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■2016/07/14 (Thu)
創作小説■
第14章 最後の戦い
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14
オークは南東の方角に進路を向けて、1人で走り続けた。険しい谷を抜け、不通の森を横断した。その間、一度も休息を取らなかった。食事も睡眠も摂らなかった。食べ物も休息も、オークにはもう不要のものだった。雨は降り止まず、次第に勢いをつけていった。3日目に入ると、土砂降りの猛雨に変わった。
そんな日の夜、オークは報告で聞いていた、ジオーレの陣営へと辿り着いた。
居場所を探すまでもなかった。悪魔の王が目印になった。広い平野に、都市建設の着工準備が進められていた。すでに基礎の工事を終えて、目抜き通りが中央を貫き、家屋の形がおぼろげに見えつつあった。労働者はクロースに改宗させられた地元の農民達に押しつけられていた。その様子は奴隷そのものといった体で、鞭で叩かれながら、労働に従事していた。平野の東側を見ると、農民達が檻に入れられていた。彼らには、住居すら与えられていないのだ。
神官達が杖で辺りを眩しいまでの光で照らしている。悪魔の王を除く、6体の悪魔も強制労働に参加させられていた。
建設予定地に立ち入っていくのは、困難に思えた。広い敷地には高い柵が張り巡らされていたし、見張りが行き交っている。夜になっても、神官達の杖が、闇を明るく照らしていた。
しかし土砂降りの雨がオークに味方をした。忍び入るのは今しかなかった。
オークは柵の陰に隠れて、見張りを何人か密かに斬り殺し、草むらに身を潜めながら侵入した。労働者の列の中に紛れ込むと、鞭を振り上げる兵士を斬り殺す。
しばらくして、異変に気付いた兵士達が騒ぎ始めた。侵入者に気付き、警戒した。間もなくオークの存在に気付き、指をさし「あれだ!」と叫んで殺到した。
その一方、オークが現れるのに人々は奮起した。人々の反抗心が、ここで一気に火が点いた。兵に取り囲まれるオークを救い出し、自分たちに鞭を振るう兵士に襲いかかり、さらに檻に閉じ込められている多くの仲間達を解放した。
奴隷達の反撃が始まった。
農民達は武器を持っていなかった。だが数でクロース達を圧倒した。農民達はクロース達を取り囲み、拳と石で撲殺した。その勢いに恐れをなして、クロース兵達が逃げていく。
奴隷達の反逆は凄まじく、クロースの勢力を瞬く間に崩壊させ、建設中だった街も次々と破壊していく。
しかし悪魔が農民達の前に立ち塞がった。雨の降る闇の中、悪魔の目が不気味に輝いていた。悪魔の攻撃に、農民達の形勢は瞬く間に一転して、人々は烏合の衆となって四散した。
ジオーレ
「何の騒ぎだ! 早く鎮めよ。奴隷どもに何を手こずっておるか」
ジオーレの檄が飛ぶ。僧侶達が杖を光らせて、悪魔達に命令を与える。
ジオーレはその様子を眺めながら、ふと向こうの闇の中で、馬がいななくのを聞いた。見ると、暗闇に、白い馬が鬣を揺らしながら走っているのが見えた。
ジオーレ
「1人か? そんなはずはあるまい。仲間がいるはずだ。あいつを捕らえよ。知っている情報はすべて吸い出すのだ」
クロース陣営は大わらわで行動を開始した。杖に光を宿らせ、6体の悪魔が粛正に乗り出した。
悪魔の脅威に、人々は悲鳴を上げて、潮を引くように散り散りになっていく。
が、その波を割るように、騎馬が一騎、猛然と飛び出した。悪魔達は騎馬を止められなかった。騎馬は恐るべき速度で走り抜け、一気に後方の神官達がいる場所へと飛び込んでいった。
神官
「何をしている! 奴を轢き潰せ!」
僧侶が怒鳴って、杖の光を悪魔に向けた。
それが油断となった。
騎馬が迫った。オークだ。オークは神官の首を叩き落とした。
この直後だ。悪魔が唸り声を上げた。それに呼応して、悪魔達が順々に声を上げた。まるで会話するように声を合わせ、その最後に悪魔の王が声を上げた。
しんと声がやんだ。悪魔達は申し合わせたように、それぞれの足下にいる神官達に反逆した。神官達を拳で叩き潰し、尻尾で薙ぎ払った。
神官達は杖の光を悪魔達に向けた。悪魔は光の前で怯むものの、絶妙な連携で次々と神官達を殺していった。
ジオーレ
「何をしている! 悪魔達はわれらの下僕だぞ! 何も恐れることはない!」
慌てたジオーレが声を上げた。
しかし神官達は次々と殺されていった。杖から光が失われる。
ついに、すべての神官が殺されてしまった。辺りから光が消えて、暗闇の中に雨の音が際立った。暗闇の中で、悪魔達が本来の力を取り戻したというように、異様な迫力を持ち始めた。
悪魔の王が自由を取り戻した。悪魔の王が唸り声を上げた。悪魔達が一斉にジオーレを振り返った。ジオーレを追い詰めようと、にじり寄る。
ジオーレ
「ふん、馬鹿者め。この偉大なる私に逆らうつもりか。ホーリー!」
ジオーレの杖から際立った光が放たれた。太陽の光だ。悪魔達はジオーレの光の近付けず、のけぞった。悪魔の王ですら光の強さに悲鳴を上げて近付けなかった。全身にまとっていた闇の衣が、四方に散った。
ジオーレ
「フハハハハハハ! どうだ思い知ったか! これで誰がお前達の主かわかっただろう。全てのものは私の前に跪け! 我こそは、世界の王に相応しい男だぞ! 私は神になる男だ!」
ジオーレが勝利を確信した笑い声を上げる。
その時、何かが現れた。闇を縫って突然、飛び出してきた。悪魔達に較べてあまりにも小さな気配だったので、ジオーレはぎりぎりまでその接近に気付かなかった。
オークだった。
ジオーレがはっと振り返った時には遅かった。闇夜に、ダーンウィンの刃が赤く輝いていた。
ジオーレは、信じられないという何かを感じていた。あり得ない何かが起きていると感じていた。
オークは疾風の如く駆け抜けた。
光が失われた。杖を握っていた拳が、草の上に落ちた。ダーンウィンはジオーレの拳ごと切断したのだ。
ジオーレ
「…………」
ジオーレが茫然と足下に転がる自分の掌を見ていた。
頭上に気配が迫る。顔を上げると、真っ暗闇が覆っていた。真っ暗闇の中に、いくつもの目玉が浮かんでいた。6体の悪魔が迫り、覗き込んでいたのだ。
ジオーレ
「……スクリブナーはどこだ! これから遺言を残すぞ! イエス・キリストに匹敵する偉大な聖人が言葉を残すんだぞ! スクリブナーはどこだぁぁぁぁぁ!」
悪魔の王が、巨大な足を振り上げ、一気に叩き落とした。ジオーレの体がぺしゃりと潰れた。骨が砕けて、肉が四散し、臓物が飛び散った。
オーク
「黒の貴公子は、再びこの世を去った……」
オークはその様子を眺めながら、1人呟いた。
悪魔の王は、再び声を上げた。悪魔達が、悪魔の王に応じた。自由を得た、歓喜の声だった。獣たちが声を合わせて、喜びを分かち合っていた。
それもやがて終えると、悪魔の王は東へと進路を定めた。言うまでもなく、キール・ブリシュトの方向だった。
オークも馬首をキール・ブリシュトの方向に向けた。最後の戦いに挑むために、駆け出していった。
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