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■2012/05/08 (Tue)
氷菓 1,2話 (1)「高校生活と言えば薔薇色……。薔薇色と言えば高校生活。そう言われるのが当たり前なくらい、高校生活はいつも薔薇色の扱いだよな。さりとて、すべての高校生が薔薇色を望んではいないと、俺は思うんだが。例えば、勉学にも、スポーツにも、色恋沙汰にも興味を示さない。そんな人間というのもいるんじゃないか。いわゆる灰色を好む生徒というのもいるんじゃないか。まあ、それってずいぶん寂しい生き方だと思うがな」
俺は福部里志を相手に、思っていたことを話す。
放課後だ。窓から射す光はささやかで、教室の中は灰色に溶け込もうとしていた。教室の中には何かの仕事を始末しようとしている男子生徒が一人と、机を挟んで、楽しげな会話をひそひそと交わしている2人組の女子生徒が残っている。俺は何の興味も関心もなく、ただそこにいるから、というだけでそういう連中の背中を眺めていた。
「奉太郎に自虐趣味があったとは知らなかったね」
里志は俺の机に肘を付けて頬杖をしながら、俺を上目使いに見て、この男特有の軽い皮肉っぽさを混じらせながら言う。
「自虐趣味?」
氷菓 1,2話 (2)「勉強にもスポーツにも色恋沙汰にも後ろ向き。常に灰色の人間。それって奉太郎のことだろう?」
「別に後ろ向きなわけじゃない」
俺は声にかすかな憤慨を混じらせた。といっても、感情的になるほど俺はアクティブじゃない。
「奉太郎的にはね。省エネ、なんだよね。奉太郎は」
やけに得意げだ。
もったい付けた言葉を選んでいるが、別に議論しようってわけじゃない。単なる暇つぶしだ。放課後の猶予時間を無駄に消費する……あるいは、そうすることですべき決断やそれに伴う行動に対して保留しようとしている。
氷菓 1,2話 (3)里志の話はまだ続くようだった。
「ただただ面倒で、浪費としか思えないことには興味が持てない。そのモットーはすなわち!」
里志が俺を指さす。俺は思わず、里志の指先に注目してしまった。
「やらなくてもいいことはやらない。やらなきゃいけないことなら手短に」
俺は溜め息混じりに言う。俺の普段からの口癖、信条であるが、それを他人に言わされるとなると、なにやら腹立たしい。
「だね。でもね、奉太郎。この多彩な部活動の殿堂、神山高校で部活にも入っていない奉太郎は、結果だけ見れば灰色そのものってことだよ。そんな奉太郎が寂しい生き方なんて、自虐趣味の何物でもない」
「口の減らない奴だな」
愚痴をこぼす。かといって、この男が不愉快なわけではない。鬱陶しいくらい言葉が溢れ出す男だが、不愉快に思ったことは一度もない。むしろ、不思議と好意すら感じていた。
そんな俺の心情を察しているかのように、福部は身を乗り出して、また俺を上目使いにした。
「何を今更。中学からの付き合いだろ」
いや、今度はさすがに苛っときた。
「ふん。まあいい。先に帰れ」
どうやら暇つぶしと保留はおしまいだ。面倒だがそろそろ行動に移さねばならない。
「先に? どういうこと?」
里志は少しきょとんとした風情だった。俺は何も言わず、内ポケットの畳んでしまっていた紙切れを引っ張り出し、里志の前で開いてみせた。
氷菓 1,2話 (4)里志はそれを見て――まるで信じられないものを目撃したみたいに目を大きく見開き、飛びついてきた。
「まさかそんな! 入部届! 奉太郎が部活に! しかも古典部に!」
大げさな奴だな。教室に居残っていた連中が、ちらと俺たちを注目する。俺はそんな視線を逃れて、
氷菓 1,2話 (5)「知っているのか?」
と里志に尋ねる。教室の一同は、ただちに俺たちから興味を喪った。
「もちろんさ! だけど何だって奉太郎が古典部?」
疑問の里志。俺は、もう一つの紙切れを引っ張り出した。今度はもう少し厚みのある。手紙だった。
氷菓 1,2話 (6)「これは、奉太郎のお姉さんからの手紙だね」
「インドから送ってきた。ベナレスだかどこかだか……」
里志は手紙を受け取り、文章にさっと目を通した。
「これは困ったね。お姉さんの頼みか」
「部員がいなくて、廃部寸前らしい。存続のために入部しろ……だとさ」
俺は憂鬱に頬杖を突く。
「お姉さんの特技は確か……」
「合気道と逮捕術。痛くしようと思えばかなり痛い」
「あっはっは。これは断り切れない」
里志はこれ以上ないくらい、朗らかに笑ってみせた。他人の不幸は何とやら。実に忌々しい。
「でも部員がいないんだよね。だったら古典部の部室は独り占めじゃないか。学校の中にプライベートスペースが持てるってのも、結構いいものだよ」
「プライベートスペース?」
俺はにわかに興味が沸き上がって、顔を上げて里志を見た。里志の朗らかな笑顔に、さっき感じた嫌みぽさはなかった。

