寝ずの番

2009.06.28 - 映画:日本映画
この記事は、姉妹ブログ『写真と映画のブログ』『映画と写真のブログ』から転載されたものです。
寝ずの番

古典落語を復活させた名師匠、笑満亭橋鶴も臨終の時を迎えようとしていた。
「師匠、なんか、心残りおまへんか。わしら、なんでも、なあ」
一番弟子の笑満亭橋次が、橋鶴師匠の死を察しながら、明るい声をあげる。
すると、橋鶴師匠は呻き声のように言葉を発し始めた。橋次は、橋鶴師匠のそばへ行き、耳を傾ける。
617cbdb0.jpg「あ…あ……。そぉ……そぉ、見たい」
橋次は一度、茫然とした表情を見せるが、すぐに「たいしたもんや」と首を捻った。
「なんですの?」
橋次の周りに、笑満亭一門の弟子たちが集合した。
「女性のあれや。あれ見たいって、師匠いうてはるわ」
5f2c09fb.jpg4129d7d8.jpgc11a3af3.jpg




さっそく笑満亭橋太が家に飛んで帰り、妻の茂子を連れて病室に戻ってきた。
「ほな師匠、いかせてもらいます」
茂子はベッドの上に登り、橋鶴師匠の顔をまたいで立ち、思い切ってスカートを捲り上げた。
橋鶴師匠は、目をかっと見開いて、茂子のスカートの中を凝視していた。
誰もが、良かった、涙をぽろぽろ落としながら頷いていた。
「師匠。どうでした。見せましたよ」
茂子がベッドから降りると、橋次が橋鶴師匠のご機嫌を伺いに進んだ。
「……外、見たい言うたんや、あほ!」
橋鶴師匠が死んだのは、その3分後のことであった。
ac60abf7.jpg“笑い”は難しい。特に映画と小説野中での”笑い”は難しい。日本人は映画や小説に厳粛さを求める傾向が強いので、“笑い“を持ち込むのは不謹慎であると感じてしまう。「日本人は演歌気質だから」とはよく聞く理由だ。だから映画でこっメディを作るにしても、やや特殊な切り口が必要になってくる。アメリカ式のどたばたコメディとは違った方向性を探らねばらない。
というくだりで始まる『寝ずの番』は、ほとんどが通夜の晩を舞台としている。
ほとんど何の解説もないまま始まる映画だが、故人の親しい人たちが集り、思い出話によって物語の背景が解説される。
中心的な舞台は、通夜の晩から動かないが、語り手によって物語がうまく展開され、人間のドラマが掘り下げられていく。
a8c7d526.jpgc6066e6a.jpg《R-15》指定となっているが、下ネタがあまりにも多いのが理由であるらしい。確かに3分おきに下ネタが出てくる映画だ。下ネタの多さで映画倫理基準に引っ掛かる映画なんて、そうそうないだろう。

通夜の晩に語られる無礼講の物語だ。
エピソードの一つ一つは短いが、少しずつ折り重なって、映画らしい厚みのあるドラマへと昇華していく。
故人がどんな人間か、故人がかつてどんな仕事を経てきたのか。
一見すると、噺家の通夜の一幕を、ただ区切り取っただけのように見える。
だが物語の構成は周到で、点々と語られた物語が、綴られていくうちに大きなドラマへと発展していく。
はじめに笑いがあり、次に意外な事実が明かされ、涙のドラマへと進んでいく。
059e98c7.jpge6501727.jpg主人公が落語家という設定なので、その方面から多くのゲストが登場する。ほとんどが顔見せ程度だが、こういうちょっと変わった趣向の映画だから、注目だ。


『寝ずの番』の物語は、“死”から始まる。
不幸だから笑えるのか、不幸だから笑おうとするのか。
普通なら笑いなど起きそうもない場所での物語だ。
だが、そんな場所だから落語家の人生が現れてくるのかもしれない。

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作品データ
監督:マキノ雅彦 原作:中島らも
音楽:大谷幸 脚本:大森寿美男
出演:長門裕之 中井貴一 笹野高史 岸部一徳
   木下ほうか 田中章 木村佳乃 土屋久美子
   富司純子 石田太郎 蛭子能収 堺正章



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