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■2015/10/12 (Mon)
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。

第3章 贋作工房

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18
 気付けば、セーラー服の白地に絵具の破片が飛び散って、色鮮やかな斑模様になっていた。レンブラントやゴッホの色彩、いや、魂がそこに写っているのだと思った。
 地面に落ちていたナイフを、コルリが手に取った。
「ツグミ。もういいわ。後は私がやる。ツグミは指示だけしてくれればいいから」
 コルリは言葉を強く、役目を引き受けた。ツグミはコルリの決意に負けて、頷いた。
 そこで、宮川がぱんぱんと拍手した。音が広い空間の中、二重に響いて戻ってきた。
「お見事。どうしてわかったのかね?」
 宮川の顔には、いかなる感動も浮かんでいなかった。おそらく宮川にとって、当然の結果だったのだろう。
 ツグミはよろよろとおぼつかない足で宮川を振り返った。
「確かに贋作師は天才やった。優れた絵描きさんや。普通に見てたら絶対にわからんかったやろう。でも、ミスしたのはアンタや。アンタ、絵の上に『乾燥剤』を塗ったやろ。絵を早く完成させようとしたからや。一見すると同じに見えるけど、『乾燥剤』は光に当てると表面に光沢が出る。ゴッホは絵を保存する発想すらなかったから、絵の表面には何の保存料も塗らんかった。ゴッホの絵は、油絵具そのものの質感が特徴なんや」
 啖呵を切るには、あまりにも力を使い切った後で、言いながら何度もぜいぜいと息継ぎをしてしまった。
 一方の宮川は大音量で笑った。
「その通り。私ではなく、部下がやったミスだがね。それさえなければ、本物として堂々と売りに出せたものを。余計なことをしてくれたものだ」
 愉快そうに見えて、宮川の顔に凶悪な面が浮かんでいた。
 宮川が再び指をパチンと鳴らした。ゴッホを照らしていたスポットライトが消えて、次なる絵に光が当てられた。
「さあ、最終ステージだ。進みたまえ」
 宮川が先に進むよう指先で指示した。最後の絵も2枚だ。イーゼルに掛けられて、光に浮かび上がっていた。
 ツグミはコルリに支えてもらいながら、一歩一歩、ゆっくり絵の前に進んだ。
 そしてツグミは、絵の前で瞠目した。
「……そんな」
 ツグミの口から、溜息が漏れた。
 最後の絵は、ミレーだった。神戸西洋美術館に展示されているはずの、羊飼いの娘の絵だった。
「これは、どういうことなん?」
 コルリは唖然として、宮川を振り返った。
 神戸西洋美術館に置かれているはずの絵と合わせて、3枚。いや、まさか美術館からここへ持ち込んだのか。だとしたら、どうやって……。

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目次

※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。

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