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■2009/09/03 (Thu)
映画:外国映画■
人通りの多い果物屋の前を、みすぼらしい姿の女が通りすがった。
果物屋の店主は、目ざとく女に警戒の目を向ける。
女は、ちらりと店主がこちらを見ていないのを確認して、林檎を一つ手に取り、懐にしまいこんだ。
「待て。金を払うんだ!」
店主が女の手を掴んだ。
女は逃げようと手を振り回そうとする。だが店主は、強い力で、女の手をしっかり掴んでいた。
そんな時、男が二人の間に割って入った。
「失礼。落としましたよ」
男は静かに店主を宥め、コインを差し出した。
ジャック・ブラックは傲慢な映画監督カール・デナムを独特のユーモアで演じた。ジャック・ブラックはそれまで通行人、やられ役などで多くの映画に出演(出演作品だけなら非常に多い)。だがたまたま主演を務めた『スクール・ロック』がビーター・ジャクソンの目に留まり、抜擢された。『キングコング』はジャック・ブラックにとっても転換点となる作品だ。
1933年に公開された、映画『キング・コング』はあまりにも有名な作品だ。
謎の島、髑髏島に探検に向かった撮影隊が、かつてない生き物に遭遇する。
はるか昔に絶滅したと考えられていた巨大生物の群れ。
そして、髑髏島の住人達から信仰の対象となっている霊獣キングコングの存在。
ピーター・ジャクソン監督が現代に甦らせた新しい『キング・コング』は、驚くほど当時のままだ。
当時と同じメロディに、当時の書体そのままのタイトルバック。
余計な追加や、浅はかなオリジナル要素などもない。
何もかもが当時のまま、ピーター・ジャクソン監督は1933年の情緒を現代の技術映画のスクリーンに再現させた。
1930年代の風景はほとんどデジタルで制作された。ピーター・ジャクソン監督は「デジタルの魔術師」と認知されているが、実際はコンピュータ音痴。デジタルに強いのは、あくまでも若いスタッフ達。
女優アン・ダロウは、映画監督カール・デナムと共に船に乗った。
シンガポールを舞台にした映画の撮影で、内容は冒険要素のある恋愛映画であると説明されていた。
だが、カール・デナムには秘密があった。
夜のうちに、船の針路が密かに変更される。スマトラを西に向かった海域だ。
カール・デナムは、秘密の地図を手に入れれていた。
まだ文明人が一度も足を踏み入れた歴史のない島。そこには、我々のまだ感じた経験のない神秘が待っている。
一方で、危険な島であった。
船員の一人が、警告をする。
「スマトラ沖で、漂流者を乗せたことがある。その島には、壁があった。大昔に誰かが作った、大きな壁だ。高さは30メートル。古いが、いたって頑丈だ。その壁の向うには、何かがいる。獣でも人でもない。馬鹿でかい怪物が潜んでいる……」
水夫の役で出演したアンディ・サーキス。キングコングやゴラムを演じた俳優だ。世界的な俳優だが、実際に顔を見たのは初めて、という人は多いはずだ。
こうして、謎と神秘の髑髏島に到着する。
1933年版の『キング・コング』では、髑髏島の住人は、いかにも無知な原始民族として描かれていた。しかも、まったくの未踏の島にも関わらず、何故か通訳の言葉が通じる場所だった。
現代の『キング・コング』はかつての映画とははっきりと違う趣向で描かれている。
現代は未知を失った時代だ。
我々は、モニターを通じて、世界中のあらゆる風景と現象を知るようになった。世界中のあらゆる事件は既知のものとなり、我々は現実世界から神秘を失った。
だからピーター・ジャクソンが描き出した髑髏島は、独創的で、恐ろしさをより強調するように描かれている。
当時の人々が感じていたであろう神秘と、恐ろしさを現代人の心理の中に再現しようとしているのだ。
ニュージーランド出身のピーター・ジャクソンは、髑髏島の原住人を、ニュージーランド人らしい配慮で描いている。リアルだが現実に存在するどの部族にも似ていないように描かれている。
