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■2009/09/03 (Thu)
創作小説■
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判】
2
間もなくして、糸色先生の借家が見えてきた。
「では、みなさん。今度こそ、この辺で……」
借家の前までやってくると、糸色先生が私たちを振り返った。その顔が、少しではなくはっきりと引き攣っていた。
「上がっちゃおう、上がっちゃおう! ほら、みんなも」
可符香が明るい声で糸色先生を遮って、その背中を押して敷地の中へ入っていった。
「ああ、ちょっと可符香さん……。」
千里が可符香を引きとめようと手を伸ばす。だけど、
「お邪魔します、先生」
まといが遠慮なく家の敷地内に入っていった。それから、勝ち誇った目で千里を振り向く。
「じゃあ、私もご一緒しちゃおうかな」
私はぴょんと飛び跳ねるように家の敷地に入った。
「ほら、あびるちゃんも、一緒においでよ」
「うん」
可符香がもう帰ろうとしていたあびるの手を引っ張った。あびるは特に意思表示せずに、家の敷地内に入っていった。
「じゃあ、私も~」
藤吉は、ちょっと千里に微笑みかけると、家の敷地に入っていった。
私たちは玄関扉の前に集って、ただ一人残った千里を振り返った。
「もう、みんなったら。私も行く!」
千里は寂しそうな顔をして敷地内に飛び込んできた。藤吉が千里の手を握って迎え入れた。
「じゃあ、ちょっとだけですよ。何もない家ですから、すぐに帰るんですよ」
糸色先生は憂鬱そうな声で言うと、懐から鍵を引っ張り出した。
私たちは、糸色先生の了解を得たと見做して「やった!」と万歳した。
糸色先生が玄関扉に鍵を差し入れた。くるりと一回しして、開錠する。がらがらと玄関扉を開けた。
玄関扉を開けると、狭い靴脱ぎ場が見えた。当り前だけど靴は置かれていない。右横に、靴脱ぎ場と同じサイズの下駄箱が置かれていた。
その先にある廊下はまっすぐ奥まで伸びて、階段に繋がっている。廊下の右手は庭に繋がっているが、今は雨戸が締め切られていた。左手が襖になっていて、多分、居間に繋がっているのだろう。
廊下は全てが締め切られて暗い影を落としていた。糸色先生のイメージどおり、殺風景だけど慎ましやかで清潔な雰囲気があった。
糸色先生が可符香に背中を押され、玄関に入っていった。靴を脱いで、廊下に上がる。私たちも、順番に「お邪魔します」と後に続いていった。
「住み始めたばかりで、本当に何もありませんから。早く帰るんですよ」
糸色先生は私たちに押されながら廊下を進んだ。それからちょっと私たちを振り返って嗜めるようにした。
襖を開けると、中に広々とした居間が現れた。畳敷きで、二間連続している部屋の中央に、欄間が掲げられていた。
その部屋のなかに、死体があった。それも合計で4体。畳の上にごろんと転がしてあった。
私たちは悲鳴を上げた。糸色先生が吹っ飛ぶように雨戸まで下がって尻を突いた。私や千里やまといも、釣られるように一緒にのけぞって座り込んでしまった。
「何、何、何なの?」
私は困惑した顔で、誰かの意見を求めてみんなを振り返った。
「警察よ! 晴美、携帯かして!」
千里がパニックになりかけた声で藤吉を振り向いた。
「うん。あれ、どこに入れたんだっけ?」
藤吉はポケットを探るが、慌てているせいか携帯電話が見付からない。私も携帯電話を探すけど、混乱していて、いつもどこに入れているのかわからなくなってしまった。
「家の電話のほうが早いわ」
まといが立ち上がって、部屋の前まで進んだ。だけど、部屋の入口で足を止めてしまった。死体を前にして、それ以上一歩も進めないみたいだった。
可符香が、何かに気付いたように立ち上がった。可符香はまといの脇を横切って、平気そうに部屋のなかへ入っていった。
「可符香ちゃん、駄目よ!」
私は可符香を引きとめようと声をあげた。でも、腰が抜けて立ち上がれなかった。
可符香は死体の側へ進み、畳に投げ出された腕をぴょんと飛び越え、死体の頭の側に回った。そのうちの一体の前で膝をつくと、死体の顔面をしげしげと覗きこんだ。
「あなた、何をしているの?」
千里が顔を真っ白にして、可符香に声をかけた。
可符香が顔を上げて私を振り返った。
「奈美ちゃん、これ、野沢君だよ」
可符香は、こんな異常事態にも関わらず、いつもの柔らかい声で私に報告した。
「はい?」
絶句だった。
次回 P045 第5章 ドラコニアの屋敷3 を読む
小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
