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■2015/08/14 (Fri)
創作小説■
第2章 聖なる乙女
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6
少女が祭壇の上に置かれた子供を抱き上げた。子供は泣き止んで、何かを求めるように小さな手を広げた。少女は子供の手を握ると、軽くあやしながら耳元でささやくような呪文を唱えた。すると子供は、すっと眠りに落ちた。
×××
「子供にも魔法は効くのですか」
少女
「ええ。ルーンは物言わぬ人にも、言葉を違える人の心にも届く言葉なのです。それに、今のは呪文ではなく、子守歌ですよ」
少女は穏やかに微笑んでみせた。
若者は子供を抱く少女の姿に、一瞬くつろぐような気持ちになるが、しかしすぐに闇の奥から気配が強まるのを感じた。逃げた妖精達が新手を連れて戻ってきたのだ。
×××
「急いで! 今度は私が後ろを守ります!」
少女
「はい!」
少女が駆け出した。若者がその後に続く。
広場の頭上に作られた、無数の穴から次々と妖精達が飛び出してくる。若者はそのいくつかを斬り結び、少女が広場を抜け出したのを確認し、それから横穴へと入っていった。
妖精達は細い通路を塞ぐように、わんさかと溢れ出してきた。妖精達の中には、明らかに人の形をしていない、頭と腕を持った土の塊のような妖精や、丸い葉のような姿の妖精もいた。
若者は迫り来る妖精を剣で叩いた。少女が行く手を遮る妖精に体当たりを喰らわす。
ようやく出口が見えてきた。少女と若者が順番に外に飛び出す。それから少女は洞窟を振り向くと、その出入り口に向かって光の珠を炸裂させた。中からキイキイと悲鳴が上がった。洞窟から土煙が吹き出してくる。谷に穿たれた穴から、次々と土煙が吹き出してきた。
それでも、妖精の気配は消えなかった。若者と少女は谷間を駆け下り、暗い森を抜けると、草原に出て、さらにその向こうの木立の中まで走った。清らかな光が射し込む窪地に飛び込むと、ようやく一安心という息をついた。
若者はまだ油断なく柄に手を置いて、追っ手がないか森の中を見回した。森の中に妖精の姿はなく、穏やかな様子で静まり返っていた。
少女
「もう大丈夫ですよ」
少女も窪地から出て来て、若者を安心させるように微笑んだ。少女の腕の中で、子供がすいすいと寝息を立てている。穏やかな様子で、緊張が解けるようだった。
×××
「しかし子供を救っても名前がわからなくては。親元に戻すのは難しいでしょう。こんな幼い子供が言葉を知っているわけもありませんし」
少女
「心配無用でございますよ。この近くに、コリオソリテース族の里があります。実は先日、子供が妖精に連れ去られるという話を聞きました。きっとこの子は、妖精に連れ去られたコリオソリテース族の子、トムです」
×××
「初めから知っておられたわけですね」
少女
「私は何でも知っているバン・シーですから。早くこの子を返さないといけません。急ぎますよ」
少女は再び駆け出した。
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