それでいて、髑髏島の描写はどこまでも詳細で、現実感を持って描かれている。
登場する怪獣は独創的なものだが、生態系の連なりを重視して描かれている。
怪獣の動きは、旧作においては平面的でぎこちなかったが、2005年版の『キング・コング』では立体的に人間と交差し、肉体的なぶつかり合いすら見せる。
怪獣同士のぶつかり合いは素晴らしい技術で描かれ、過去の全ての恐竜映画を歴史の中に封印した。
イメージ自体は既知のものをレイヤリングしただけだが、圧倒的な重量感が見るものを神秘の島の冒険へと没入させる。
デジタル制作の怪獣達。よく「デジタルを使ってるから不自然だ」という批判をよく聞くが、そもそも映画は不自然それ自体である。馴染みがあるかないか、だけの話だ。冷静に映画を見てもらいたいものだ。
旧作を忠実に再現された『キング・コング』だが、いくつか変更、追加が加えられている。
一つは前半30分の説明的な場面だ。
オリジナル版では、何も説明もないまま、いきなりアン・ダロウが果物屋で林檎を盗む場面が描かれる。
同時代であれば、それで通用したかもしれない。
当時がどんな時代であったか、同時代であれば説明されずとも了解が得られたかもしれない。
だが、この映画は70年前の昔を描いた作品だ。当時がどんな時代で、どんな風俗を持っていたのか、改めて知る必要がある。
2005年版の『キング・コング』には多くの追加シーンがあるが、あくまでもドラマの構築として必要最低限のものでしかない。
いくつもの名シーンを復活させた『キングコング』。V-レックスとの対決シーンは旧作どおりの構図、展開にスケールだけが増幅されている。旧作への愛情が見えるシーンだ。
2005年版の『キング・コング』において大きな違いは、次の二つだ。
一つは、脚本家ドリスコルの登場だ。
旧作にもドリスコルに相当するような人物はいたが、ずっと曖昧で、特に重要なキャラクターではなかった。
2005年版の『キング・コング』ではアン・ダロウと心を通じ合わせる人物として、その重要度を高めている。
もう一つは、金髪の美女アン・ダロウと霊獣キング・コングとのかかわり方だ。
旧作ではアン・ダロウは、恐ろしい怪物から、ただ悲鳴を上げて逃げ回るだけだった。
それが、リメイク版『キング・コング』では濃密にキングコングと心を通わせ、ともに地平線に浮かぶ太陽を眺める。
何もかもが、ピーター・ジャクソンが子供時代に感じた感情を再現するためだ。
未知の世界への冒険に胸を躍らせ、ラストのキングコングの死に涙する。
変更点が加えられたのは、当時の人が感じ、子供であったピーター・ジャクソンが感じた感情を、多くの現代人の胸に再現するためだ。
最新のデジタル技術が甦らせた『キング・コング』。
だがピーター・ジャクソンが本当に甦らせたかったのは、当時と同じ“感動”なのである。
1933年オリジナル『キング・コング』の記事へ
『キング・コング デラックス・エクステンテッド・エディション』の記事へ
映画記事一覧
作品データ
監督・脚本:ピーター・ジャクソン
音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード
脚本:フラン・ウォルシュ フィリッパ・ボウエン
出演:ナオミ・ワッツ エイドリアン・ブロディ
〇〇〇ジャック・ブラック トーマス・クレッチマン
〇〇〇コリン・ハンクス ジェイミー・ベル
〇〇〇エヴァン・パーク アンディ・サーキス
果物屋の店主は、目ざとく女に警戒の目を向ける。
女は、ちらりと店主がこちらを見ていないのを確認して、林檎を一つ手に取り、懐にしまいこんだ。
「待て。金を払うんだ!」
店主が女の手を掴んだ。
女は逃げようと手を振り回そうとする。だが店主は、強い力で、女の手をしっかり掴んでいた。
そんな時、男が二人の間に割って入った。
「失礼。落としましたよ」
男は静かに店主を宥め、コインを差し出した。
