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■2016/05/24 (Tue)
第6章 イコノロギア

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14
 時計はもう深夜3時に近くなっている。しかしツグミは眠いとは思わなかった。むしろ時間が経つにつれて、気分が冴え渡るのを感じた。もっと川村について知りたかった。
「それで叔父さん。川村さんは、私のお父さんとどんなふうに出遭ったんですか」
 話がとりとめなくなりそうだったので、ヒナがうまい具合に軌道修正した。
「1999年だったな。春の終わり頃に、太一から電話があって。どうしても描いてほしい絵の仕事があるって。でもその時、俺は映画の仕事を抱えていて、暇がなかったんや。だから、代わりに川村を行かせたんや。『話を聞いたら、断ってすぐに戻って来い』って言ってな」
 光太にとっては、まだ笑顔で話せる思い出らしかった。ちなみにその仕事は、川村も関わったアニメ映画『完璧な青』の後の話だった。
「叔父さん、お父さんと仲が悪かったんですか?」
 ツグミは光太の言い草に、ふと気になるものを感じた。ツグミに指摘されて、光太は「しまった」という感じに顔を歪めた。
「うん、悪かった。あの頃、太一は物騒な連中を付き合って、犯罪まがいの何かをやっていると思っていたからな。あんなもん、美術家の生き方違うって。今にして思うと、美術の業界はバブルが弾けて以来、苦しんどったやろ。まともな商売で、食っていけるはずがなかったんや。あいつの場合、娘を3人も抱えていたから……」
 光太は言いながら、また「しまった」と顔を歪めた。
 ツグミとヒナが顔を見合わせた。ヒナの顔が悲しげだった。「自分のために、お父さんは……」という感じだった。
 ツグミも自分の父親の悪口なんて、聞きたくなかった。「娘のためだった」と注釈を加えられても、やはり嫌だった。
「その1年後ですよね。お父さんが誘拐されたの。川村さんとはどうなったんですか。会ったりしなかったんですか」
 ヒナは光太の失言についてはあえて指摘せず、話を進ませた。
 光太は一瞬、ホッとした顔になった。それから考えるふうにうつむいた。
「一度だけ、電話をくれたな。太一が誘拐された後や。俺は『何があったんだ』って聞いたんや。するとあいつは、『レンブラントの絵を、頼みます』って。それが、最後やったな。それきり行方不明や」
 光太は背を少し丸めるようにして、台詞の1つ1つを思い出すようにしながら、話した。
「『レンブラント』ですか? 『フェルメール』ではなくて?」
 ツグミは何か引っ掛かるような気がして、質問した。勘違いだろうか。
「うん、確かにあいつはレンブラントって言ったで。そんなん言われても、って感じやったけどな」
 しかし光太は、疑問点には気付かないようだった。

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目次

※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです

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