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■2016/06/23 (Thu)
創作小説■
第7章 Art Loss Register
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9
国分駅を出ると、目の前に広い道路が現れた。4車線の幅のある道路だった。車の量は多い。ちょうどよく信号が青になっていた。雨はもうやみかけていたけど、風が強かった。水たまりもあちこちにできていて、灰色の空を映していた。
ツグミは寒いと感じなかった。寒さを感じないくらい、体が熱くなっていた。心臓が追い立てるように、早く胸を叩いていた。
すぐにヒナは、車道に何か見付けた様子で指さした。
ツグミは車道の向こう側に目を向けた。向かいの歩道に、バスの停留所があった。左の横断歩道の前でバスが停まっていた。
信号が点滅を始めた。ツグミとヒナは横断歩道に飛び出した。
ヒナの速度は早くはなかったけど、ツグミの脚には無茶なペースだった。白く舗装された歩道で滑りそうだった。ツグミは右脚と杖だけで、飛び跳ねるようにしてヒナに従いていった。
横断歩道を渡りきったところで、信号が赤に変わった。渡りきってツグミは後ろを振り返った。さっきの男が横断歩道の向こう側に立っているのが見えた。こちらをじっと見詰めて、横断歩道に飛び出そうかと迷っている様子だった。
車道の車が一斉に動き始めた。おかげで男を留まらせた。
バスも動き始めた。バスは横断歩道向こうの停留所を目指して、ゆっくり進み始める。
ツグミとヒナが停留場に辿り着くのと同じタイミングで、バスも到着した。
バスの後部が開いた。ヒナが先頭に立って、バスに乗り込んだ。ツグミも乗り込もうとしたが、高い段差に脚を引っ掛けてしまった。
ヒナがとっさにツグミを支えてくれた。ツグミの脚はもう消耗しきっていて、思うように上がってくれなかった。
バスに乗り込むと整理券を取った。それから一番後ろの座席に、並んで座った。
バスはツグミとヒナが座るのを待って、扉を閉めた。ゆっくりとバスがスタートする。
ツグミは、バスの天井を仰いで、大きく息を吸い込んだ。急に座ったせいか、体の力がすーっと抜けるような気がした。
呼吸を整えるより先に、ツグミは後ろの窓を振り返った。横断歩道の向こう側で、あの男が立っているのが見えた。どこかに携帯電話を掛けているようだった。
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目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
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