P044 第5章 ドラコニアの屋敷
2
間もなくして、糸色先生の借家が見えてきた。
「では、みなさん。今度こそ、この辺で……」
借家の前までやってくると、糸色先生が私たちを振り返った。その顔が、少しではなくはっきりと引き攣っていた。
「上がっちゃおう、上がっちゃおう! ほら、みんなも」
可符香が明るい声で糸色先生を遮って、その背中を押して敷地の中へ入っていった。
「ああ、ちょっと可符香さん……。」
千里が可符香を引きとめようと手を伸ばす。だけど、
「お邪魔します、先生」
まといが遠慮なく家の敷地内に入っていった。それから、勝ち誇った目で千里を振り向く。
「じゃあ、私もご一緒しちゃおうかな」
私はぴょんと飛び跳ねるように家の敷地に入った。
「ほら、あびるちゃんも、一緒においでよ」
「うん」
可符香がもう帰ろうとしていたあびるの手を引っ張った。あびるは特に意思表示せずに、家の敷地内に入っていった。
「じゃあ、私も~」
藤吉は、ちょっと千里に微笑みかけると、家の敷地に入っていった。
私たちは玄関扉の前に集って、ただ一人残った千里を振り返った。
「もう、みんなったら。私も行く!」
千里は寂しそうな顔をして敷地内に飛び込んできた。藤吉が千里の手を握って迎え入れた。
「じゃあ、ちょっとだけですよ。何もない家ですから、すぐに帰るんですよ」
糸色先生は憂鬱そうな声で言うと、懐から鍵を引っ張り出した。
私たちは、糸色先生の了解を得たと見做して「やった!」と万歳した。
糸色先生が玄関扉に鍵を差し入れた。くるりと一回しして、開錠する。がらがらと玄関扉を開けた。
玄関扉を開けると、狭い靴脱ぎ場が見えた。当り前だけど靴は置かれていない。右横に、靴脱ぎ場と同じサイズの下駄箱が置かれていた。
その先にある廊下はまっすぐ奥まで伸びて、階段に繋がっている。廊下の右手は庭に繋がっているが、今は雨戸が締め切られていた。左手が襖になっていて、多分、居間に繋がっているのだろう。
廊下は全てが締め切られて暗い影を落としていた。糸色先生のイメージどおり、殺風景だけど慎ましやかで清潔な雰囲気があった。
糸色先生が可符香に背中を押され、玄関に入っていった。靴を脱いで、廊下に上がる。私たちも、順番に「お邪魔します」と後に続いていった。
「住み始めたばかりで、本当に何もありませんから。早く帰るんですよ」
糸色先生は私たちに押されながら廊下を進んだ。それからちょっと私たちを振り返って嗜めるようにした。
襖を開けると、中に広々とした居間が現れた。畳敷きで、二間連続している部屋の中央に、欄間が掲げられていた。
その部屋のなかに、死体があった。それも合計で4体。畳の上にごろんと転がしてあった。
私たちは悲鳴を上げた。糸色先生が吹っ飛ぶように雨戸まで下がって尻を突いた。私や千里やまといも、釣られるように一緒にのけぞって座り込んでしまった。
「何、何、何なの?」
私は困惑した顔で、誰かの意見を求めてみんなを振り返った。
「警察よ! 晴美、携帯かして!」
千里がパニックになりかけた声で藤吉を振り向いた。
「うん。あれ、どこに入れたんだっけ?」
藤吉はポケットを探るが、慌てているせいか携帯電話が見付からない。私も携帯電話を探すけど、混乱していて、いつもどこに入れているのかわからなくなってしまった。
「家の電話のほうが早いわ」
まといが立ち上がって、部屋の前まで進んだ。だけど、部屋の入口で足を止めてしまった。死体を前にして、それ以上一歩も進めないみたいだった。
可符香が、何かに気付いたように立ち上がった。可符香はまといの脇を横切って、平気そうに部屋のなかへ入っていった。
「可符香ちゃん、駄目よ!」
私は可符香を引きとめようと声をあげた。でも、腰が抜けて立ち上がれなかった。
可符香は死体の側へ進み、畳に投げ出された腕をぴょんと飛び越え、死体の頭の側に回った。そのうちの一体の前で膝をつくと、死体の顔面をしげしげと覗きこんだ。
「あなた、何をしているの?」
千里が顔を真っ白にして、可符香に声をかけた。
可符香が顔を上げて私を振り返った。
「奈美ちゃん、これ、野沢君だよ」
可符香は、こんな異常事態にも関わらず、いつもの柔らかい声で私に報告した。
「はい?」
絶句だった。
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小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
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