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■2016/06/22 (Wed)
創作小説■
第14章 最後の戦い
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3
籠城戦はすでに42日目に入っていた。大パンテオンは早くからクロース軍の侵略を察知して準備をしていた。しかしパンテオン側の戦士が多くが急ごしらえのにわか兵士だったのに対して、クロース軍は訓練の行き届いた兵士達だった。それに彼らは、最強の流浪騎士団を味方に加えていた。パンテオン側の防衛線は次々と突破されていき、華やかな繁華街は徹底的に破壊され、陵辱され、地獄絵図に変えられた。
パンテオンの孤軍奮闘は続いた。絶望的な戦いだったが、人々は希望を見失わず戦い続けた。
それでもパンテオンの軍勢はじりじりと後方に押しのけられていく。クロース軍はそこに至るまでの建築物やモニュメントを1つ1つ破壊していった。捕らえた捕虜は、見せしめで処刑された。クロースの兵士に慈悲はなく、彼らは目に映るものなら何でも斬り殺し、あちこちにおぞましい死体の山を築き上げた。
老師
「……まだ彼らに祈りの言葉を与えていません。きっと彼らの魂は、異教の神に捕らえられ、苦しんでいることでしょう。戦えない街の人達は、この山のさらに奥に隠れさせています。しかし、いつまで持つか……」
ソフィー
「そんな状況だったとは……。申し訳ありません。もっと早く加勢に駆けつけるべきでした」
老師
「構わん。国中が夷狄に蹂躙されておる。みんな自分たちの守りで精一杯じゃろう。さあ、今度はお前達が話しておくれ。大パンテオンの外で、いったい何が起きているのか……」
ソフィー
「――はい」
ソフィーはこれまでの経緯を話した。手短に、それでいて過不足なく。悪魔の王の復活、セシル王の死、オークの戴冠を……。
老師
「そうか……。セシル様……」
老師は悲しげに目を伏せた。
ソフィー
「でも最後の王統の者がここにおります。ダーンウィンが証明してくれました」
老師
「そうか……。そなたは普通の生まれの者ではないと思っていましたが……。若き王よ、偉大なる王よ。ブリデンへの城の譲渡とは、よくぞ決心なされた。覚悟のいる決断です」
オーク
「いいえ。私が王になった時には、すでに選択肢がなかった。それだけでございます」
老師
「そなたは運命を受け入れながら生きております。この時代にしなければならないことをよく理解しております。それは賢君の証でございます」
オーク
「恐れ入ります」
その時、兵士が駆け込んできた。ありあわせの鎧を身につけた、にわか兵士だった。
兵士
「申し上げます! 2合目が陥落しました。クロース軍の本陣がいよいよ動きます!」
オーク達はそこから下界を見下ろした。大軍勢が、大パンテオンの麓に押し寄せようとしていた。死体を掻き分けて、兵達を散開させ、山の斜面を登ってくる。僧兵達が戦いに応じていた。
老師
「敵の数は尽きることはない。兵の数も、矢の数も。まるで無間地獄を夢に見ているようだ」
オーク
「まだ終わりではありません。――まだ」
オークは老師達に挨拶を済ませると、石段を駆け下り、戦いの中に加わっていった。
老師
「あの者――鬼神が憑いておる」
ソフィー
「あの方は失おうとするもののために戦っております。この国の王として。きっと、最後の1人でも戦うでしょう」
老師
「…………」
ソフィー
「老師様。手を貸してください。大魔法を使います」
老師
「うむ」
老師には美しき才女の横顔に、鬼神がちらつくのが見えた。
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