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■2016/02/29 (Mon)
第10章 クロースの軍団

前回を読む
 秘密の里を、クロースの大軍勢が占拠していた。村の西側の墓地に軍団が集まり、矢の応酬が始まっている。祠はすでに破壊され、瓦礫の下からゴーレムが姿を現していた。クロース兵がゴーレムと戦う。
 戦場には、すでに多くの兵士が骸になって転がっていた。その中に、赤毛のクワンの死体も混じっていた。

兵士
「弓矢は効かん! 白兵戦だ! 斧やハンマーを使え!」

 号令が飛んだ。ようやく矢の攻撃が終わり、兵士達が手に武器を持って突撃した。ゴーレムが向かってくるクロース兵を、石の剣でなぎ払う。人間の2倍もある太い腕が、向かってくる兵士を次々と跳ね飛ばしていく。
 それでも兵士達は果敢に立ち向かい、ハンマーでゴーレムの体を削っていく。強靱な石の体は、少しずつ削られていく。
 そんな戦いを、ジオーレが遠くから見ていた。

ジオーレ
「北の魔女め。厄介な罠を作りおって……」

 ジオーレの背後に、ステラがいた。両腕が縛られた状態で、両膝をついていた。
 村の東側も戦闘の後で、すでに壊滅状態だった。通りに人々の死体が転がり、家は今まさに燃え上がっているところだった。

ステラ
「お前ら、無事で済むと思うな。ここは誇り高き戦士の国だぞ。お前のような神様に頼ってばかりの腑抜けが、生きて帰れるとは思うな」
ジオーレ
「貴様、我が神を愚弄するのか。我らの神に敬意を持たぬ人間が、力を得るわけがない。知恵を得るわけがない。貴様らの知恵も言葉も、邪悪な霊の囁きから作られたものだ。ならばその全てを破壊するのは、尊き使命ではないか」
ステラ
「貴様らの盲な神など滅んでしまえ。神を敬う前にそこに住む者に敬意を払え! 土地に宿る神の声に耳を傾けよ! 土や森の声を聞かぬ者は、遠からず我が身を滅ぼすぞ!」
ジオーレ
「愚かな蛮族共よ。いまだ文明の光を知らず、森の悪霊に隷属するか。我々は哀れなお前達に、理性の光を与えに来たのだ。それは真の自由だ! 人間が森や大地などという野蛮から解放され、人間本来の自由を得るのだ。それを成し得るのは、我らの神だけだ!」

 ステラが飛びついた。ジオーレに食らいつこうとする。
 だが側に控えていた兵士がステラを押し留めた。

兵士
「殺しましょう。この者達に神の教えは届きません」
ジオーレ
「そうだな。……いや、待て」

 ジオーレはステラの腕を掴んだ。ステラは抵抗して腕を引っ込めようとした。兵士達がステラの体を押さえつける。ジオーレがステラの体を掴み、無理やり腕を引っ張り上げた。袖が捲れあがり、腕に巻き付けていた金の飾りが現れる。

ジオーレ
「これは古い文献で見たぞ。滅亡した東の王族が継承する金の道具。そうか、貴様があの王国の継承者か」

 ジオーレがステラの腕を放す。ステラが腕を引っ込め、目を背けた。

ジオーレ
「なるほど、謎が解けたぞ。だからここで秘密の里を築き、隠れていたわけだ。だが運命は再び同じ道を歩む。貴様らは、やはり滅ぼされるのだ。あの時と同じように。我らの手で」
ステラ
「殺してやる……殺してやるぞ!」
兵士
「ジオーレ様」

 兵士が剣を抜き、刃をステラの首に当てる。

ジオーレ
「待て。王女がいるということは、それに従う騎士達がいるはずだ。王女を人質に持っていれば、必ず役に立つ」
兵士
「はっ」

 兵士が刃を引っ込めた。
 どうやら戦いは終わったようだ。兵士達の攻撃で、ゴーレムの体が崩され、ばらばらになり、ついに動かなくなってしまった。その体に込められた魔力が、光の粒となって辺りに散っていく。
 兵士が勝利の歓声を上げた。ただちに兵士達が祠の奥に入っていき、魔法の杖を手に入れてジオーレのところに運ぶ。

兵士
「魔法の杖でございます」
ジオーレ
「よくやった」
兵士
「なんという霊気……。神の力を持たぬ私にでも、体に感じるものがあります。しかし、これにはいったいどんな力が……」
ジオーレ
「これには途方もなく偉大な力が込められている。かつて東の王国を繁栄させ、多くの王がこの力を欲した。だが我らこそ、この杖を持つべきだったのだ。この力は、偉大な神にこそ捧げられるべきで、そして我が手に渡った。これは運命なのだ。この杖に込められているのは、『太陽の輝き』だ! ホーリー!」

 ジオーレが呪文を唱えた。杖の先が真っ白に輝く。あまりの眩しさに、周囲の何もかもが真っ白に包まれた。

兵士
「おお、何と素晴らしい。何と眩い! これこそ神の奇跡だ!」

 そこに、兵士が駆けてくる。

兵士
「ジオーレ様! 申し上げます。城に潜入したウァシオからです。障壁は全て取り除かれた。兵を連れて進軍せよ、と」
ジオーレ
「いよいよか。行くぞ! 我がクロースの栄光が今こそ始まるのだ!」

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