■ 最新記事
(08/15)
(08/14)
(08/13)
(08/12)
(08/11)
(08/10)
(08/09)
(08/08)
(08/07)
(08/06)
■ カテゴリー
お探し記事は【記事一覧 索引】が便利です。
■2009/09/04 (Fri)
映画:外国映画■
「待って」
エレベーターに乗ったところで、女の声がコーキーを引き止めた。コーキーはとっさに扉を押さえた。
「どうも」
女が乗ってきた。髪にパーマを当てた、化粧の厚い女だった。一緒に男が入ってきた。恋人か旦那のどちらかだろう。
コーキーは五年の刑期を終えて出所したばかりだった。行く当てのないコーキーを、マフィアのビアンキーニーが引き取ってくれた。これから向かうマンションの一室は、ビアンキーニに割り当てられた部屋だった。
ふと女が自分を見ているのに気付いた。情熱的で、誘うような目。コーキーは女の視線を避けず、受け止めた。
間もなくエレベーターが止まった。10階。扉が開いて、男はさっさと出て行く。女は少し名残惜しそうにコーキーを見詰めたまま、出て行った。
コーキーはしばらくエレベーターに止まり、歩いていく女の尻を見詰めた。
――いい尻ね。
ブリーフを穿き、娼婦を誘うコーキー。男性的な側面が強調されるというより、男性自身である。女性視点のレズビアン映画とは、やはり趣旨が違う。どこか、後に性転換するラリーを暗示しているようだ。
エレベーターで出会った女はヴァイオレット。一緒だった男はシーザーだった。シーザーはマフィアの男で、ヴァイオレットはその情婦という関係だった。
だが、ヴァイオレットはシーザーに心を許しているわけではなかった。シーザーといれば、生活に困らないから。それだけの関係だった。
コーキーとヴァイオレットは、急速に惹かれあい、間もなく肉体的に結ばれる。
ある日、コーキーはマンションにマフィアの男達がやってくるのを目撃する。男達は、シェリーと呼ばれる男を連れていた。
シェリーはマフィアの金を持ち逃げし、どこかに逃亡するもつもりだった。しかしシーザー達に捕まり、これから拷問を受けるところだった。
拷問の悲鳴に耐えられなくなったヴァイオレットは、コーキーの元へ逃げ出す。ヴァイオレットは「シーザーが怖い。逃げたい」と告白。さらに、シェリーが隠し持っている200万ドルを横取りし、コーキーと一緒に逃げようと提案する。
コーキーは考えを巡らし、ビアンキーニの息子のせいにしてうまくマフィアの金を盗み出す方法を考える。
性倒錯や拷問。『マトリックス』のもう一つの側面であるSM的テーマが随所に現れている。車の中で「盗みと性的興奮」を語る場面がある。細かいところは違うが、元ネタはサドの『悪徳の栄え』だろう。
後に『マトリックス』を制作し、世界的監督になるラリー&アンディ・ウォシャウスキー監督の映画デビュー作である。
物語も舞台構成も単純明快だ。主だった舞台は一つのマンションであり、ほとんどが隣り合った二つの部屋だけで進行する。
おそらく予算的な都合だったのだろう。セットの数は少ないし、登場人物は10人以下。ハリウッドのドル箱俳優は一人も登場しない。
だが物語は綿密に計算して作られ、映画から緊張感が失われる瞬間はない。どのキャラクター達も常に思考し策を練り、予定調和的な展開はなく、物語は二転三転とどこまでも意外な方向に転がっていく。
果たして物語がどんな結末を迎えるのか。最後の瞬間まで目が離せなくなる作品だ。
低予算映画だが、惹き付ける場面が多い。低予算であっても、充分に実力を発揮している。この段階から、誰がどう見てもウォシャウスキーの映画である。映画監督としての才能と実力を見ることのできる映画だ。
画面の構成はシンプルで俳優を冷淡に捉えるが、狙ったように極端なクローズアップカットが挿入される。
カメラの動きは完璧に制御されている。カメラは俳優の動きをなぞるように追跡し、特定のアイテムに接近する。俳優の立ち位置、動きなどはもちろん徹底した完璧主義で、動作も台詞も機械か何かのようにコントロールされている。
時にカメラは信じられない動きを見せ、カメラマンの存在を忘れさせてしまう。
何もかもが、ウォシャウスキー監督のスタイルである。ウォシャウスキー兄弟は監督デビュー作であるのに関わらず、自分の個性を完璧に理解し、低予算だが自身のスタイルを決して曲げず作品を描いている。
“ウォシャウスキー監督は、初めからウォシャウスキー監督だった”と言うべきだろう。
シンプルでいながら映画の力点をよく理解し、観客をひきつける方法も充分に知っている。
映画作りに必要なバランス感覚の良さ、聡明さ、一目で誰が制作したかわかるスタイル。『バウンド』はウォシャウスキー兄弟の基礎的な能力が妥協なく発現された作品である。
映画記事一覧
作品データ
監督・脚本・製作総指揮:アンディ・ウォシャウスキー ラリー・ウォシャウスキー
音楽:ドン・デイヴィス 撮影:ビル・ポープ
出演:ジェニファー・ティリー ジーナ・ガーション
