■ 最新記事
(08/15)
(08/14)
(08/13)
(08/12)
(08/11)
(08/10)
(08/09)
(08/08)
(08/07)
(08/06)
■ カテゴリー
お探し記事は【記事一覧 索引】が便利です。
■2015/10/18 (Sun)
創作小説■
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
前回を読む
振り返ると、ミレーを照らしていたスポットライトから、エレベーターまでさほど遠くなかった。わずかに十数歩。その程度の距離のやり取りだったのだ。
ツグミとコルリは、その僅か十数歩の距離を歩いた。
出口に近付いたその時、ツグミは何かに気付いた。左手の闇の奥。有象無象の一部に光が当たり、ぼんやりと形を浮かび上がらせていた。
光に浮かび上がっているのは、1枚の絵だった。闇の中に、キャンバスに描かれている何人かが浮かび上っていた。暗くて色はわからなかった。
ツグミはその絵があまりにも信じがたく、思わず立ち止まってしまった。
ヨハネス・フェルメールの『合奏』だった。
まさか、本物?
ツグミは男から離れて、絵に近付こうとした。夢中で、今の立場を忘れてしまっていた。
男が、ツグミの肩を乱暴に掴んだ。
「勝手なことをするな!」
ぐいっと男がツグミを引き寄せる。
あまりにも突然で、強い力だった。ツグミは体を支えられず、その場に倒れてしまった。
「何すんのや!」
コルリが大声を張り上げて、ツグミに飛びついた。
ツグミはコルリに支えられながら、ゆっくり立ち上がった。少し右の足首を捻ったが、歩けないほどではなかった。
ツグミはちらと、闇の奥のフェルメールを振り返った。遠かったし、あの暗さでは真贋の判断は下せなかった。ただ、とにかくあれは、フェルメールの『合奏』で間違いなかった。あれが、もし本物ならば……。
エレベーターは安っぽい「チン」の音とともに開いた。大男に挟まれて、ツグミとコルリは手を握り合って、エレベーターの中に入った。
駐車場まで降りてきて、車に乗ると、再びアイマスクを差し出された。アイマスクを付けると、車がスタートした。
車が動き出すと、ツグミはすーっと体から力が抜けて行く気がした。あまりにも強い緊張から解放されて、睡魔に囚われた。
睡魔に逆らうが、緊張を維持できなかった。もどかしく頬に掌を当てたり、首をよじらしたりした。
すると、コルリがツグミの体に手を回し、支えてくれた。コルリの体があまりにも温かくて、ツグミは睡魔に逆らうのをやめてしまった。
どれくらい経ったのか、コルリがツグミの体を揺すった。アイマスクも外してくれた。アイマスクを外すと、すぐ側にコルリの顔があった。
次回を読む
目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
第3章 贋作工房
前回を読む
21
来た時と同じ格好で、大男がツグミとコルリを挟み、出口を目指した。振り返ると、ミレーを照らしていたスポットライトから、エレベーターまでさほど遠くなかった。わずかに十数歩。その程度の距離のやり取りだったのだ。
ツグミとコルリは、その僅か十数歩の距離を歩いた。
出口に近付いたその時、ツグミは何かに気付いた。左手の闇の奥。有象無象の一部に光が当たり、ぼんやりと形を浮かび上がらせていた。
光に浮かび上がっているのは、1枚の絵だった。闇の中に、キャンバスに描かれている何人かが浮かび上っていた。暗くて色はわからなかった。
ツグミはその絵があまりにも信じがたく、思わず立ち止まってしまった。
ヨハネス・フェルメールの『合奏』だった。
まさか、本物?
ツグミは男から離れて、絵に近付こうとした。夢中で、今の立場を忘れてしまっていた。
男が、ツグミの肩を乱暴に掴んだ。
「勝手なことをするな!」
ぐいっと男がツグミを引き寄せる。
あまりにも突然で、強い力だった。ツグミは体を支えられず、その場に倒れてしまった。
「何すんのや!」
コルリが大声を張り上げて、ツグミに飛びついた。
ツグミはコルリに支えられながら、ゆっくり立ち上がった。少し右の足首を捻ったが、歩けないほどではなかった。
ツグミはちらと、闇の奥のフェルメールを振り返った。遠かったし、あの暗さでは真贋の判断は下せなかった。ただ、とにかくあれは、フェルメールの『合奏』で間違いなかった。あれが、もし本物ならば……。
エレベーターは安っぽい「チン」の音とともに開いた。大男に挟まれて、ツグミとコルリは手を握り合って、エレベーターの中に入った。
駐車場まで降りてきて、車に乗ると、再びアイマスクを差し出された。アイマスクを付けると、車がスタートした。
車が動き出すと、ツグミはすーっと体から力が抜けて行く気がした。あまりにも強い緊張から解放されて、睡魔に囚われた。
睡魔に逆らうが、緊張を維持できなかった。もどかしく頬に掌を当てたり、首をよじらしたりした。
すると、コルリがツグミの体に手を回し、支えてくれた。コルリの体があまりにも温かくて、ツグミは睡魔に逆らうのをやめてしまった。
どれくらい経ったのか、コルリがツグミの体を揺すった。アイマスクも外してくれた。アイマスクを外すと、すぐ側にコルリの顔があった。
次回を読む
目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
PR