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■2009/08/16 (Sun)
創作小説■
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判】
1
客間に戻ると、夕食の準備が始まった。私たち9人が向き合わせて座ると、女中たちが膳を持って入ってきた。夕食は高級料亭でしかお目にかかれそうもない懐石料理だった。
ご飯、味噌汁に、向付に刺身が盛り付けられ、山菜と大根を和えたサラダが並び、白菜の漬物が添えられていた。ご飯も味噌汁も碗の底が深く、量はちょっと多めだった。
料理の準備が済むと、女中たちは丁寧に頭を下げて、静かに客間を立ち去っていった。料理の豪華さに、私はなんとなく自分が場違いなような緊張を感じながら食事をいただいた。最初の「いただきます」の後、誰も言葉を交わさなかった。多分、みんな同じように緊張していたのだろう。
全員の食事が終る頃になると、再び女中たちが客間に入ってきた。女中たちは手早く膳を重ねて運び出していく。その女中たちと入れ替わるように、今度は着物を持った女中たちが入ってきた。
私たちはこれといった説明もされないままに、「お召し物をどうぞ」と着替えることになった。女中たちは私たちの服を脱がせると、持ってきた着物を代わりに着せる。
でも、着物そのものの感触は悪くなかった。初めて袖を通す振袖は締め付けも少なかったし、面倒な着付けはみんな女中がやってくれた。私の振袖は淡い水色で、花の模様が一面に散りばめられていた。やはり振袖は高級品らしく、気後れするところはあったけど、手鏡で覗いてみた自分の姿は意外なくらい可愛くて、すっかり気に入ってしまった。
みんなの着付けが終ると、女中たちは部屋から去っていった。私たちの服は、女中たちが畳んで持っていってしまった。
女中たちと入れ替わるように、今度は時田が客間に入ってきた。時田に続くように、糸色先生が首をうなだれさせながら入ってきた。糸色先生は、普段どおりの袴姿に戻っていた。
「それでは皆さん、準備が整ったようですね。ではご説明しますので、適当なところにお座り下さい」
時田は欄間の下に立つと、私たちに丁寧なお辞儀をした。
いつの間にか、座布団は欄間を前に、一列の半円状に並び替えられていた。私たちが適当な場所に座ると、襖が開いて、黒子衣装の人たちが入ってきた。黒子衣装の人たちは、欄間にスクリーンを吊るし、私たちの後ろに映写機を設置した。映写機は随分古いものだった。色褪せたブリキのボディに、手回し式のハンドルがついていた。そんな映写機が三脚の上に組み立てられていく。
準備が終ると客間の照明が暗く落ちて、僅かな間接照明の光だけが残った。かたかたと映写機が動き始めた。正面のスクリーンにぼんやりとした光の像が浮かび上がる。間もなく像は色を持ち始め、二組の人形のようなものを浮かばせ始めた。
「……糸色家の“見合いの儀”についてご説明します……」
映画の音声は、昔の子供の声みたいだった。音源が古いらしく、声は一定に流れず、何度も間伸びした。
映像は茶色に焼けつつあった。画像の中央に、男と女を示した人形が現れるが、像が滲んでぼんやりとしたシルエットを浮かばせるだけだった。それが、不規則にガタガタと揺れている。
「……場所は当領地内。期間は丸一日。子の刻より24時間が対象となります」
スクリーンに糸色家を俯瞰から捉えた写真が浮かんだ。次に、振り子時計の画像が溶け込むように浮かび上がる。
「その間、目の合ったその時点で、成立。その二人は即、結婚していただきます」
ふたたび男と女を象った人形が浮かび、見詰め合う場面が映し出された。最後に、結婚装束を身につけた男と女の画像に変わり、映画は終った。
次回 P026 見合う前に跳べ2 を読む
小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
P025 第4章 見合う前に跳べ
1
客間に戻ると、夕食の準備が始まった。私たち9人が向き合わせて座ると、女中たちが膳を持って入ってきた。夕食は高級料亭でしかお目にかかれそうもない懐石料理だった。
ご飯、味噌汁に、向付に刺身が盛り付けられ、山菜と大根を和えたサラダが並び、白菜の漬物が添えられていた。ご飯も味噌汁も碗の底が深く、量はちょっと多めだった。
料理の準備が済むと、女中たちは丁寧に頭を下げて、静かに客間を立ち去っていった。料理の豪華さに、私はなんとなく自分が場違いなような緊張を感じながら食事をいただいた。最初の「いただきます」の後、誰も言葉を交わさなかった。多分、みんな同じように緊張していたのだろう。
全員の食事が終る頃になると、再び女中たちが客間に入ってきた。女中たちは手早く膳を重ねて運び出していく。その女中たちと入れ替わるように、今度は着物を持った女中たちが入ってきた。
私たちはこれといった説明もされないままに、「お召し物をどうぞ」と着替えることになった。女中たちは私たちの服を脱がせると、持ってきた着物を代わりに着せる。
でも、着物そのものの感触は悪くなかった。初めて袖を通す振袖は締め付けも少なかったし、面倒な着付けはみんな女中がやってくれた。私の振袖は淡い水色で、花の模様が一面に散りばめられていた。やはり振袖は高級品らしく、気後れするところはあったけど、手鏡で覗いてみた自分の姿は意外なくらい可愛くて、すっかり気に入ってしまった。
みんなの着付けが終ると、女中たちは部屋から去っていった。私たちの服は、女中たちが畳んで持っていってしまった。
女中たちと入れ替わるように、今度は時田が客間に入ってきた。時田に続くように、糸色先生が首をうなだれさせながら入ってきた。糸色先生は、普段どおりの袴姿に戻っていた。
「それでは皆さん、準備が整ったようですね。ではご説明しますので、適当なところにお座り下さい」
時田は欄間の下に立つと、私たちに丁寧なお辞儀をした。
いつの間にか、座布団は欄間を前に、一列の半円状に並び替えられていた。私たちが適当な場所に座ると、襖が開いて、黒子衣装の人たちが入ってきた。黒子衣装の人たちは、欄間にスクリーンを吊るし、私たちの後ろに映写機を設置した。映写機は随分古いものだった。色褪せたブリキのボディに、手回し式のハンドルがついていた。そんな映写機が三脚の上に組み立てられていく。
準備が終ると客間の照明が暗く落ちて、僅かな間接照明の光だけが残った。かたかたと映写機が動き始めた。正面のスクリーンにぼんやりとした光の像が浮かび上がる。間もなく像は色を持ち始め、二組の人形のようなものを浮かばせ始めた。
「……糸色家の“見合いの儀”についてご説明します……」
映画の音声は、昔の子供の声みたいだった。音源が古いらしく、声は一定に流れず、何度も間伸びした。
映像は茶色に焼けつつあった。画像の中央に、男と女を示した人形が現れるが、像が滲んでぼんやりとしたシルエットを浮かばせるだけだった。それが、不規則にガタガタと揺れている。
「……場所は当領地内。期間は丸一日。子の刻より24時間が対象となります」
スクリーンに糸色家を俯瞰から捉えた写真が浮かんだ。次に、振り子時計の画像が溶け込むように浮かび上がる。
「その間、目の合ったその時点で、成立。その二人は即、結婚していただきます」
ふたたび男と女を象った人形が浮かび、見詰め合う場面が映し出された。最後に、結婚装束を身につけた男と女の画像に変わり、映画は終った。
次回 P026 見合う前に跳べ2 を読む
小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
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