ジャック・ブラックは傲慢な映画監督カール・デナムを独特のユーモアで演じた。ジャック・ブラックはそれまで通行人、やられ役などで多くの映画に出演(出演作品だけなら非常に多い)。だがたまたま主演を務めた『スクール・ロック』がビーター・ジャクソンの目に留まり、抜擢された。『キングコング』はジャック・ブラックにとっても転換点となる作品だ。
1933年に公開された、映画『キング・コング』はあまりにも有名な作品だ。
謎の島、髑髏島に探検に向かった撮影隊が、かつてない生き物に遭遇する。
はるか昔に絶滅したと考えられていた巨大生物の群れ。
そして、髑髏島の住人達から信仰の対象となっている霊獣キングコングの存在。
ピーター・ジャクソン監督が現代に甦らせた新しい『キング・コング』は、驚くほど当時のままだ。
当時と同じメロディに、当時の書体そのままのタイトルバック。
余計な追加や、浅はかなオリジナル要素などもない。
何もかもが当時のまま、ピーター・ジャクソン監督は1933年の情緒を現代の技術映画のスクリーンに再現させた。
1930年代の風景はほとんどデジタルで制作された。ピーター・ジャクソン監督は「デジタルの魔術師」と認知されているが、実際はコンピュータ音痴。デジタルに強いのは、あくまでも若いスタッフ達。
女優アン・ダロウは、映画監督カール・デナムと共に船に乗った。
シンガポールを舞台にした映画の撮影で、内容は冒険要素のある恋愛映画であると説明されていた。
だが、カール・デナムには秘密があった。
夜のうちに、船の針路が密かに変更される。スマトラを西に向かった海域だ。
カール・デナムは、秘密の地図を手に入れれていた。
まだ文明人が一度も足を踏み入れた歴史のない島。そこには、我々のまだ感じた経験のない神秘が待っている。
一方で、危険な島であった。
船員の一人が、警告をする。
「スマトラ沖で、漂流者を乗せたことがある。その島には、壁があった。大昔に誰かが作った、大きな壁だ。高さは30メートル。古いが、いたって頑丈だ。その壁の向うには、何かがいる。獣でも人でもない。馬鹿でかい怪物が潜んでいる……」
水夫の役で出演したアンディ・サーキス。キングコングやゴラムを演じた俳優だ。世界的な俳優だが、実際に顔を見たのは初めて、という人は多いはずだ。
こうして、謎と神秘の髑髏島に到着する。
1933年版の『キング・コング』では、髑髏島の住人は、いかにも無知な原始民族として描かれていた。しかも、まったくの未踏の島にも関わらず、何故か通訳の言葉が通じる場所だった。
現代の『キング・コング』はかつての映画とははっきりと違う趣向で描かれている。
現代は未知を失った時代だ。
我々は、モニターを通じて、世界中のあらゆる風景と現象を知るようになった。世界中のあらゆる事件は既知のものとなり、我々は現実世界から神秘を失った。
だからピーター・ジャクソンが描き出した髑髏島は、独創的で、恐ろしさをより強調するように描かれている。
当時の人々が感じていたであろう神秘と、恐ろしさを現代人の心理の中に再現しようとしているのだ。
ニュージーランド出身のピーター・ジャクソンは、髑髏島の原住人を、ニュージーランド人らしい配慮で描いている。リアルだが現実に存在するどの部族にも似ていないように描かれている。
それでいて、髑髏島の描写はどこまでも詳細で、現実感を持って描かれている。
登場する怪獣は独創的なものだが、生態系の連なりを重視して描かれている。
怪獣の動きは、旧作においては平面的でぎこちなかったが、2005年版の『キング・コング』では立体的に人間と交差し、肉体的なぶつかり合いすら見せる。
怪獣同士のぶつかり合いは素晴らしい技術で描かれ、過去の全ての恐竜映画を歴史の中に封印した。
イメージ自体は既知のものをレイヤリングしただけだが、圧倒的な重量感が見るものを神秘の島の冒険へと没入させる。
デジタル制作の怪獣達。よく「デジタルを使ってるから不自然だ」という批判をよく聞くが、そもそも映画は不自然それ自体である。馴染みがあるかないか、だけの話だ。冷静に映画を見てもらいたいものだ。
