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■2016/02/26 (Fri)
第6章 フェイク

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10
 何もしないまま、1時を回った。ふと妻鳥画廊のガラス戸の前に、誰かが立った。暖簾がかかっていたけど、逆光になっているので姿がくっきり写った。もじゃもじゃした髪を肩にかけた、小柄の女性のシルエットだった。
 ピンポーンとインターホンを鳴らす。
「はい」
 ツグミは返事をして、杖を手に立ち上がる。反射的にだったけど、ガラス戸に写ったシルエットに覚えがあるような気がした。
「ツグミちゃん? 私。いま忙しいん?」
 聞き覚えのあるおっとりした声が、ガラス戸の向こうから聞こえてくる。シルエットが画廊を覗き込もうとするようにガラス戸に顔を寄せた。
「かな恵さん」
 ツグミはやっぱり、と思ってほっとした。高田には「知り合いです」と伝えた。
 ツグミは杖を突いてガラス戸の前へ行くと、ロックを解除した。暖簾を描き上げて、ガラス戸を開ける。
 その向こうに現れたのは掛橋かな恵だった。胸に、板状の包みを抱えるように持っていた。わかっていたけど、ツグミはその顔を見て、気持ちが安らぐような気がした。
 かな恵はツグミにちょっと会釈すると、暖簾をくぐるようにして画廊に入ってきた。それから、画廊の中にいる三白眼の女性を見て、あっと口元を押さえた。
「ごめぇん、接客中やったんやねぇ。外で待っとくわぁ」
 かな恵はそう言って、高田に会釈する。高田も席を立って、かな恵に会釈した。
「あ、あの、そうじゃなくて……。この人、アルバイトなんです」
 ツグミは慌ててしまって、あり得ない話をしてしまった。コルリが誘拐されて、警察の人が来ているなんて、かな恵を巻き込むみたいで言いたくなかった。
 かな恵は、ツグミと高田を交互に見て、「え? え?」と声を上げた。さらに感心したように「へえ……」と高田をじっと見詰める。高田はかな恵に見られるたびに、会釈していた。
 ツグミは、後ろめたく感じた。「嘘ついてごめんなさい」と頭を下げたかったけど、ついにそのタイミングが見出せなかった。
「あの、それでかな恵さん……。あっ、絵を引き取りに来たんですね」
 ツグミは壁に掛けている『雨合羽の少女』の前に進もうとした。
「ああ、違うねん。欲しいけど、今日はちょっと……これを……」
 かな恵は言い出しにくそうにしながら、手に持っているものを差し出した。その時、ちらと高田のほうを見る。
 ツグミは何だろう、とかな恵が差し出したものを受け取った。緑の包みが被せられた、板状のものだ。開けるまでもなく、絵画だとわかった。ツグミが絵画を手に取ると、かな恵が包みを解いた。
 現れたのは3号のキャンバス。描かれていたのは、ニコラ・プッサン(※)の『アルカディアの牧人たち』の絵だった。3人の牧人が、墓石の前に集まっている。3人の牧人は、不思議なものを見つけたというような所作と顔で、墓石を覗き込んでいる。
「これは……」
 ツグミは、どういうことだろう、とかな恵を見上げた。
 明らかに模写だった。しかも、描いたのは掛橋かな恵だ。模写だけど、かな恵らしいおだやかさがあちこちに個性として現れている。色彩も、ニコラ・プッサンの厳格さというより、どこかしらぬくもりがある。ツグミじゃなくても、他の鑑定士が見てもかな恵の模写だと断じただろう。それくらいにかな恵の個性が現れていた。
 ツグミはかな恵の意図が読めず、不思議な心地でその顔を見上げた。
「あの、この絵な、美術館で内緒で手に入れたやつなんやぁ。だから、贋物だったら、ちょっとまずくて……。だから、なっ、ツグミちゃんにお願いしたいんやけど……」
 かな恵は声を潜めながら、何度もちらちらとツグミと絵を交互に見ていた。何かしら、言外に別の意味を含ませているみたいだった。
 ツグミは何だろう、と思ってもう一度、『アルカディアの牧人たち』の絵に目を向けた。すると、墓石のところ、本来「われ、アルカディアにあり」という意味のラテン語の碑文が描かれているところに、英語で「I hide here」と書かれていた。「われ、ここに隠す」だ。もちろん、墓石に刻まれているような質感で。
 ツグミはますます訳がわからなくなって、首を傾げてかな恵を見上げた。かな恵の顔も、もどかしいものが浮かび上がっていた。
「あ、あの、だから、秘密でお願いしたいんやぁ。ツグミちゃんにしかこういうのお願いできなくて。その……中のほうもしっかり見てくれるの、ツグミちゃんしかおらへんから」
 かな恵は困ったみたいな顔をして、しどろもどろな説明を始める。
「はあ……。それじゃ、これはお預かりしますね。あの……」
「内緒」
 かな恵は口元を隠して、ツグミだけに言うようにした。ツグミはまた「はあ……」とぽかんとする返事をした。

※ ニコラ・プッサン 1594~1665年。17世紀のフランスを代表する画家。ローマを拠点に活動し、英雄譚や神話をモチーフにした傑作をいくつも残した。

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目次

※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。

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