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■2009/07/30 (Thu)
創作小説■
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判】
6
誰かが保健室に入ってきた。
「具合はどう? 少し頭をぶつけたと聞いたけど」
カーテンを開けて覗き込んできたのは新井智恵先生だった。その後ろに、糸色先生と千里がいた。
私は体を起こして、足をベッドの外に出した。
「いえ、別に。寝起きで体がちょっと怠いだけです」
私は先生を不安にさせないように、と軽く微笑んで答えた。糸色先生がほっと胸を撫でていた。
「そう。それならいいわ。一応、体温だけ測っておくわ。ショックで気絶しただけだから、何も問題はないと思うけど、念のためにね」
智恵先生にも安心したような笑顔が漏れた。智恵先生は机の上に置かれた抽斗を開けて体温計を引っ張り出すと、私に手渡した。それから、スツールをもう一つ持ってきて、可符香の隣に座った。
私はセーラー服の裾をつかんで、体温計を体の中に潜り込ませようとした。でも、糸色先生を気にするようにちらと見た。糸色先生はあっと顔を赤くして、背を向けた。私はセーラー服をまくって、体温計を脇の下に入れた。
「それで、智恵先生。あの、あれはいったい、何だったんですか?」
私は躊躇いがちに、あのホルマリン漬けについて訊ねた。
智恵先生は、呆れたというふうに溜め息をついた。
「もう高校生でしょ。説明が必要なの?」
「いや、そうじゃなくて……」
私は苦笑いを浮かべて首を振った。
「智恵先生。あまりそういう発言は。未成年の前ですので」
糸色先生がちらと顔を智恵先生のほうに向けて注意した。
「あらそうね。糸色先生、もうこっち見ても大丈夫ですよ」
智恵先生が首をひねって糸色先生を見上げた。糸色先生がこちらを向いた。
「あれが何なのかくらい、ちゃんとわかります。そうじゃなくて、どうしてあんな部屋が用務員室にあって、あんなものがホルマリン漬けにされていたのか、それを聞きたいんです。」
千里が腕組をして、調子を強く言った。
「千里ちゃん、あれを見たの?」
「うん、まあ……」
私は千里を振り返った。すると千里は顔を暗くしてうつむいた。
「奈美ちゃんが倒れた後、真っ先に委員長が駆けつけてくれたんだよ」
可符香が明るい声で補足した。つまり、警察がやってくる前に、千里はあのホルマリン漬けを見てしまったわけだ。
私は千里に同情を込めた目で振り返った。千里は腕組を解いて、指先で忌まわしい記憶を消そうとするように額を撫でていた。いつもきっちり振り分けられている富士額が、今だけ少し乱れて見えた。
「それはつまり、こういうことでしょう。切り落としたから、ホルマリン漬けにして保管した。蘭京さんの密かなコレクションだったんじゃないかしら。あの部屋は、誰にも見付からずコレクションを蒐集するために作った秘密の部屋」
智恵先生は膝の上に両掌を組み合わせて、さも当り前というように説明した。
「そんな趣味、あるんですか?」
私はどんな表情を作っていいかわからず、声と表情を引き攣らせた。
私の脇の下で、ピピと音がした。体温計が音を鳴らしたのだ。私はセーラー服の下に手を突っ込んで、体温計を取り出し、智恵先生に手渡した。
「36度5分。平熱ね。問題なさそうだわ」
千恵先生は軽く笑顔を浮かべて頷き、席を立った。体温計をケースに入れて、引き出しに戻す。
「それで、その、智恵先生?」
私は智恵先生を目で追いかけて、話の続きを聞こうとした。
智恵先生が私たちを振り返って、胸の下で腕を組み合わせた。
「ネクロサディズムと呼ばれる性倒錯の一種ね。1980年から1990年にかけて、ロシアのロストフ州の森で、判明しているだけで50人の子供の死体が発見されたわ。死体はいずれも陵辱の跡が残り、性器が持ち去られていた。男の子ならペニスを。女の子なら子宮がくり貫かれていたそうよ。後に犯人であるアンドレイ・チカチーロが逮捕された後、彼の自宅からは夥しい数の性器コレクションが発見された」
智恵先生の言葉は重く、沈黙した保健室にしばらく残るような気がした。
アンドレイ・チカチーロに関する説明は、正確なものではありません。小説の演出のために、脚色が加えられています。ウェキペディアの記述などを参考にしてください。
次回 P010 第2章 毛皮のビースト7 を読む