さて行動だ。俺は職員室へ行き、予備の鍵を手に入れ、それから校舎を移って階段を一段一段上っていく。ようやくたどり着いたそこは、特別棟の4階の地学準備室。まさに最果てだ。
ドアを開けようとする。鍵がかかっている。まあ当たり前か。職員室で手に入れた鍵を鍵穴に差し込み、ドアを開けた。
氷菓 1,2話 (7)すると――女がいた。暗く沈みかけた地学準備室に、女の小柄なシルエットが不思議なくらい浮かび上がって見えた。腰まで届く長い艶のある黒髪。開けたままになっている窓から風が吹き込んで、ゆるく髪が膨らんでいた。女は俺が入ってきたことに気づかないように、窓の外をじっと見つめている。
氷菓 1,2話 (8)誰だろう? 何の用事だろう? 何年生だろう?
俺は女を覗き込もうと、地学準備室の中を進んだ。女は何かに気をとられているように、まだ俺の存在に気づかない。かすかに、女のうなじが、横顔が見えた。ほんの少し見えただけだったが、それでも黄金比を巧みに組み合わせたような、整った顔立ちに思った。
氷菓 1,2話 (9)不意に、女が振り返った。たったいま地学準備室にいる他人に気づいた、というような驚きが顔に浮かんでいた。
整った顔。大きく憂いのこもった瞳。綺麗に整った真っ直ぐの黒髪。何ともいえない落ち着いた佇まい……。
氷菓 1,2話 (10)風が吹いて、女の髪がカーテンと一緒に持ち上がった。夕日の光が際立ち、女の黒髪が艶やかに輝いた。
俺は……どんなつもりだったが自分でもわからないが、その瞬間言葉を失って、女の顔を、姿を見つめてしまっていた。女も、しばらく驚いたような大きな瞳のまま、俺を見つめていた。そして、女はふっと微笑みを作った。

□■□

氷菓 1,2話 (11)氷菓 1,2話 (12)「私、気になります!」
千反田えるがそう言った瞬間、デジタルエフェクトの洪水が花咲く。エフェクト少女、と呼べば斬新に聞こえるが、『咲-Saki-』などの前例がすでにあるので、珍しいわけではない。しかしこれほどまで入念なデジタルエフェクトに包まれるアニメヒロインは個性的ですらある。
デジタルエフェクトだけではなく、アニメーターによる作画も堂に入っている。まるで意思を持ったかのように長く伸びて絡みついてくる黒髪。黒髪に添えられる淡い緑の葉。デジタルエフェクトは絡みついてくる黒髪のように複雑に織り込まれている。
超現実的な構図の作りと相まって、見る者を有無言わさず千反田えるの世界に引き込んでしまう。圧倒的な作画の世界であり、デジタルエフェクトの楽しげな饗宴である。

氷菓 1,2話 (13)もう少し千反田えるについて掘り下げたいが、ここでキャラクターの作画に目を向けてみたい。キャラクターの線の流れは、集団制作のアニメーションにありがちな、かっちりと決められた線ではなく、そこからやや揺らぎが与えられ、曖昧さが加えられ、柔らかで有機的な線の流れを持っている。
髪の毛の線や、服のしわ、特に重要度の高い顔のディティールなど。必ずしも睫が3本でなければならない、というような規則性は思い切って放棄して、その構図に相応しい線の密度、流れが採用されている。
こういった線の流れは、最近にかけてどんどん曖昧さやラフで描いた瞬間のイメージを取り入れるようになったが、『氷菓』はその中でもさらにその傾向を推し進めている。
この頃はMMDなど、三流のコンピューターでも誰でも簡単にアニメーションを再現できるツールが登場している。そこそこのスペックとソフトさえあれば、誰でもアニメーションが作れる時代だ。大きな予算は必要ではない。そんな時代だからこそ、コンピューターでは決して到達することのできない線の感性、手書きだからこそ現れる精神性にこそ重点が置かれている。

