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■2015/07/27 (Mon)
創作小説■
第1章 最果ての国
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6
翌日の朝、早い時間に女の家を後にした。老ドルイド僧は、パンテオンに旅立つ女のために、いくつかの言付けを残した。ミルディたちの旅は、いよいよ森の中の、深い闇へと足を踏み入れていく。奥地へと入り込んでいくと、空気が冷たく凍てつき、魔性の気配が強く迫った。昼にも関わらず、森は暗く影を落とした。不快な臭いを放つ沼があちこちに現れ、茨を混じえた藪が進路を阻んだ。ミルディたちは気配を殺しながら、ゆっくりと森の中を進んでいく。
森が少し開けて、巨石が行く手に現れた。ミルディは巨石を避けて、向こう側へと進もうとする。
が、唸り声が辺りに轟いた。
ミルディたちが顔を上げる。巨石の上にネフィリムが立っていた。1匹だ。ネフィリムはミルディたちを睨み付けて、獣の唸り声を上げる。昼の光の中に立っていたけど、毛むくじゃらの全身は真っ黒で、赤い瞳だけを陰気に輝かせていた。鎧はなく、古びた山刀を手にしていた。
ネフィリムが飛びついてきた。山刀を振り下ろす。ミルディは攻撃をかわし、剣を振り払う。切っ先がネフィリムの胸を捉えた。
しかしネフィリムは怯まなかった。むしろ闘士に怒りを混ぜて、叫びながら飛びついてきた。
山刀の剣戟が3回。ミルディは刃を捉え、打ち返す。
村人が横からネフィリムを斬り付けた。ネフィリムの右腕が深く刻まれる。ネフィリムが悲鳴を上げた。
ミルディが接近した。ネフィリムの頭に剣を叩き落とす。ネフィリムの頭が砕けた。真っ黒な血が噴水のように噴き上げた。ネフィリムの断末魔が辺りに響き、森の中に木霊する。
断末魔の返答のように、森の中にいくつも獣の声が上がった。
村人
「まずいぞ……」
ミルディ
「急ぎましょう」
ミルディは倒れているネフィリムの頭から、剣を引き抜いた。砕けた頭から、真っ黒な液体がどろりとこぼれる。粘性を持った、黒い血だった。
ミルディたちは巨石の陰に身を潜めた。魔性の気配はくっきりと存在感を持って、迫ってきた。ミルディは息を潜めて、様子を見守った。
巨石の前の広場に、ネフィリムたちがやってきた。ネフィリムたちは草むらを真っ黒に染めて倒れている同胞をしばらく眺めていた。しかしネフィリムたちに悲しみはなく、死体を突いたり、蹴ったりして、しまいには興奮状態になってその体をバラバラに引き裂き、腕や頭や内臓を手に掲げて狂い始めた。広場に真っ黒な血が広がり、獣の唸り声で満たされた。
ミルディ
「行きましょう」
ネフィリムたちの注意が、完全に侵入者から外れたのを確認して、ミルディたちは探検を再開した。
老ドルイド僧が一行の先頭に立ち、道案内を始めた。老ドルイド僧が潜入し、開拓した道だ。
しかしネフィリムの気配はさっきより濃厚になった。ネフィリムたちが徒党を組んで歩くのを、何度も目撃した。その度に、ミルディたちは森の影に身を潜め、ゆっくり進んだ。
やがて森の木々が途切れたところに、岩場が現れた。岩場は地面を裂いて、その下から突き出たようになっていた。全体の姿は、開きかけの蕾のように見える。大地がぱっくりと裂け目を作り、奈落への道筋を作っているようだった。
ミルディたちが、洞窟の入口を覗き込む。
村人
「……もう充分だ。帰ろう。危険すぎる」
ミルディ
「いいえ。私たちの使命はネフィリムの巣穴を叩くことです。それに、きっと深い洞窟ではありません」
村人
「ネフィリムがうじゃうじゃいるかも知れないんだぞ」
ミルディ
「子供の頃、よくこんな洞窟の中を探検しました。行きましょう。レプラコーンの財宝が見付かるかも知れませんよ」
ミルディが先頭に立ち、洞窟の中へと飛び込んでいった。仲間たちもその後に続いていく。
※ レプラコーン アイルランドの妖精。緑のフロックコートを着て、靴直しの仕事をしている。財宝のありかを知っているので、欲深い人間を警戒している。
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