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■2016/05/28 (Sat)
第6章 イコノロギア

前回を読む

16
 岡山で手に入れた絵に、貸金庫のカードが隠されていた。そこで貸金庫に行き、『川村鴒爾』の署名が入った絵を発見した。
 しかし宮川に奪われるのを警戒して、絵を燃やしてしまった。だから、こうして自分が再現した……。
 ヒナも光太も、ツグミの話を静かに聞いてくれた。
 なのに、ツグミ自身は次第に自信がなくなってきた。自分が場違いな話をしているのではないか、と不安になってきた。
「叔父さん、これって、やっぱり……」
 ツグミが話を終えると、すぐにヒナが光太を振り返った。
「うん。ちょっと見、ひどい絵やけど。ちょう待っとってな」
 光太はツグミに断って、立ち上がった。光太はアトリエ隅に置かれた作業机に着くと、そのまま何か描き始めた。
 ヒナは自分と光太のコーヒーカップを持って、1度アトリエから出て行った。ツグミはまだコーヒーに手を付けてなかった。
 アトリエは急に張り詰めた空気に変わった。ツグミは居心地が悪くて、落ち着こうと思いコーヒーを啜った。さすがに冷めたくなっていた。
 ヒナは20分近く経ってから、コーヒーを手にアトリエに戻ってきた。ツグミは新しく供給されたコーヒーに、角砂糖と5個放り込む。
 それにしても、ヒナと光太はツグミの絵を見て何を思ったのだろう。ツグミは自分だけ仲間外れにされた気分だった。
 さらに10分後、光太は作業机のライトを消して、さっきまで描いていた絵を手に戻ってきた。
「ツグミ。これ、何かわかるか」
 光太は持ってきた絵を、ツグミの前で広げて見せた。
「え! 何で?」
 ツグミは、驚きのあまりヒナを押しのけて、飛びついてしまった。
 貸金庫で見た、あの絵に違いなかった。もちろん細かいところで違う。光太の絵は色が付いていないし、鉛筆画だ。それでも、川村の絵を完璧というほどに再現していた。
「でも、どうして? 叔父さん、川村さんの絵、どっかで見たんですか?」
 ツグミは光太を見上げた。まだどういう状況なのか、さっぱりわからなかった。
 光太はツグミとヒナの向かい側に座り、説明する態勢に入った。
「いや、違う。川村の絵は知らん。ツグミの描いた絵な、位置関係が正確やったんや。ただ技術がまったくない。だから線が潰れて、訳のわからん絵になってしまうんや。それで俺は、『恐らく、ここはこうしたかったんとちゃうんか』と考えながら、正しいデッサンを当て填めただけや。するとそういう絵になった。それだけや」
 光太はテーブルの上に、ツグミの絵と光太が再現させてみせた絵を並ばせて、解説した。

次回を読む

目次

※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです

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