旧作を忠実に再現された『キング・コング』だが、いくつか変更、追加が加えられている。
一つは前半30分の説明的な場面だ。
オリジナル版では、何も説明もないまま、いきなりアン・ダロウが果物屋で林檎を盗む場面が描かれる。
同時代であれば、それで通用したかもしれない。
当時がどんな時代であったか、同時代であれば説明されずとも了解が得られたかもしれない。
だが、この映画は70年前の昔を描いた作品だ。当時がどんな時代で、どんな風俗を持っていたのか、改めて知る必要がある。
2005年版の『キング・コング』には多くの追加シーンがあるが、あくまでもドラマの構築として必要最低限のものでしかない。
いくつもの名シーンを復活させた『キングコング』。V-レックスとの対決シーンは旧作どおりの構図、展開にスケールだけが増幅されている。旧作への愛情が見えるシーンだ。
2005年版の『キング・コング』において大きな違いは、次の二つだ。
一つは、脚本家ドリスコルの登場だ。
旧作にもドリスコルに相当するような人物はいたが、ずっと曖昧で、特に重要なキャラクターではなかった。
2005年版の『キング・コング』ではアン・ダロウと心を通じ合わせる人物として、その重要度を高めている。
もう一つは、金髪の美女アン・ダロウと霊獣キング・コングとのかかわり方だ。
旧作ではアン・ダロウは、恐ろしい怪物から、ただ悲鳴を上げて逃げ回るだけだった。
それが、リメイク版『キング・コング』では濃密にキングコングと心を通わせ、ともに地平線に浮かぶ太陽を眺める。
何もかもが、ピーター・ジャクソンが子供時代に感じた感情を再現するためだ。
未知の世界への冒険に胸を躍らせ、ラストのキングコングの死に涙する。
変更点が加えられたのは、当時の人が感じ、子供であったピーター・ジャクソンが感じた感情を、多くの現代人の胸に再現するためだ。
最新のデジタル技術が甦らせた『キング・コング』。
だがピーター・ジャクソンが本当に甦らせたかったのは、当時と同じ“感動”なのである。
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『キング・コング デラックス・エクステンテッド・エディション』の記事へ
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作品データ
監督・脚本:ピーター・ジャクソン
音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード
脚本:フラン・ウォルシュ フィリッパ・ボウエン
出演:ナオミ・ワッツ エイドリアン・ブロディ
〇〇〇ジャック・ブラック トーマス・クレッチマン
〇〇〇コリン・ハンクス ジェイミー・ベル
〇〇〇エヴァン・パーク アンディ・サーキス
本の中は、本物の動物図鑑のように作られている。登場した怪獣の詳しい生態や骨格、調査資料などが羅列されている。映画中の怪獣はもちろん実在しないが、「本当にいるという前提」を徹底したのだとよくわかる。
ちなみにこの怪獣図鑑には、実際に髑髏島に向かった探検隊たちが製作したことになっている。その探検隊の中に、ちゃっかりピーター・ジャクソン監督が混じっている。
キング・コングのDVD版には、楽しい特典がついてくる。
『THE WORLD OF KONG』と題された小さな本で、内容は髑髏島の図鑑となっている。
映画の設定資料がおまけとしてついてくることはあるが、髑髏島の設定をあくまでも現実世界のものとして、図鑑になっているのが珍しい。
登場する怪獣の一つ一つの生態が詳しく描かれ、映画技術に興味がない人でもちょっと楽しい。
美術資料としても、非常に優れた一冊で、『ロード・オブ・ザ・リング』で集められたスタッフが、優秀な人材として成長したことを確認できる。
DVDのおまけというより、本棚に並べたい一冊だ。
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