をかけた。振り向くと、可符香がパックのイチゴジュースを手にして、気遣わしげに微笑んでいた。
「うん、ごめんね」
私はイチゴジュースを受け取って謝った。可符香を少しでも不気味と思ったことに、申し訳なさを感じてしまった。
バスはやがて蔵井沢の駅に到着した。私は一緒に乗った時田から乗車券を渡され、丁寧な挨拶と共に別れた。
蔵井沢駅の改札口を抜けると、ちょうどよく新幹線が待っていた。新幹線に乗り、乗車券に示されている指定席に向かうと、すでに先客がいた。
「おつ~。どうたった?」
藤吉晴美だった。藤吉は、気楽そうに通路側に身を乗り出して、私たちに手を振った。読書中だったらしく、膝の上に本が開いたまま乗せてあった。
「あれ、藤吉さん。そういえば、いつの間にかいなくなってたんだっけ?」
私は藤吉に話しかけながら、その手前に座った。藤吉の隣に千里が座り、頬杖をついて窓の外を見詰める。その手前に、可符香が座った。ちょうど、私たちがやってきた時と同じ席順だった。
「うふふ。蔵井沢のイベントに参加して来たんだ。一杯買っちゃった」
藤吉は機嫌良さそうにそばに置いてあったカートを示した。カートの中は、何かが一杯に詰まって膨らんでいた。
「ええ~、なんかやってたの?」
私は羨ましくて声をあげた。
「そうだよ。奈美ちゃんも一冊読む? 面白いよ」
藤吉がカートを開けて、一冊引っ張り出して私に差し出した。背に何も書いていない、小冊子くらいの薄い本だった。
「え、見せて見せて」
私は期待に声を弾ませて、本を受け取った。
本を膝の上に載せて、最初の1ページ目を開いた。すると、花に囲まれた二人の裸の男が出てきた。
それ以上は描写しまいと思う。私は即座に本を閉じた。
「ごめん。返す」
私は藤吉に本を突き返した。目を合わせまいと下を向いていた。
「ええ、何で? 面白いのに」
藤吉は本を受け取りつつ、不本意らしい声をあげた。
「もういいから、そっとしておいてくれる」
私は藤吉から目を背けたまま、断固拒否の姿勢を示した。
なんとなく知的でお姉さん的雰囲気の藤吉晴美。というイメージは、一瞬のうちに崩壊してしまった。
「やめときなさい、晴美。あんたのマイノリティ趣味は、誰もついていけないから」
「ひどい!」
さらりと釘を刺す千里に、藤吉が非難の声をあげた。幼馴染らしいやり取りに思えた。
なんだかんだで、みんなの本性がわかる蔵井沢旅行だった。そう思うと、意外と収穫はあったかもしれない。2ヶ月遅れの学園生活を取り戻すための旅行。そう考えると、楽しい思い出の1ページになりそうだった。

次回 P043 第5章 ドラコニアの屋敷1 を読む

小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次




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