氷菓 1,2話 (14)再び千反田えるについて追求しよう。
左は例の台詞(呪文?)を口にした直後の瞳のクローズアップである。実線で縁取られた外線と、中心となる黒目。色トレスの線が合計3本(しかもこの色トレス線は中心の黒目を縁取る線と重なり合い、違う明るさ色が指定されている)。ハイライトは瞳の中に4つ、白目部分に1つ。色トレス線の色の境界には、ブラシでかすかなハイライトが加えられている。さらに瞳の中に、デジタル処理で星屑がきらきらと散っている。これに別のカットでは、奉太郎の姿が別に作画され、合成されている。劇中では、真っ白に輝いているハイライトが艶やかに回転する。
さらに、目を縁取る実線にも注目したい。睫の数など、ある程度の法則性はあるものの、左右非対称である。瞳の下の線も、左右違うリズムで描かれている。ここにも線の曖昧さが取り入れられている。
瞳のクローズアップ、そのディティールに無用なこだわりを見せるのはアニメの分野においてありがちなことだが、ここまで徹底された例を見るのは初めてだ。
あと控えめな巨乳としても注目したいキャラだ。

氷菓 1,2話 (15)次は髪の動きだ。ほんの少しの動きに対しても、髪の毛がつられて動いている。
左は第2話の振り向きの一例だ。振り向きの動画としてはごく普通だが、それに髪の毛が異様な量感を持って一緒に動いてくる。ごく普通の振り向き動画が、きわめて凶悪な代物に変わってしまっている。
千反田えるの髪の動きは常にこの調子だ。部分的に絵を動かそうと思えば、その部分の線だけ動かせばいい。しかし決してそうはせず、全身の動きを取り入れるだけでも飽き足らず、さらに髪の毛も動かしている。
ごく普通に長い黒髪を描こうと思えば、もう少しまとまりをもって描けば済む話だ。その方が簡単に済むし、それでも綺麗に見える。『氷菓』はその方法を選択せず、わざと髪の流れにわずかな乱れを作り、それがあらゆるタイミングに合わせて揺れ動く様子を描写している。おそらく、その線の動きや軽やかさを研究するために、実際の髪の動きをずいぶん観察したのだろう。
氷菓 1,2話 (16)左は伊原摩耶花のクローズアップショットだ。首をかしげる伊原の動きに合わせて、短いショートヘアがぱっと動く。ショートヘアらしい簡素な動きで、なかなか可愛らしい。
氷菓 1,2話 (17)髪の動きで個性の違いを表現する、アニメの作りとしてはなかなか面白い作り方である。
やや話が逸れるが、最近よく見かけるようになったMMDの動画作品について、一つ苦言を呈したい。MMDのほぼすべての動画作品に対して言えることだが、髪の動きが美しくない。
しかしあの動きは、おそらく正確な重力計算に基づくものなのだろう。キャラクターの動き、指定したアクションに対して、コンピューターが計算した動きなのだろう。
それでは駄目なのだ。「リアルな動きは実はリアルではない」。計算上正しい描写が正しいわけではない。
例えば、いくつか折り重なった線の羅列を描いていると、何本かの線は必ず歪んだり、弧を描いたりしているように見える。錯覚だ。絵の世界、映像の世界では、この種の錯覚はしばしば起きる。描き手はこの錯覚に気づき、修正を加えつつ、“実は正しくないが、絵としては正しい”線を選んで描きこんでいく。
動きについても同じだ。コンピューターの導き出した“正しい動き”であっても、描き手の意思で修正を加え、完成を目指していかなければならない。それに、無用に暴れ回るツインテールは美しくない。

背景のディティールも、手頃な予算と期間で制作されるテレビアニメーションとは思えないくらいの描き込みである。
氷菓 1,2話 (18)学校の場面。単に廊下という無味乾燥な場所ではなく、張り紙がしてあったり、絵が飾られたり。もちろん蓄積した汚れもしっかり描き込んでいる。レイアウトは、ロングサイズ以上になると、パースの整合性が格段に難しくなる3点透視法で描かれている。これに、やはりデジタル処理が加えられる。
空間の奥行き、レンズの焦点。あるいは光の処理だ。
氷菓 1,2話 (19)光の処理は、淡い緑が基調となっている。一応、部活ものであるから、時間帯は放課後の時間が中心であるが、『氷菓』では常套的な黄昏のセピア色を使わず(セピア色が使われている場面もある)、緑の光を選択している。この緑の光、緑の光が差し込む風景が、個性的だし、際だって美しい。この緑の光は、昼でも薄暗い場面でもしばしば使用されている(逆光のショットは、影の入り方がどことなく“トイ・フォト”風だ)

