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■2015/11/06 (Fri)
創作小説■
第5章 蛮族の軍団
前回を読む
16
森の向こうからどどどと大地が揺れる音がした。続いて騎馬の一団が現れた。騎馬達は蛮族達の一角を突き崩し、その勢いを削いだ。セシル達の騎士団だった。オーク
「セシル様!」
セシル
「オークか。よくぞ持ちこたえたな。大した奴だ。後方の村で戦の準備ができている。そこまで退くぞ!」
オーク
「はい! セシル様に続け!」
オークの新たな伝令で、兵士達は全力で村までの道のりを走った。
その間に、セシル達の騎馬隊が縦横無尽に駆け回り、蛮族達を足止めした。蛮族達の騎馬隊がセシル達に挑んだ。セシルは蛮族の挑戦を受け入れた。一瞬のうちに剣が交わり、決着が付いた。その瞬間は、セシルの勝利であった。
長城は今や、何ら防壁の役目も障壁の役割も果たしていなかった。その前後で多少滞りはあっても、それはすでに障害ではなく、蛮族の軍団はこれを潜り抜けて、北側に乗り込んできた。
セシルはその様子を見て、自身も撤退を決めた。
オーク達が村に辿り着くと、丸太格子の防壁が道を寸断していた。そもそもこの村も戦を想定して防壁が整えられていたが、その上にさらに急ごしらえで丸太格子の柵が立てられていた。
オーク達は丸太格子の内側に入ると、扉を閉じた。村人達も戦いに参加した。
オーク
「王の軍団はまだですか!」
セシル
「召集はかけた! 今は耐えろ!」
間もなく蛮族達の先頭が村まで走ってきた。オーク達は柵を盾にして、向かってくる蛮族を矢で撃ち、槍で突き殺した。
蛮族達は次々と数が増えた。夕暮れ近くなる頃には、蛮族達の本陣がやってきて、大人数で柵に群がってきた。黄昏の光に包まれる中、格子を挟んでくっきりと峻別された両軍が、押すな押すなの大乱闘を繰り広げていた。
夜になっても蛮族達の勢いはとどまらなかった。辺りが暗くなると、火矢の応酬が始まり、茅葺きの民家に火が点いた。
もともと数の少なかったオークたちの軍勢は、いよいよ勢いを失う。守りの要であった丸太格子も、圧倒的な数の蛮族達に乗りかかられ、揺さぶられ、ついに崩れてしまった。
蛮族達が村になだれ込んで、夜の暗闇に刃が光を放った。燃え上がる民家が、火の粉を上げて崩れる。
オーク達の決死の戦いは、村を舞台に繰り広げられたが、蛮族達は溢れんばかりの勢いで迫り、オーク達を圧倒した。オーク達は、1人で何人もの蛮族と同時に刃を交えた。しかしほとんどの者は応じきれず、蛮族達の刃に切り刻まれ、命を落とした。
間もなく次の夜明けが来た。東の空が白みかけて、夜の時間と対立しはじめた。真っ黒だった地面が、光の下に浮かび上がり、累々たる修羅を浮かび上がらせた。
オーク
「ここまでか――。全員撤退! 撤退! 城まで走れ! 城まで走れ!」
村は蛮族達で埋め尽くされていた。もはや味方が何人残っているかも定かではない。兵士達がオークの声を聞いて、走り始める。オークは仲間達が村を去り始めるのを見届けて、自身も村を後にした。
蛮族達はオークが指揮官だと気付いて、オークを狙ってきた。オークはそんな蛮族を振り払って走った。一緒に走っている仲間は僅かしかなかった。ほとんどの者が死に、ほとんどの者が傷つき、泥と血にまみれていた。走りながら、力尽きて絶命する者もいた。走る仲間達の中に、セシルがいるのにオークは安堵した。
蛮族達はオーク達を追跡した。全力で走るオーク達を、蛮族達が追いかけて走る。蛮族の騎兵も追いかけてきて、槍で兵士を串刺しにした。
走りながら、オークは倒れた者を見付けて、背負って走った。仲間達も倣って、倒れた仲間を背負って走った。
背後から蛮族の軍団が迫ってくる。蛮族達は走りながら、斧や槍を投げてくる。兵士の何人かはそれを背中に受けて、倒れた。蛮族達は残りわずかになった王国の兵士を殲滅させようと、躍起になっていた。
村から王城までおよそ10リーグ(55キロ)。馬で駆けても数時間かかる距離だ。だがオーク達は馬と変わらない時間で、その距離を走破した。
平原を駆け抜け、分かれ道を横断して、街道へと入ってく。
蛮族達の追跡は止む間なく続いた。オーク達は走った。オーク達の俊足に、その差がいくらか広がったが、追跡の手が消えなかった。
そうして次の森を抜けて平原に達した時――オーク達の顔に初めて希望が浮かんだ。
城の大門に至る平原の両翼に、大軍勢が待ち受けていた。貴族の召集で集まっていた兵士達だった。その中心に、ヴォーティガン王が立っていた。
王
「よくぞ持ちこたえたな。全軍進め! 徹底的に叩きのめせ!」
王の軍勢が進撃した。蛮族達はオーク達の攻撃に、数も勢いも相当削られた後だった。今となっては数という面においても、武装という面においても完全に王の軍団が圧倒していた。
王の軍勢は1万人。平原に飛び出してきた蛮族達をすっぽりと囲んでしまった。蛮族達は逃げ場を失う。王達は蛮族達に容赦のない矢の雨を降らせた。
それから戦いは驚くほど速やかに終わった。次の夕暮れが来る頃には蛮族の軍団は壊走。残った蛮族達も逃げ出してしまった。王の軍団の圧倒的勝利だった。
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