〇〇○ジョー・パントリアーノ リチャード・サラフィアン
〇〇○ジョン・P・ライアン クリストファー・メローニ
〇〇○バリー・キヴェル ピーター・スペロス
エレベーターに乗ったところで、女の声がコーキーを引き止めた。コーキーはとっさに扉を押さえた。
「どうも」
女が乗ってきた。髪にパーマを当てた、化粧の厚い女だった。一緒に男が入ってきた。恋人か旦那のどちらかだろう。
コーキーは五年の刑期を終えて出所したばかりだった。行く当てのないコーキーを、マフィアのビアンキーニーが引き取ってくれた。これから向かうマンションの一室は、ビアンキーニに割り当てられた部屋だった。
ふと女が自分を見ているのに気付いた。情熱的で、誘うような目。コーキーは女の視線を避けず、受け止めた。
間もなくエレベーターが止まった。10階。扉が開いて、男はさっさと出て行く。女は少し名残惜しそうにコーキーを見詰めたまま、出て行った。
コーキーはしばらくエレベーターに止まり、歩いていく女の尻を見詰めた。
――いい尻ね。
ブリーフを穿き、娼婦を誘うコーキー。男性的な側面が強調されるというより、男性自身である。女性視点のレズビアン映画とは、やはり趣旨が違う。どこか、後に性転換するラリーを暗示しているようだ。
エレベーターで出会った女はヴァイオレット。一緒だった男はシーザーだった。シーザーはマフィアの男で、ヴァイオレットはその情婦という関係だった。
だが、ヴァイオレットはシーザーに心を許しているわけではなかった。シーザーといれば、生活に困らないから。それだけの関係だった。
コーキーとヴァイオレットは、急速に惹かれあい、間もなく肉体的に結ばれる。
ある日、コーキーはマンションにマフィアの男達がやってくるのを目撃する。男達は、シェリーと呼ばれる男を連れていた。
シェリーはマフィアの金を持ち逃げし、どこかに逃亡するもつもりだった。しかしシーザー達に捕まり、これから拷問を受けるところだった。
拷問の悲鳴に耐えられなくなったヴァイオレットは、コーキーの元へ逃げ出す。ヴァイオレットは「シーザーが怖い。逃げたい」と告白。さらに、シェリーが隠し持っている200万ドルを横取りし、コーキーと一緒に逃げようと提案する。
コーキーは考えを巡らし、ビアンキーニの息子のせいにしてうまくマフィアの金を盗み出す方法を考える。
性倒錯や拷問。『マトリックス』のもう一つの側面であるSM的テーマが随所に現れている。車の中で「盗みと性的興奮」を語る場面がある。細かいところは違うが、元ネタはサドの『悪徳の栄え』だろう。
後に『マトリックス』を制作し、世界的監督になるラリー&アンディ・ウォシャウスキー監督の映画デビュー作である。
物語も舞台構成も単純明快だ。主だった舞台は一つのマンションであり、ほとんどが隣り合った二つの部屋だけで進行する。
おそらく予算的な都合だったのだろう。セットの数は少ないし、登場人物は10人以下。ハリウッドのドル箱俳優は一人も登場しない。
だが物語は綿密に計算して作られ、映画から緊張感が失われる瞬間はない。どのキャラクター達も常に思考し策を練り、予定調和的な展開はなく、物語は二転三転とどこまでも意外な方向に転がっていく。
果たして物語がどんな結末を迎えるのか。最後の瞬間まで目が離せなくなる作品だ。
低予算映画だが、惹き付ける場面が多い。低予算であっても、充分に実力を発揮している。この段階から、誰がどう見てもウォシャウスキーの映画である。映画監督としての才能と実力を見ることのできる映画だ。
画面の構成はシンプルで俳優を冷淡に捉えるが、狙ったように極端なクローズアップカットが挿入される。
カメラの動きは完璧に制御されている。カメラは俳優の動きをなぞるように追跡し、特定のアイテムに接近する。俳優の立ち位置、動きなどはもちろん徹底した完璧主義で、動作も台詞も機械か何かのようにコントロールされている。
時にカメラは信じられない動きを見せ、カメラマンの存在を忘れさせてしまう。
何もかもが、ウォシャウスキー監督のスタイルである。ウォシャウスキー兄弟は監督デビュー作であるのに関わらず、自分の個性を完璧に理解し、低予算だが自身のスタイルを決して曲げず作品を描いている。
“ウォシャウスキー監督は、初めからウォシャウスキー監督だった”と言うべきだろう。
シンプルでいながら映画の力点をよく理解し、観客をひきつける方法も充分に知っている。
映画作りに必要なバランス感覚の良さ、聡明さ、一目で誰が制作したかわかるスタイル。『バウンド』はウォシャウスキー兄弟の基礎的な能力が妥協なく発現された作品である。
映画記事一覧
作品データ
監督・脚本・製作総指揮:アンディ・ウォシャウスキー ラリー・ウォシャウスキー
音楽:ドン・デイヴィス 撮影:ビル・ポープ
出演:ジェニファー・ティリー ジーナ・ガーション
〇〇○ジョー・パントリアーノ リチャード・サラフィアン
〇〇○ジョン・P・ライアン クリストファー・メローニ
〇〇○バリー・キヴェル ピーター・スペロス
PR