小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
P009 第2章 毛皮を着たビースト
6
誰かが保健室に入ってきた。
「具合はどう? 少し頭をぶつけたと聞いたけど」
カーテンを開けて覗き込んできたのは新井智恵先生だった。その後ろに、糸色先生と千里がいた。
私は体を起こして、足をベッドの外に出した。
「いえ、別に。寝起きで体がちょっと怠いだけです」
私は先生を不安にさせないように、と軽く微笑んで答えた。糸色先生がほっと胸を撫でていた。
「そう。それならいいわ。一応、体温だけ測っておくわ。ショックで気絶しただけだから、何も問題はないと思うけど、念のためにね」
智恵先生にも安心したような笑顔が漏れた。智恵先生は机の上に置かれた抽斗を開けて体温計を引っ張り出すと、私に手渡した。それから、スツールをもう一つ持ってきて、可符香の隣に座った。
私はセーラー服の裾をつかんで、体温計を体の中に潜り込ませようとした。でも、糸色先生を気にするようにちらと見た。糸色先生はあっと顔を赤くして、背を向けた。私はセーラー服をまくって、体温計を脇の下に入れた。
「それで、智恵先生。あの、あれはいったい、何だったんですか?」
私は躊躇いがちに、あのホルマリン漬けについて訊ねた。
智恵先生は、呆れたというふうに溜め息をついた。
「もう高校生でしょ。説明が必要なの?」
「いや、そうじゃなくて……」
私は苦笑いを浮かべて首を振った。
「智恵先生。あまりそういう発言は。未成年の前ですので」
糸色先生がちらと顔を智恵先生のほうに向けて注意した。
「あらそうね。糸色先生、もうこっち見ても大丈夫ですよ」
智恵先生が首をひねって糸色先生を見上げた。糸色先生がこちらを向いた。
「あれが何なのかくらい、ちゃんとわかります。そうじゃなくて、どうしてあんな部屋が用務員室にあって、あんなものがホルマリン漬けにされていたのか、それを聞きたいんです。」
千里が腕組をして、調子を強く言った。
「千里ちゃん、あれを見たの?」
「うん、まあ……」
私は千里を振り返った。すると千里は顔を暗くしてうつむいた。
「奈美ちゃんが倒れた後、真っ先に委員長が駆けつけてくれたんだよ」
可符香が明るい声で補足した。つまり、警察がやってくる前に、千里はあのホルマリン漬けを見てしまったわけだ。
私は千里に同情を込めた目で振り返った。千里は腕組を解いて、指先で忌まわしい記憶を消そうとするように額を撫でていた。いつもきっちり振り分けられている富士額が、今だけ少し乱れて見えた。
「それはつまり、こういうことでしょう。切り落としたから、ホルマリン漬けにして保管した。蘭京さんの密かなコレクションだったんじゃないかしら。あの部屋は、誰にも見付からずコレクションを蒐集するために作った秘密の部屋」
智恵先生は膝の上に両掌を組み合わせて、さも当り前というように説明した。
「そんな趣味、あるんですか?」
私はどんな表情を作っていいかわからず、声と表情を引き攣らせた。
私の脇の下で、ピピと音がした。体温計が音を鳴らしたのだ。私はセーラー服の下に手を突っ込んで、体温計を取り出し、智恵先生に手渡した。
「36度5分。平熱ね。問題なさそうだわ」
千恵先生は軽く笑顔を浮かべて頷き、席を立った。体温計をケースに入れて、引き出しに戻す。
「それで、その、智恵先生?」
私は智恵先生を目で追いかけて、話の続きを聞こうとした。
智恵先生が私たちを振り返って、胸の下で腕を組み合わせた。
「ネクロサディズムと呼ばれる性倒錯の一種ね。1980年から1990年にかけて、ロシアのロストフ州の森で、判明しているだけで50人の子供の死体が発見されたわ。死体はいずれも陵辱の跡が残り、性器が持ち去られていた。男の子ならペニスを。女の子なら子宮がくり貫かれていたそうよ。後に犯人であるアンドレイ・チカチーロが逮捕された後、彼の自宅からは夥しい数の性器コレクションが発見された」
智恵先生の言葉は重く、沈黙した保健室にしばらく残るような気がした。
アンドレイ・チカチーロに関する説明は、正確なものではありません。小説の演出のために、脚色が加えられています。ウェキペディアの記述などを参考にしてください。
次回 P010 第2章 毛皮のビースト7 を読む
小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
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