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■2015/09/16 (Wed)
創作小説■
第3章 贋作工房
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5
電話でのやり取りをコルリに説明し終えた頃、画廊の前に車が停まった。着替えている暇も、コンビニの牛丼弁当を食べている暇もなかった。画廊の外に出てみると、黒のトヨタ・クラウンが停まっていた。いかにもヤクザの公用車というような、異様な威圧感を持った車だった。
助手席から、男が出てきた。男は巨大で、ツグミやコルリより頭3つ分は上だ。スーツの上からでもはっきりわかる筋肉質な体で、いかついコワモテ顔は、どう見ても一般人には見えなかった。それが葬儀屋のような黒のスーツを身につけ、壁みたいに立ちはだかっていると、間違いなくヤクザだった。
巨人はツグミが持っていたプリケイド携帯を回収すると、何も言わず後部座席のドアを開けた。ツグミは判断に迷うように、ヤクザ顔の男を見上げた。「乗れ」だろう。
コルリが先に乗って、ツグミに乗るように目で促した。ツグミは怖くて乗りたくなかった。でも、周りの雰囲気に押されて、仕方なく車に乗った。
大男は助手席に戻ると、ツグミとコルリを振り向き、2人分のアイマスクを差し出した。「付けろ」だ。
ツグミとコルリがアイマスクを付けると、車がスタートした。ただの一度も、誰も言葉を発しなかった。
その後のことは、よくわからなかった。
車はどこかを目指して進んで行った。体に移動感があったけど、どこをどう進んだか見当もつかなかった。聞き耳を立ててみても、エンジン音だけで何の手掛かりもなかった。
かなり遠いところらしい。男達は敢えてなのか料金所を通過しなかった。ツグミとコルリに目的地のヒントを与えないためだろうか。
時間がどれだけ流れたか皆目わからない。視覚を奪われると、時間感覚も麻痺する。その時間が数十分なのか数時間なのか――。何もわからなかった。
ツグミはコルリの手を握った。コルリが握り返してくれた。怖かった。でも、コルリの手も汗でじっとりと濡れていた。コルリも緊張しているんだとわかった。
ツグミはコルリのぬくもりと存在を感じて、少しだけ安心した。
やがて車が減速した。どこかの駐車場に入ったらしい。ゲートをくぐり、下に降りて行く感覚があった。
その後、車はゆっくり進み、次にバックして、やっと停車した。
「おい外せ」
初めて男が口を聞いた。電話の声と違ったが、声量の大きいヤクザ声だった。
次回を読む
目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
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