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■2016/06/28 (Tue)
第14章 最後の戦い

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 戦いは一時もとどまらず、戦士達は休みなく剣を振るい続けた。戦局は3合目の入口で、一進一退を繰り返したまま、それ以上に展開はなく、ただ兵の数を減らしていった。
 やがて夕暮れが迫り、黄昏の光が戦場に降り注いだ。修羅に光が溢れる。夜の闇が背後に迫り、葉の色が赤く燃えて際立つ。戦場を包む火煙もぎらついた赤色を浮かべていた。
 火煙の膜を突き破って、兵士達が突撃を繰り返す。一歩も譲らないスクラムとなり、その様子が、目が覚めるような一塊の黄金色となって輝いていた。

 誰もが経験のない戦いの狂乱と混乱に、現実的な感覚は後退していく。黄金色の光に不思議とその場所が、異界と直接結びついているような、そんな錯覚に陥らせた。戦士達はことごとくその向こうに口を開く無間地獄へと落ちて、死と痛みが、狂気と美で彩られる世界の一端を体験していた。誰も彼も、現実としての我を失い、殺戮に身を投じ、殺戮者そのものになっていた。

 矢が飛んだ。アステリクスの胸に、矢が刺さる。

オーク
「アステリクス!」

 アステリクスが膝を着いた。その手から剣が落ち、目から生気が失われる。
 オークは群がる兵士を豪腕で押しのけると、アステリクスを射た弓兵に迫り、凄まじい一撃を食らわせた。弓兵は頭を砕かれて絶命した。
 オークはアステリクスの許に駆けつけた。その体を抱き上げて、後方の僧侶達のいるテントへと運んだ。テントの下には何人もの負傷兵達が治療を受けていた。

オーク
「アステリクスがやられた! 頼む」

 オークは僧侶の前にアステリクスの体を置く。
 僧侶もすぐにアステリクスを診ようとした。しかし――。

僧侶
「死んでおります」
オーク
「何?」
僧侶
「死んでおります」
オーク
「…………」

 見れば明らかだった。矢は心臓を捉え、腹部が引き裂かれ臓物がたれている。死んでいるのは明らかだった。
 ようやく気付いたオークは、拳を振り上げ、自分の頭を叩いた。
 それから立ち上がり、戦場に戻ろうとしたが、足下がぐらついた。

僧侶
「殿! 怪我しておいでです。治療を」

 見るまでもなく、オーク自身、全身を斬られてあちこちから血を吹き出させていた。すでに出血量は相当のもので、鎧の下に着込んでいる服が真っ黒に染まっている。しかしオークは言われるまで、自身の負傷に気付いていなかった。
 オークは僧侶が引き留めるのを無視して、戦場に戻った。戦場に戻ると、黄金色の光は消えて、日没前の青い光が漂っていた。戦いの騒乱は変わらず続き、オークはその中に飛び込んでいくと、重傷とは思えない豪腕で次々と敵を薙ぎ倒していった。
 やがて夜の帳が下りて、松明の明かりが浮かび上がる。燃え上がる木々が、闇の中で激しく踊り狂っていた。兵士達は暗がりの中で蠢き、殺し合いを続けた。その姿が、魑魅魍魎の獣のように映る。
 オークの視界は、次第に遠ざかっていった。何もかもが遠くに感じられるようになり、ここではないどこかへ、異界に足を踏み入れていく感覚に囚われていた。意識が朦朧として、すでに太陽の光はないのに、不思議と周囲をキラキラとした光が取り巻いているのを感じた。
 あれは人魂だろうか……それとも妖精達だろうか。
 不意に、痛みを感じた。矢の一撃を受けていた。オークは膝を着いた。
 目の前に兵士が現れる。剣を振り上げていた。
 これは夢か現実か――。
 オークは剣を振り払った。目の前の刃をはねのけ、さらに兵士の首を叩き落とした。
 私は何を失おうとしているのか――。
 敵が次々と群がってきた。大将の首を取ろうと、敵はオークを狙ってくる。
 ここはどこだ――。
 しかしオークの視界から、兵士の姿はふっと消えてしまった。オークは混沌の中を、孤独に歩いていた。
 私は何を失った――。
 その手から剣が落ちた。
 古里か? 国か? それとも、私自身か――。

 オークは古里の風景を見ていた。
 子供の頃の風景だった。泥だらけになって、川辺で戯れていた。
 友人達の声が辺りを満たしている。穏やかなせせらぎが周囲を包んでいた。

 衝撃が体を貫いた。敵兵の剣が、オークの背中を叩いたのだ。
 感覚が遠ざかっていく。いや、倒れようとしているのだ。しかしオークは、全ての感覚が奇妙に浮遊するのを体験していた。
 ふと気付くと、辺りから人の姿は消えて、妖精が取り巻いていた。その中でオークは一人きりで倒れていた。

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