氷菓 1,2話 (20)物語の中心舞台である地学準備室はディティールの洪水である。
多くの部活ものの学園物語――最近の学園ものは部活の話が中心である――で見られる部室の描写は、もっと簡素なものである。小さな6畳くらいの空間。机がいくつか置かれて、隅にロッカー、それから水場があるだけである。
しかし、地学準備室は必要あるのか、と問いたくなるくらい物で溢れ返っている。扉から見て右手にガラス戸のある大きな棚。棚には移動式の梯子が備え付けられている。棚の中にはビーカーなど、何かの実験に使いそうなものが置かれている。左手には大きな机。しかし、物が一杯置いてあって、とても使用できるものではない。机の裏には中途半端な空間があり、ここに生徒用の机が重ねて敷き詰められている。机の背後の壁には、もう一つ棚がある。
果たしてここまで描く必要があるのか。普通のアニメーションなら、スタッフの負担を軽減させるために、あるいは間に合わせるようにもっと簡素に描くものだ。あそこまで容赦のない密度が常に張り込まれてくる空間、となると、描ききれないスタッフもいるはずだ。それでも敢えて逃げのない挑戦的な映像を作ることに、描き手の意地を感じた。
氷菓 1,2話 (21)次は第2話に登場する図書室である。ここでも背景の密度はなかなか凄まじいものになっている。単純に棚を並べるだけでは飽き足らず、机を置き、ポップを張り込み、確かに図書室特有の落ち着いた印象はあるものの、画面はかなり賑やかだ。おそらく学校の場面、とくにディティールには妥協するつもりはないのだろう。

氷菓 1,2話 (22)第2話に登場する、奉太郎の家。リビングルームと思われる場所。これまでの圧倒するようなディティールが嘘に思えるくらい、簡素な空間である。何もない。質感もない。ある意味、“奉太郎の世界”らしい空間になっている。
ここで注目すべきは、テーブルの上に置かれた招き猫だ。いったい何の意味があって置いているのだろう? ともかくも、招き猫と信楽焼は欲しい。
氷菓 1,2話 (24)次に登場する喫茶店。先の奉太郎の家から一転、再び濃厚なディティールが姿を現す。植物が多く、絡みつくツタ植物が建築に有機的な印象を与えている。
内装も、やけに掲示物が多い。壁という壁に、何かしらの絵画や時計が置かれている。薄いカーテンに隠れて、絵画が掛けられている。やけに多く飾られている時計は、どれも意匠にこだわって描かれ、デジタル処理で与えられた陰影表現が実に美しい。
氷菓 1,2話 (23)左のカットは、ディティールの洪水に囲まれ、一人きりで佇んでいる奉太郎の場面である。一番手前の空間、右手の柱に年代物の“顔の形をした”電話。裏側の見えないところに、百合の花が飾られているようだ。次の左手の空間には、客らしきおっさんとカウンターが置かれている。やはり年代物のレジ、花瓶、奥の壁には“神山祭”のポスターが貼られている。その奥にやや広い空間があるものの、机と椅子が不自然なくらいぎっしり置かれている。この状態を実際に再現すると、人は入っていけないだろう。そんな構図の一番隅っこで小さく描かれているのが奉太郎である。奉太郎の心境を象徴する、居心地の悪い構図が描かれている。

氷菓 1,2話 (25)第1話のエンディング。エンディング曲は尺の都合上カットされ、奉太郎と里志の下校場面が描かれている。
アーケードの下を歩き、雨をしのいでいる。アーケードの端までくると傘を差し、再びアーケードの下に入り、傘を閉じる。単に傘を差して歩く、だけではなく、ロケーションに合わせた演技が描かれている。
アニメの背景は、ただ書き割りになりやすい。実際の場所で撮影しているわけではないから、俳優がどれだけの距離を歩いて、そこが背景のどの地点なのか、考えるのが難しいし、そこまで入念な背景を作り出すのが困難だからだ。
『氷菓』のこだわりはここでも強烈で、あたかも実際の俳優が実際の場所で演技しているような前提で描かれている。
氷菓 1,2話 (26)左は奉太郎が何気なく見上げた、アーケードのガラス部分である。灰色に沈んだ窓に、雨がにわかに打ち付けている。何気ないワンカットだが、実に雰囲気が出ている。構図、質感、雨の冷たい湿気を感じさせる優れた絵画だ。何気ないショットだが、妥協しない。ここにもテレビアニメらしくない絵のこだわりを感じさせる。

