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■2009/08/22 (Sat)
創作小説■
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判】
7
屋敷の中は、次第に明るくなっていく。屋敷を取り囲む自然も、賑やかにさえずり始めている。なのに、屋敷の中は奇妙なくらい沈黙していた。人の声どころか、気配すら感じない。
「それにしても、静かな屋敷ですよね。昨日はたくさん人がいたように思えたんですけど、どうしたんですか?」
私は屋敷を見回しながら時田に訊ねた。やはり、それだけ広すぎるのだろうか。
「見合いの儀の期間中は、最低限の警備を残して、使用人はほとんど帰宅しております。もしうっかり目を合わせてしまったら、大変ですからな。見合いの儀を拒否したい者は、この町から一時的に出ておりますよ」
「それでいいんだ……」
時田の説明に、私は呆れたようにため息をついた。見合いの儀が嫌なら、街を出ればいいという話だったのか。というか、やっぱりみんな見合いの儀を嫌がってたんだね。
「どちらかといえば糸色家当主、大様の余興、という部分が大きいですからな。とはいえ、そのおかげでこの町での成婚率、出生率ともに安定しております。外の世界では晩婚化、少子化などと騒がれていますが、この町ではそんな話は聞きませぬな。こういった自由恋愛が複雑化している時代だからこそ、意外に必要なシステムかもしれません」
時田は歩きながら考えをまとめるように話をした。
私は、なるほど、と思って聞いていた。迷惑に思える見合いの儀も、役に立つところはあるらしい。
「そうそう、少し寄り道して行きましょう。実は料理人も出ておりましてな。厨房に食事の作り置きがあるのですよ。せっかくですので、運んで行きましょう。私一人ですので、日塔さんにも手伝ってもらえるとありがたいのですが」
「ええ、いいですよ」
私は頷いて了解した。
時田は次の角を右に曲がり、奥詰まった場所へと入っていった。間もなく現れた左手の部屋が、厨房だった。
厨房は広々としていて、地面が土間になっていた。大きなテーブルが二つ置かれて、壁にコンロや洗い場がたくさん並んでいた。どこかの料亭みたいな眺めだった。
ただ今は料理人の姿はなく、鍋類も寸胴も綺麗に整頓されている。無人の厨房に朝の真っ白な光が差し込んで、清潔な空間だったから、廃墟のような寂しさはなかった。
テーブルの上に、大皿がいくつか置かれ、おにぎりが満載にしてあった。どうやら、あれが作り置きらしい。
でもそんな厨房に、動く気配があった。テーブルに隠れるように、陰がもぞもぞと動いている。
「誰?」
私は身を乗り出して呼びかけてみた。
影がくるりとこちらを振り向いた。マリアだった。マリアは淡いピンクの着物に、ワンピースのようなものを羽織らせていた。
「マリアちゃんじゃない。駄目じゃない、人の家のものを勝手に食べちゃ」
私は目を伏せながら、草履を履いて厨房に入っていった
「でも、もう誰か食ってたぞ」
マリアは天真爛漫な笑顔でこちらを振り向き、テーブルを指さした。私はさっと目元を掌で覆う。この子は多分、見合いの儀のルールを理解していない。
私はマリアの視線をかわしつつ、テーブルの前に進んだ。確かに、空になったボウルが一つ置かれていた。ボウルの底と縁に、ぬめりが残っている。おそらくスープのようなものが入れてあったのだろう。
「きっと、先生だよ。ほら、マリアちゃんもおにぎり運ぶの手伝って。ご飯にしよう」
私はマリアを嗜めて、大皿の前に向かった。スープが入れてあったらしいボウルは、時田が洗い場にもって行き洗水した。
次回032 第4章 見合う前に跳べ8 を読む
小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
P031 第4章 見合う前に跳べ
7
屋敷の中は、次第に明るくなっていく。屋敷を取り囲む自然も、賑やかにさえずり始めている。なのに、屋敷の中は奇妙なくらい沈黙していた。人の声どころか、気配すら感じない。
「それにしても、静かな屋敷ですよね。昨日はたくさん人がいたように思えたんですけど、どうしたんですか?」
私は屋敷を見回しながら時田に訊ねた。やはり、それだけ広すぎるのだろうか。
「見合いの儀の期間中は、最低限の警備を残して、使用人はほとんど帰宅しております。もしうっかり目を合わせてしまったら、大変ですからな。見合いの儀を拒否したい者は、この町から一時的に出ておりますよ」
「それでいいんだ……」
時田の説明に、私は呆れたようにため息をついた。見合いの儀が嫌なら、街を出ればいいという話だったのか。というか、やっぱりみんな見合いの儀を嫌がってたんだね。
「どちらかといえば糸色家当主、大様の余興、という部分が大きいですからな。とはいえ、そのおかげでこの町での成婚率、出生率ともに安定しております。外の世界では晩婚化、少子化などと騒がれていますが、この町ではそんな話は聞きませぬな。こういった自由恋愛が複雑化している時代だからこそ、意外に必要なシステムかもしれません」
時田は歩きながら考えをまとめるように話をした。
私は、なるほど、と思って聞いていた。迷惑に思える見合いの儀も、役に立つところはあるらしい。
「そうそう、少し寄り道して行きましょう。実は料理人も出ておりましてな。厨房に食事の作り置きがあるのですよ。せっかくですので、運んで行きましょう。私一人ですので、日塔さんにも手伝ってもらえるとありがたいのですが」
「ええ、いいですよ」
私は頷いて了解した。
時田は次の角を右に曲がり、奥詰まった場所へと入っていった。間もなく現れた左手の部屋が、厨房だった。
厨房は広々としていて、地面が土間になっていた。大きなテーブルが二つ置かれて、壁にコンロや洗い場がたくさん並んでいた。どこかの料亭みたいな眺めだった。
ただ今は料理人の姿はなく、鍋類も寸胴も綺麗に整頓されている。無人の厨房に朝の真っ白な光が差し込んで、清潔な空間だったから、廃墟のような寂しさはなかった。
テーブルの上に、大皿がいくつか置かれ、おにぎりが満載にしてあった。どうやら、あれが作り置きらしい。
でもそんな厨房に、動く気配があった。テーブルに隠れるように、陰がもぞもぞと動いている。
「誰?」
私は身を乗り出して呼びかけてみた。
影がくるりとこちらを振り向いた。マリアだった。マリアは淡いピンクの着物に、ワンピースのようなものを羽織らせていた。
「マリアちゃんじゃない。駄目じゃない、人の家のものを勝手に食べちゃ」
私は目を伏せながら、草履を履いて厨房に入っていった
「でも、もう誰か食ってたぞ」
マリアは天真爛漫な笑顔でこちらを振り向き、テーブルを指さした。私はさっと目元を掌で覆う。この子は多分、見合いの儀のルールを理解していない。
私はマリアの視線をかわしつつ、テーブルの前に進んだ。確かに、空になったボウルが一つ置かれていた。ボウルの底と縁に、ぬめりが残っている。おそらくスープのようなものが入れてあったのだろう。
「きっと、先生だよ。ほら、マリアちゃんもおにぎり運ぶの手伝って。ご飯にしよう」
私はマリアを嗜めて、大皿の前に向かった。スープが入れてあったらしいボウルは、時田が洗い場にもって行き洗水した。
次回032 第4章 見合う前に跳べ8 を読む
小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
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