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■2016/02/19 (Fri)
創作小説■
第9章 暗転
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12
今度こそ戦闘は終わった。ソフィーがオークの側に駆け寄る。オーク
「怪我は?」
ソフィー
「平気です」
お互いの無事を確認すると、オーク達は再び草むらを進んだ。
霧は次第に深くなっていき、視界が暗く溶け込んでいく。ふとその中に、赤く燃えるものが浮かんでいた。近付いてみると、それはランプの炎だった。鉄の柱がひとつ立ち、その先端にランプが引っ掛けられていた。
オークは奇妙な心地になりながら、ランプの炎を見詰める。
やがて草むらばかりの場所を脱した。硬い土がじばらく続き、その先に大きな屋敷が一軒建つのが見えた。その背後は海になっていて、波の音が密かに聞こえた。
一同は屋敷の前にやってきて、足を止めた。オークはソフィーを確かめるように振り向く。ソフィーもオークを振り向き、一度頷いた。あそこがバゲインの根城だ。
兵士達は警戒しながら、屋敷に近付いた。屋敷は古い歴史がありそうなものを感じさせた。だが華麗な装飾の数々も、堂々たる威容も、今は崩れかけて、すべてが妖しさに変えて浮かび上がっていた。
兵士達が近付くと、屋敷の玄関扉がひとりで開いた。まるで挑戦者を誘うように。
ソフィーは一歩前に出て、光の珠を屋敷の中に投げた。玄関口が一瞬明るく浮かぶ。人の気配はない。
オークとアレスが先頭に立ち、屋敷の中へと入っていった。数人を屋敷の前に残す。ソフィーが後に続き、後ろから杖で照らした。
玄関口に入っていく。すると、何者かが蝋燭に火を入れた。オーク達がはっと振り向く。するとそこに、女が立っていた。女はオーク達の警戒を気にするふうもなく、あちこちに備えられた蝋燭に火を入れていく。
それから女は、オーク達を振り返ると、妖しく微笑んで右手の廊下を示した。
アレス
「おのれあやかしめ!」
アレスが踏み込んだ。だが剣は宙を斬る。女はその瞬間消滅した。後に不気味な哄笑を残して。
オーク達は、女が示した通り、右の廊下へと進んだ。辿り着いたのは食堂だった。埃や藁が厚く降り積もる床に、テーブルがひとつ置かれている。テーブルにはスープが人数分用意されていた。その角席に、主と思わしき男が座っていた。人間のように見えたけど、皮膚が岩のようにごつごつとしていて、食事をむしゃむしゃと咀嚼していた。
部屋へ入っていくと、頭から麻布を被った幽鬼達が、オーク達を取り囲んだ。麻布を被った幽鬼たちは、それぞれ手に剣を持っている。
バゲイン・ミルディ
「おお、これは懐かしい。名を失ったのにも関わらず、幽鬼にならずにいたか」
オーク
「貴様!」
オークが憤慨して剣を身構えた。
バゲイン・ミルディ
「そう怒るな。名前を譲り合った仲じゃないか。ミルディ! いい名前だ。ドル族のミルディ。人は呼ばれた通りの者だ。俺は今や怪物じゃなくて、ドル族の長だ。だから、同じ一族を生かすのも殺すのも自由だよなぁ」
オーク
「貴様か……貴様が我が古里を崩壊させたのか!」
オークがテーブルを蹴り倒した。一気に接近し、バゲインを斬る。が、手応えなく剣がすり抜けた。
バゲイン・ミルディ
「ははっ! どうした。それはマッサージか」
バゲインはおどけたように両手を広げてみせる。オークはバゲインを何度も斬る。だが、その剣はバゲインの体をすり抜けてしまう。
食堂の周囲を取り囲む幽鬼が兵士達に迫った。アレス達が幽鬼と剣を交える。
アレス
「オーク殿!」
バゲイン・ミルディ
「お前がいないと、あの村の連中は無能だったぜ。戦いの方法も心得ない。知恵もない。ただの百姓だ!」
オークは尚もバゲインを斬る。
バゲイン・ミルディ
「どうしたどうした! 斬りたくても斬れまい。憎くても倒せまい。人間は正体を知らぬ者を殺せないからな。お前が斬っているのはミルディという名前の幻だ! どうした間抜け! 本当の俺を斬ってみろよ! 俺はここにいるぞ!」
オークはバゲインを斬る。バゲインはオークを翻弄するように宙を舞い、オークを嘲笑した。
突如、光が花開いた。強烈な光に、食堂にいた怪物たちが仰け反った。兵士達も驚いて花火の中心を振り向く。そこにいたのはソフィーだった。
ソフィー
「醜い舌は口の中に引っ込めなさい。……オーク様、いま私は正体を明かします。守ってくださいね」
バゲイン・ミルディ
「お前……まさか」
ソフィー
「私の前では何も偽れない。正体を明かしなさい怪物め。ベルゼブブ!」
怪物が悲鳴を上げた。人間のようだった体が崩れ、全身が真っ黒に染まり、次にまったく違う何かへと姿を変えた。ようやく現れたのは、虫の翼を持つ怪物だった。
ソフィー
「オーク様、戦ってください! 今こそ過去と決別する時です!」
オークがベルゼブブと戦う。ベルゼブブは空中を舞い、オークに襲いかかる。オークは剣でベルゼブブを斬った。今度は確かな手応えがあった。
幽鬼たちも兵士達に襲いかかった。兵士達は果敢に戦う。だが実体なき幽鬼をいくら斬っても、手応えはなかった。
ソフィーは光の粒を周囲に飛ばした。闇の眷属は光を恐れた。光を浴びる度に目を眩まし、動きを止めた。その間に兵士は、怪物たちに立ち向かった。
オークの剣はベルゼブブを圧倒した。ついに致命傷が、怪物の体に深く突き刺さった。
ベルゼブブが不気味な悲鳴を上げた。宙を舞う力を失い、地面に転げ落ちる。昆虫の死に際のように、床の上をばたばたともがいた。同時に、幽鬼達も力を失い、ただの布と剣だけになって地面に落ちた。
戦いは終わった。屋敷に沈黙が戻ってきた。兵士達はまだ緊張して、武器を身構えて辺りを見回している。
オーク
「ソフィー……あなたは……」
ソフィー
「申し訳ありません。私には秘密がありました。だが、隠さねばならぬ理由もありました。魔の眷属の多くが私の力を恐れ、狙っています。だから私は……」
オーク
「あなたが、『真理』を持つ者だったのですね」
突然、何かがソフィーを掴んだ。女だ。だがその手は怪物のように大きく、鋭い爪がしっかりソフィーを掴んでいた。
女の幽霊
「やっと見付けた! 憎き真理め!」
オーク
「ソフィー!」
ソフィー
「オーク様!」
オークが手を伸ばした。
女の幽霊の背後に、闇が広がる。闇はただちに幽霊とソフィーを飲み込んで、消えてしまった。
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