小説・さよなら絶望先生 ~赤い瞳の少女~ P030

2009.08.21 - 創作小説
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判

P030 第4章 見合う前に跳べ


廊下の土壁にもたれかかってウトウトとしていると、辺りが白く輝きだすのを感じた。目を開けると、庭園が青く浮かぶのが見えた。水平線がじわりと赤く輝き始めている。庭園の森林は、夜の影を残しながら静かにその姿を克明にしている。
私は身を起こして、左右を見た。誰も見ていないのを確認。私は他人の家で迷子になった挙句、廊下で野宿をするという珍しい体験をしてしまった。だけど、あえてそれを誰かに言いたいと思わない。さすがにちょっと恥ずかしい。
私は立ち上がって、欠伸と背伸びを同時にした。固まった腰をポキポキと鳴らす。
それから私は、しばし廊下の端に進み出て、日が昇りかける庭園を眺めた。こちらは貴重な経験だった。
やがて森林の向うに、真っ白に輝く光が現れた。ついに夜明けだ。私は日の出を見届けて、そろそろと行動を移りはじめた。
私はもう棚から牡丹餅とか、そういう考えはなかった。とにかく人恋しくて、誰かと合流して話でもしたかった。
そう思って廊下を曲がると、ふっと誰かが現れた。私はさっと目を背けた。相手も目を背けた。それから私は、目線を落としたまま相手を確認した。時田だった。
「どうなさいました? 望ぼっちゃまは見付かりましたかな」
時田は穏やかな執事の調子で私に声をかけた。
「いえ、どうも道に迷ったみたいで。皆はどこにいるんですか。はじめにいた客間に戻りたいんですけど」
私は恥ずかしいとか思わずに、率直に道を尋ねた。
「東の屋敷ですな。どうぞこちらへ。案内しましょう」
時田は丁寧に言って、背中を向けた。私は安心して顔を上げて、時田の背中を追って歩き始めた。
「……先生は今、どうしています? もう誰かと目を合わせちゃいましたか」
ちょっと知るのが恐いけど、それでも尋ねてみた。
「いいえ。望ぼっちゃまはしぶとく逃亡中ですよ」
私はほっと息を吐いた。例え同じクラスの友達でも、糸色先生が誰かのものになってしまったと思うと、穏やかな気持ちではいられないような気がする。
「時田さんは、先生を子供の頃から知っているんですか?」
私は少し安心したついでに、なんでもない話題を投げかけた。
「そうですね。お仕えして、もう随分になります」
時田は、遠い過去を回想するように、顔を上げた。その声が、年齢の深みを感じさせるようだった。
「先生の子供の頃って、どうでした? やっぱり今みたいに落ち着きのある子供だったんですか?」
私は楽しげな気分で、時田の背中に訊ねた。
「いいえ。高校時代まで随分やんちゃな子供でしたな。しかし、あれは17歳の時でしたな。大きな事件があって……。いや、これは話すべきことじゃありませんでしたな」
「……はあ」
時田は何かを話かけたが、中断してしまった。どんな話だったんだろう。でも、今は聞くべきタイミングじゃないような気がした。
私は時田に従いて、廊下を進んで行った。時田は迷いなく廊下を進んでいく。屋敷はまだ夜が明けたばかりで、暗い影を落としている。中庭を横切った。淡い光が射しているけど、それでもまだ常夜灯の明かりのほうが際立っていた。
庭園の鳥たちは、すでに目を覚ましてざわざわとし始めている。風も目を覚ますように草や花を揺らしている。まだ暗くても、自然の時間はもう夜ではないという感じだったし、ここにいるとそれが肌で感じられた。
だけど時田は、はっとしたふうに足を止めた。
「おや、これはしまった」
時田らしくない高い声だった。
「どうしました?」
私も足を止めて、ちょっと時田を覗きこむようにした。
「話ながらでしたので、道を間違えてしまった。いや、お恥ずかしい。さっきの道を左でしたな」
時田は気まずそうに目線を落としながら、回れ右をした。
私は時田が通れるように場所を開けた。
「広いお屋敷ですものね。そりゃ、道も間違えますよ」
私は軽くフォローした。確かに道に迷って戻れなくなるくらい広い屋敷だ。間違えるくらいするだろう。

次回 P031 見合う前に跳べ7 を読む

小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次

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