氷菓 1,2話 (28)第2話の奉太郎の妄想場面。どこかの洋館。メイド服姿の千反田えるが側に立っている。椅子に座る奉太郎の前には、2つのメニューが示されている……。
氷菓 1,2話 (27)(ことあるごとに文字が浮き上がってくるが、これは《共感覚》だろうか?)
ただの妄想場面。映像の世界ではありがちな場面だが、『氷菓』で描かれるこの場面は強烈だ。異様な密度、ゆったりしているが妙に圧力のあるメロディ。大きく歪んだレンズワークに、濃厚な色彩、やはり圧倒されるディティール。瞬発的に見る者を異空間に放り込み、何とも言えない居心地の悪さに引き込まれていく。
何気ない場面だから描写の強さが際立つ。ふとテレビアニメであることを忘れる場面だ。

■□■

氷菓 1,2話 (29)『氷菓』はミステリである……ミステリということになっている。しかしそこに描かれているのは、日常の世界であり、日常の描写だった。あるいは、日常をミステリという文脈で再構築された世界、というべきだろうか。
いかにもミステリといった風情の、論理的な言葉の選び方。ミステリ風のもったいつけた言い回し、と書くべきだろうか。言葉の使い方はミステリである。ミステリには、日常的な言葉や、生活感を示す場面はほとんど登場してこない。あらゆる場面は、ミステリとしてのロジックの中に取り込まれ、何気ない台詞や日常の場面こそ、むしろ事件を解き明かす鍵が隠されている。
しかし『氷菓』が向き合っているのは、組織の陰謀でもなく、殺人事件でもなく、ごくごく日常――日常の中にささやかに差し挟まれている“不思議”である。
『涼宮ハルヒの憂鬱』は日常の物語である。SF作品に分類されているし、実際『涼宮ハルヒの憂鬱』にはSF的な台詞がいくつも登場し、日常世界として描写されているあらゆるものはSFというロジックの中で描かれている。
だが『涼宮ハルヒの憂鬱』は実際には日常の物語だった。侵略者が登場するわけでもないし、宇宙へ旅立つわけでもない。宇宙人未来人氷菓 1,2話 (30)超能力者を自称する何人かは登場するが、それらしい活躍、活劇はほとんど何もしない。『涼宮ハルヒの憂鬱』を客観的に見ると、ごくごく普通の高校生の日常の物語なのだ。それでも、SF的な文脈で日常が再構築されたことに、『涼宮ハルヒの憂鬱』の新しさと個性があった。
対して、『氷菓』はミステリという文脈・視点で“日常”が再構築された作品である。やや特殊で、むしろ違和感が際立つ。その違和感こそが、『氷菓』をその他のアニメ作品とは違う、特別な個性を持った作品にしているのだ。
それにしても、『氷菓』が描いてみせた日常の空間は圧倒的だ。テレビアニメであることを忘れるくらい、あるいはテレビアニメということを作り手自身が意識していない、徹底したものを感じさせる。ここまで来ると、京都アニメの日常に対するこだわりが、何か特別なもののようにすら感じる。
学園もの、といえば、今はほとんどがコメディだ。同じ学園ものでありながら、いかに学園ものを捉えるか――というテーマとして見ても、なかなか面白い作品だ。

氷菓 1,2話 (31)結果的に『氷菓』という作品から感じるのは、絵描き集団としての意地、絵描き集団としての純粋な欲求の帰結のようなものだった。
『氷菓』はもっと簡単に描くことができる。背景のディティールを落とし、デジタル処理で作り出す光処理を抑え、キャラクターの線はもっとシステマチックに、誰にでも描きやすい簡素な形にすることだってできたはずである。シリーズアニメという小さなバジェットと、制作期間を考慮すると、そうしたほうが効率がいいし、安全である。
しかし『氷菓』はあえて妥協しなかった作品である。確かにテレビアニメだが、その構図を、キャラクターをどこまで洗練させられるか、あるいはグレードを上げることができるか。
絵画の作りに正面から向き合い、挑戦している作品だ。そのためのあらゆる手間と苦労を惜しまない。純粋に絵描きとして(アニメ作家として)、作品に向き合おうとしている。そんなふうに思える作品だった。

放送終了後の評論

作品データ
監督:武本康弘 原作・構成協力:米澤穂信
キャラクター原案・デザイン・総作画監督:西屋太志 シリーズ構成:賀東招二
色彩設計:石田奈央美 設定:唐田洋 美術監督:奥出修平
撮影監督:中上竜太 編集:重村建吾 音響監督:鶴岡陽太 音楽:田中公平
アニメーション制作:京都アニメーション
出演:中村悠一 佐藤聡美 阪口大助 茅野愛衣 雪野五月




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