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■2016/02/14 (Sun)
創作小説■
第6章 フェイク
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4
覆面車が妻鳥画像の前に到着した。ツグミがドアを開けて車から降りる。それから玄関を施錠せずに出てしまったと気付いてあっとなった。ガラス戸がわずかに開いたままになっていて、緑の暖簾が暗闇の中で密かに揺れていた。
ツグミは高田と一緒に妻鳥画廊に入り、明かりを点ける。間もなくして、警光灯を点けたセダンが次々とやってきた。白黒パトカーがやってきて周辺の道路の閉鎖をはじめ、鑑識のワゴン車もやってきた。
ツグミは木野と一緒に画廊のテーブルに着いた。高田は後から来た刑事や鑑識に、何かしらの指示を出しているようだった。
鑑識の人達がぞろぞろと妻鳥画廊に入ってきて、あちこちにアルミ粉を振りまき、あちこち表示板だらけにしてフラッシュを焚いた。
画廊の外から赤い光がちらちらと飛び込んでくる。異変に気付いたらしい近所の人達が集まって、ざわざわと噂話を始めているみたいだった。
妻鳥画廊の中も外も人で溢れ返る。ツグミは何となく自分が場違いなような気がして、椅子に座りながら、身を小さくした。画廊がこんなふうに騒々しくなるのは初めてだし、それに警察の人達が何となく恐くて、他人の家に迷い込んだような居心地の悪さだった。
「気にしないだください。警察ですから、物がなくなっているとかそういうの心配はありませんよ」
テーブルの向かい合った席に座った木野が、ツグミに微笑みかけた。
「は、はい……」
ツグミは木野の雰囲気にちょっと安心しかけたが……。
台所でパリーンッと割れる音。ツグミはビックリして首をすくめる。
「……ごめんなさい」
木野は微笑みを引きつらせて頭を下げた。
ツグミは不安を通り越して、憂鬱な気持ちになった。
「私にもカメラを見せてくれますか」
「はい、どうぞ」
ツグミはテーブルの上に置いていたEOSを木野に差し出した。
木野はEOSを受け取ると、保存されている画像を閲覧する。
「ツグミさん、この男の人とは、知り合いですか?」
木野がツグミにEOSのディプレイを向けて、尋ねた。宮川大河が映っている画像だ。
「いえ、知り合いというんじゃないです。最近、付きまとわれているというか……」
ツグミは、ディスプレイの宮川をちらっと見ると、体ごと背けてうつむいた。自然と、言葉に嫌悪がこもった。
「何者かはご存知ですか」
木野がちょっと身を乗り出すようにする。
「いいえ。名前は宮川大河。クワンショウラボの人ということしか……」
ツグミは怪訝に思いながら、顔を上げた。
「わかりました。じゃあ、高田さんが戻ってくるまでに、一通りの説明をしておきますね。ちょっと長くなりますけど」
木野はEOSの電源をオフにした。木野は看護婦が「お薬入れておきますね」と言う時のような事務的な感じと穏やかさを混ぜた調子で言ったが、どことなく改まった感じがあったように思えた。
ツグミはにわかに緊張して、木野をほうを向き直った。
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目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです
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