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■2015/09/18 (Fri)
創作小説■
第3章 贋作工房
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6
アイマスクを外した。目の前で、コワモテの三白眼が手を差し出していた。ツグミは三白眼の前で、蛇に睨まれた蛙のように固まってしまった。コルリがツグミのアイマスクを引き受け、まとめて男に返した。車の外は地下駐車場だった。「どこかの」と言うしかなかった。
天井が低く、無数のパイプが剥き出しになって絡まっている。暗い緑の照明が点々と辺りを照らしていた。
あまりにもありふれた、何の特徴のない地下駐車場だった。トヨタ・クラウンの他に、停車している車が2台ほどあった。それだけだったから、閉鎖的な空間が広く感じられた。
2人の大男が車を降りて、後部座席の両側のドアを開けた。今度は「出ろ」だ。
すぐにコルリが応じて出ようとした。しかし、ツグミは動けなかった。左脚ばかりか、右脚の感覚もなくなってしまった。恐怖で震えが止まらなかった。
コルリを振り向くと、もう体半分が車の外だった。
――行ってしまう。
ツグミはコルリの手を掴んだ。コルリがはっと振り返った。
「ルリお姉ちゃん、怖い」
やっと思いで、言葉を搾り出す。辺りが静かでないと、伝わらないくらい弱々しい声だった。
コルリが座席に戻ると、ツグミの側に顔を寄せ、耳元で囁いた。
「大丈夫や。ツグミは私の後ろにいたらいい。言いたいことがあったら、私に言うんやで。私が代わりにあいつらに言ってやるから。大丈夫だから、私に従いておいで」
囁く声だったけど、信じられないくらい落ち着きがあった。
ツグミはうん、と頷いた。それから、2人で手を繋ぎながら車を出た。
2人の大男は、ツグミとコルリの両側について、先導した。連行されているみたいだった。
行く先に、エレベーターがあった。エレベーターの扉が開き、中に入る。
エレベーターの中は狭く、大男2人が入ると、もう一杯の空間だった。ツグミとコルリは、大男に挟まれて、抱き合うように体を寄せ合った。
ツグミの目に、何となくエレベーターの壁が目に入った。飾りっ気のない銀色の壁に、男のスーツの黒がうっすらと浮かび上がっていた。時々、がたがたとエレベーターが揺れる。壁に、小さく落書きがあった。
『ミヤ子、愛シテル』
よくある落書きだったけど、妙に印象に残る気がした。
ツグミはちょっと首を捻り、扉の上に目を向けた。階数は全部で25階だった。結構高い建物らしい。
エレベーターは10階で停まった。重苦しい空気が嘘のように、チーンと軽い音がして扉が開く。
しかし、その先は真っ暗だった。エレベーターの周囲だけが、小さな常夜灯の光で照らされていた。まるで、暗闇の取り残された光の無人島みたいだった。
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目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
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