■ 最新記事
(08/15)
(08/14)
(08/13)
(08/12)
(08/11)
(08/10)
(08/09)
(08/08)
(08/07)
(08/06)
■ カテゴリー
お探し記事は【記事一覧 索引】が便利です。
■2016/05/28 (Sat)
創作小説■
第6章 イコノロギア
前回を読む
16
岡山で手に入れた絵に、貸金庫のカードが隠されていた。そこで貸金庫に行き、『川村鴒爾』の署名が入った絵を発見した。しかし宮川に奪われるのを警戒して、絵を燃やしてしまった。だから、こうして自分が再現した……。
ヒナも光太も、ツグミの話を静かに聞いてくれた。
なのに、ツグミ自身は次第に自信がなくなってきた。自分が場違いな話をしているのではないか、と不安になってきた。
「叔父さん、これって、やっぱり……」
ツグミが話を終えると、すぐにヒナが光太を振り返った。
「うん。ちょっと見、ひどい絵やけど。ちょう待っとってな」
光太はツグミに断って、立ち上がった。光太はアトリエ隅に置かれた作業机に着くと、そのまま何か描き始めた。
ヒナは自分と光太のコーヒーカップを持って、1度アトリエから出て行った。ツグミはまだコーヒーに手を付けてなかった。
アトリエは急に張り詰めた空気に変わった。ツグミは居心地が悪くて、落ち着こうと思いコーヒーを啜った。さすがに冷めたくなっていた。
ヒナは20分近く経ってから、コーヒーを手にアトリエに戻ってきた。ツグミは新しく供給されたコーヒーに、角砂糖と5個放り込む。
それにしても、ヒナと光太はツグミの絵を見て何を思ったのだろう。ツグミは自分だけ仲間外れにされた気分だった。
さらに10分後、光太は作業机のライトを消して、さっきまで描いていた絵を手に戻ってきた。
「ツグミ。これ、何かわかるか」
光太は持ってきた絵を、ツグミの前で広げて見せた。
「え! 何で?」
ツグミは、驚きのあまりヒナを押しのけて、飛びついてしまった。
貸金庫で見た、あの絵に違いなかった。もちろん細かいところで違う。光太の絵は色が付いていないし、鉛筆画だ。それでも、川村の絵を完璧というほどに再現していた。
「でも、どうして? 叔父さん、川村さんの絵、どっかで見たんですか?」
ツグミは光太を見上げた。まだどういう状況なのか、さっぱりわからなかった。
光太はツグミとヒナの向かい側に座り、説明する態勢に入った。
「いや、違う。川村の絵は知らん。ツグミの描いた絵な、位置関係が正確やったんや。ただ技術がまったくない。だから線が潰れて、訳のわからん絵になってしまうんや。それで俺は、『恐らく、ここはこうしたかったんとちゃうんか』と考えながら、正しいデッサンを当て填めただけや。するとそういう絵になった。それだけや」
光太はテーブルの上に、ツグミの絵と光太が再現させてみせた絵を並ばせて、解説した。
次回を読む
目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです
PR