■ 最新記事
(08/15)
(08/14)
(08/13)
(08/12)
(08/11)
(08/10)
(08/09)
(08/08)
(08/07)
(08/06)
■ カテゴリー
お探し記事は【記事一覧 索引】が便利です。
■2016/02/28 (Sun)
創作小説■
第6章 フェイク
前回を読む
11
かな恵が去った後も、画廊には何ともいえない空気が漂っていた。ツグミも高田も何も言わず、ガラス戸を眺めていた。ツグミはもう一度、かな恵が模写したニコラ・プッサンの絵に目を向ける。
「あの、高田さん、私ちょっと2階の書斎に行ってもいいですか。資料見ながら確認したいので」
高田を振り向き、訊ねる。高田はちらとかな恵の絵を覗き込もうとする。ツグミは、高田に絵を見せるようにした。高田には、ニコラ・プッサンということも、かな恵が模写した絵ということもわからないだろう。
「何か、手伝いましょうか?」
台所に引っ込んでいた木野が、顔を出した。どこから話を聞いていたのだろう?
「いいえ。集中力のいる仕事ですから。1人にさせてください」
ここはきっぱりと断った。
ツグミは2階に上がった。書斎に入る前に、1度そっと振り返ってみる。高田も木野も、従いてきていない。警戒されてないようだ。
ツグミは書斎に入ると、ドアにもたれかかって「ふぅ」と息を漏らした。何だか緊張する。
自分の机に着いて、絵画を机の上に置く。かな恵の言葉を思い出した。
「秘密のお願い」「中のほうも」……それから「I hide here」と書かれた碑文。
かな恵がこんな回りくどいことをする理由はいったい何だろう。このニコラ・プッサン自体は、その以前にかな恵が描いたものだろう。しかし「I hide here」の部分だけ、絵具が新しい。ごく最近になって、描き足されたものだ。
ツグミはそっと「I hide here」が書かれた墓石のところに指を乗せてみた。そこに、何かがあった。すっと指を他の部分へと移してみる。わずかに段差を感じる。ツグミは、その周辺を指でなぞってみた。「I hide here」と書かれたそこに、正方形の何かが隠されている。間違いなさそうだった。
ツグミは席を立つと、ドアを開いて警戒するように廊下を見回した。誰もいない。ちょっと足を潜めるようにして向かい側の物置へ入ると、釘抜きだけを手に取り、書斎に戻った。
再び机に戻り、絵画を手に取った。左手でしっかり固定して、キャンバスを固定している釘に釘抜きを当てた。
力を入れにくい。1人だとやりづらい。誰かに手伝ってもらいたかったけど、かな恵が「ツグミだけに……」と強調したのには、それなりの意味があるとツグミは考えていた。
ツグミは物音を立てないように充分注意をしながら、キャンバス下の釘を2本、引き抜いた。それからキャンバスを机の上に置き、絵具が剥離しないように麻布をそっとつまみあげて、中を覗き込んでみた。
すると、何かが入っていた。ちょうど「I hide here」のところに、折りたたまれた紙切れが1枚。
ツグミは、ピンセットで紙切れを引き抜いた。かなり弱い糊が付けられていたけど、簡単に取れた。
薄い紙だった。開けてみると……、
“レンブラント『ガリラヤの海の嵐』を用意せよ。人質を交換。連絡先090-××××××××”
次回を読む
目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
PR