■ 最新記事
(08/15)
(08/14)
(08/13)
(08/12)
(08/11)
(08/10)
(08/09)
(08/08)
(08/07)
(08/06)
■ カテゴリー
お探し記事は【記事一覧 索引】が便利です。
■2015/11/22 (Sun)
創作小説■
第6章 キール・ブリシュトの悪魔
前回を読む
8
翌日も旅が続いた。朝早くに宿を出て、東へと向かった。地図上の道は間もなく途切れてしまい、荒れた土地が現れた。一行はごつごつとした岩場に入っていき、馬を下りて慎重に進んでいった。行く手の見通しが極端に悪く、荒野は激しく上下にうねり、不浄の森もあちこちに佇んでいた。
日が暮れかけると急速に夜が迫り、辺りは漆黒の闇が包んだ。空は星すら浮かべない。頼りになる明かりを失い、その日の旅はそこで終わってしまった。
バン・シー
「今日はここまででいいだろう」
セシル
「そうだな。野宿の準備だ」
屈強の戦士達は、さすが旅慣れた様子で、疲れも見せずにただちに野宿の準備を始めた。
バン・シー
「いや、待て。済ませねばならん用事がある。――そろそろ出てきたらどうだ。暗闇での野宿はつらかろう」
バン・シーが暗闇に向かって声を掛ける。戦士達が柄を握って振り返った。
岩陰から姿を現したのは、緑のローブ姿の乙女だった。
オーク
「ソフィー! どうして従いて来たんだ!」
オークはソフィーの側に駆け寄った。
ソフィーは顔で頑なで、瞳は決意で満たされていた。
ソフィー
「危険は承知です。お願いです、私を、……あなたの側にいたいの」
オーク
「…………」
オークはどう答えていいかわからず、黙ってしまった。
するとバン・シーがソフィーの前にやってきた。
バン・シー
「魔術師か?」
ソフィー
「はい」
バン・シー
「ならば試させてもらう」
バン・シーの掌が燃え上がった。
セシル
「バン・シー! よせ!」
バン・シーが炎を放つ。暗闇が真っ赤に煌めいた。
だが炎は、ソフィーの目の前で火の粉を巻ながら吹き飛んだ。火の粉の陰に紛れて、ソフィーがバン・シーに接近した。手にナイフが煌めいていた。
ソフィーの接近の瞬間、光が強く瞬く。
バン・シー
「――うっ」
バン・シーに動揺が浮かんでいた。
ソフィーはバン・シーの胸にナイフの刃を押し当てた格好のまま、静止していた。バン・シーが貼り込んだ魔法の防壁に無理に突っ込んだせいで、右腕に血が滲んでいた。ナイフの刃も、切っ先が魔法の盾に当たっている。それ以上に刃が進みそうにない。
ソフィー
「自惚れではないけど、私は役に立ちます」
それから、バン・シーにだけ聞こえる声で言った。
ソフィー
「……お願い。同じ女ならわかるでしょ」
バン・シー
「……そのようだな」
ソフィーとバン・シーの間から緊張が解かれた。お互いの掌から魔術の光が消える。
バン・シー
「どうやら強力な助っ人のようだ。15人目の仲間だ」
オーク
「しかし彼女は……」
セシル
「私は賛成だ。ドルイドの癒やしは旅に必要だ」
ゼイン
「わしも賛成じゃな。美人と旅を共にする機会はそうそうないからな」
ルテニー
「俺もだ! 歓迎するぜ!」
バン・シー
「私では不満という話か」
ルテニー
「……い、いや」
ソフィー
「皆さん、ありがとうございます。私はソフィーというものです。未熟なドルイドですが、よろしくお願いします。――ところで、魔法使い様、あなたの名前は?」
バン・シー
「バン・シーと呼ばれている」
ソフィー
「え……でも」
バン・シー
「構わん。そう呼べ」
それだけ言うと、バン・シーは一同の許に戻った。15人目の仲間を加えて、ようやく野営の準備が始まる。
次回を読む
目次
PR