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■2015/07/18 (Sat)
第1章 隻脚の美術鑑定士

前回を読む
 JR線に乗って芦屋駅で降り、山手方面へ徒歩十分ほど進む。山下家は豪邸が並ぶ高級住宅地の中でもひと際大きい。瓦屋根を乗せた格子戸の門に、もちろん住宅は純和風の数奇屋造りの屋敷だ。
 ツグミも、最初の頃は緊張したが今はすっかり馴れてしまった。
 インターホンを押すと屋敷の女中が応対してくれた。女中に招かれて屋敷の中へと入っていく。趣のある格子戸を潜ると、旅館かと思うような広い玄関が現れる。右手の大きな下駄箱の上には九谷焼の大皿が色も鮮やかに咲き乱れ、左手の土壁には隙間なく宮本三郎や東郷清児の油絵が飾られていた。
 正直なところ、ツグミは山下家の美術品の飾り方が好きではなかった。数奇屋造りの構造の趣がまるで感じられない。ごてごて飾り立てられた様がいかにも成金趣味的で、息苦しいとすら思った。
 という気持ちを胸の中に隠して、女中の後に従いて行った。長い廊下を通り過ぎ、客間に案内される。
 客間は十畳ほどの広い座敷で、床の間に立派な当世具足が鎮座していた。鎧を取り囲むように掛け軸や焼き物、油絵といった美術品が無節操に並んでいる。畳の上にも美術品が溢れ出し、広間のほとんどの空間を抽象画やブロンズ像や壷といったもので埋め尽くされていた。
 そんなふとするとガラクタの山のような座敷の中に、60過ぎの老人が胡坐をかいて座布団の上に座っていた。当世具足を背にして、和装にちゃんちゃんこ、座布団の傍らに肘掛を置いていた。実に隠居老人というイメージに忠実な格好だった。この老人が山下家の主だ。
 山下の手前左手に、50代くらいの痩せ気味で鼻の先が尖り、いかにも狡猾で意地の悪そうな男が座っていた。画商の岡田だ。岡田の顔を見て、ツグミはひそかに眉をひそめた。
「毎度ありがとうございます。妻鳥画廊のツグミです」
 山下を振り向いて、笑顔と愛敬を振り撒いてお辞儀した。
「うん。よく来たね。今回も、ちょっと頼むよ」
 山下は好々爺の顔を崩し、手招きした。
 ツグミは客間の中に入り、岡田と向き合う格好で置かれている座布団の上にスカートを直しながら座った。左脚は完全に曲がらないから、みっともなくならないように足を左側に投げ出すように姿勢を崩す。
「では、はじめましょうか」
 山下がツグミと岡田を順番に見て改まったように言った。ツグミと岡田は、山下を向いて恭しく頭を下げる。ツグミは試合でも始まるような、軽い緊張を感じた。
「それでは、まず、こちらをご覧あれ」
 岡田は用意していた箱を手前に置き、蓋を開けて中の絵を取り出して見せた。山下老人が「おお」と身を乗り出す。
 六号ほどの小さなキャンバスに、女性の裸が描かれていた。くっきりと縁取られた目元。白く輝くような肌。誰が見ても藤田嗣治(※)の特徴が描かれていた。
「これは見事だ。このモデル、質感……。間違いなく藤田嗣治だ」
 山下は満足したように頷きながら絵をじっくりと覗き込んだ。岡田も機嫌良さそうに頷いて返す。
 しかしツグミは、絵を見た瞬間に鼻白むような気持ちになっていた。
「岡田さん。ちょっと悪いけど、それ、額を外してもらえますか?」
 ツグミは嫌悪を滲ませながら強気に指をさした。
「うん、まあ、ええで」
 岡田は急に歯切れが悪くなった。でも大人しくツグミに従って額を外し始めた。キャンバスから額が外されると、ツグミは奪い取るみたいに絵を手に取り、裏を返した。
「やっぱり。普通の麻やないですか」
 ツグミは非難するようにきっぱりと口にした。岡田が打撃を受けたみたいに顔を顰めた。
「どういう理由か、解説をお願いしたいな」
 山下が楽しげにツグミに訊ねた。ツグミは山下に絵の裏面を向けた。
「藤田嗣治は女性の美しい肌を表現するために、すべてにおいて徹底しました。キャンバスにもこだわり、通常の画布ではなくキメの細かい、シーツに使うような布を使いました。でも、これをご覧なってください。これは普通の麻です」
「ほうほう」
 山下は絵を覗き込みながら、楽しげに頷いた。
 しかし、岡田が「ふん」と鼻を鳴らす。
「だからと言って、藤田が常にそういうキャンバスを使用したとは限らんのとちゃうか? 特に戦争で日本に戻ってからは、物資の不足で、いつでもいい材料が手に入ったとは思えん。画家でも道具に妥協する瞬間はあるやろう」
 岡田はまだ余裕といった様子で反論した。ツグミのほうに傾いていた山下が、今度は岡田のほうに傾いて「うんうん」と頷き始めた。
 でもツグミは、引くつもりも負けるつもりもなかった。
「藤田嗣治は日本に戻った時、すでに有名人で従軍画家として特別待遇を受けられる立場にあったんです。この表現方法を獲得して以後の藤田は、戦時中であれフランス時代であれ、画材に不足するようなことは一度もありませんでした。この絵は、見たところ成功後の藤田嗣治の絵を写し取ったようですが、あまりできはよくないみたいですね」
 ツグミはズバッと反論した。岡田は「うう」と呻き声を上げた。しかし、まだ顔が負けを認めていない。
「でも、だからと言って、これは誰がどう見ても藤田嗣治や。見てください、この肌の質感。藤田以外にこれを描けるものはおらへんで」
 岡田は山下に訴えかけるように言った。
「うむ。確かに藤田嗣治や。間違いない」
 ツグミはキャンバスの表が見えるようにした。山下が岡田のほうに傾きながら、じっとキャンバスを覗き込む。
「これが藤田嗣治ですって? 冗談はいけません。本当の藤田は、キャンバスの上に特殊な調合で作られた下塗りをするんです。キメの細かいキャンバスがあり、特殊な下塗りでキャンバスを固め、その上に薄く絵の具を乗せる。針のように細い線で輪郭線を描く。いくつもの技法を重ねて、あの質感が生まれるんです。贋作作家はどうも下塗りの調合方法を知らんかったようですね。山下さん、よう見てください。この絵の下に塗られているのは何なのか、わかるでしょう」
 ツグミは強気の姿勢を崩さず、山下の前に絵を突きつけた。山下もぐっと身を乗り出した。60過ぎても絵の鑑賞者だ。視力は悪くなかった。
「これは……ニスやな」
 結論を下すように、山下が断言した。
「や、山下さん……」
 岡田が冷や汗を浮かべながら、すがるような目をした。
「岡田さん、これはあかんで。もう偽物にしか見えへんわ」
 山下は岡田を振り向いて、首を横に振った。山下の顔に最初に浮かんだ感動は消えて、もう不信しか残っていなかった。
「そんな……」
 岡田の顔に敗北が浮かんだ。ジャッジが下されたのだ。

※ 藤田嗣治 1886~1968年。油彩画に日本画の技法を取り入れた絵で成功する。白く滑らかな肌が表現された裸婦たちは「乳白色の肌」と賞賛される。

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