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■2009/03/31 (Tue)
シリーズアニメ■
4時間目の授業も終わり、お弁当の時間がやってきた。一橋ゆりえは卵焼きをはむはむと食べる。
「光恵ちゃん。あたし、神様になっちゃった」
四条光恵は、特に感動したふうでもなく、ハッピー牛乳のパックにストローを差し込む。
「なんの?」
「わかんない。昨日の夜、なったばかりだから」
光恵は、それとなく自分の弁当から、パセリを箸でつまみ、ゆりえのお弁当に載せる。
「お供え」
「いらな~い」
「神様が好き嫌いしちゃ、駄目でしょ」
光恵は、淡々と嗜める。ゆりえは光恵を上目遣いにしつつ、溜め息をついた。
「信じてないでしょ、光恵ちゃん。……私もね、なった限りには、自分が何の神様か、知っておきたいんだ。でも、どうしたらいいのかな」
すると、突然にクラスメイトの女の子が、椅子ごとゆりえの側に飛んできた。
「今、神様の話してたわね、一橋ゆりえさん。いえ、ゆりえと呼ばせてもらうわ」
「三枝祀さん?」
祀は物凄い勢いで、ゆりえに迫ってきた。ゆりえは、祀がちょっと恐いみたいな気持ちになって、身を引いた。
お弁当を食べ終わると、祀はゆりえの手を引いて、学校の屋上へと駆け上った。その後を、光恵が追いかけてくる。
「なんで、屋上?」
思い切り走ってきたから、ゆりえは肩を揺らしてはあはあと息をした。
「人目があると、恥ずかしいからよ」
「恥ずかしいことをするの、私?」
ゆりえはおずおずと祀に目を向けた。ゆりえも光恵も息を切らしているのに、祀だけは元気にすっくと仁王立ちにしていた。
「ねえ、ゆりえ。こんな伝説知っている? 風が強い日、この屋上で告白すると、その恋は絶対に実るんだって」
「本当に!」
ゆりえは思わず、身を乗り出した。祀は、ふふん、と笑って頷く。
ゆりえは、すぐに二宮くんの姿を頭に浮かべた。二宮健児。この中学で唯一の書道部。周りは変な人とか言うけど、私は絶対、天才だと思う。
ゆりえは、俄然、気合が入って、屋上の広場に仁王立ちになった。
「でも、どうやって風を起こすの?」
「想いを込めて、呪文を唱えるの」
祀は、当たり前みたいに結論を出した。ゆりえは一度頷いて、正面を向いた。が、
「でも、なんて言うの?」
「神様で中学生なんだし“かみちゅ”でいいんじゃない」
祀は特に深く考えるふうもなく、さらっと言った。
「なんか、ヘン」
ゆりえは、なんとなく祀が疑わしくなって、上目遣いに睨んだ」
「とりあえずよ。ほら、ラヴな想いこめて、やって!」
ゆりえは促されるままに頷いて、今度こそ正面を振り向いた。きっと体に力を込めて、思い切り息を吸い込んだ。
「か~み~ちゅ~!」
物語の舞台となっているのは1980年代だ。80年代のアイドル映画風に描きたかったようだ。各話のサブタイトルも、アイドルの歌曲から取られている。制作者たちにとって、ノスタルジー的な思いを抱ける年代だから、80年代が描かれることになったそうだ。
『かみちゅ!』が舞台とするのは、広島県尾道市だ。
尾道市は、映画作りのロケーションとして、最高の場所だ。
街全体が急斜面になっていて階段が多く、どこに立っても眺めのいい瀬戸内の内海を見下ろすことができる。
街の風景は、数十年前から時が止まったように、古い建築が時の流れを背負って建っている。
この街で、何本もの映画が制作され、現在でも映画撮影に欠かせない場所だ。
『かみちゅ!』に描かれた背景には、常にパースの塊ともいうべき尾道市の風景が描かれ、日常の空間が充実している。
作品の不思議な穏やかさと尾道の風景は、素晴らしい感性で調和してる。
尾道の風景は、どこにカメラを向けても独特の空気を炙り出す。何度も映画撮影に利用された場所だが、その魅力は今も失われていない。路地裏に分け入り、地元の人でも知らない風景が見付かる時があるのが、尾道の魅力だ。
主人公である一橋ゆりえは、物語の冒頭で、突然に神様宣言する。
だが、どうして神様になったのか。だからといって何なのか?
そういった解説は何一つ説明されないし、神様なのに、ゆりえはあまりにも幼く、あまりにも頼りなげで、気弱に描かれている。
神様だから、と超常的な力に目覚めるわけでもない。
ただ、物語の進行していくと、描きこまれた尾道市の日常空間に、奇妙な妖怪やもののけ達が姿を見せ始めてくる。
そういった妖怪たちも特別何か悪さするわけでもなく、ゆりえとなにか対立を見せるわけでもない。
ただ物語中に描きこまれた日常世界に、穏やかに共存するだけだ。
物語中の少女たちはフェティッシュの感性で描かれている。どのキャラクターも素行優良で、目が大きく、愛らしい。フェテッシュ・アニメとして極めて完成度が高い。カットの一つ一つは、額に入れて飾りたいくらいだ。
注目すべきは、キャラクター達の演技である。
近年の、クロースアップを並べただけの一般的なアニメと比較すると、『かみちゅ!』でのキャラクターは流麗に動き、呼吸している。
どの動きも少女達の心情を表現するかのように、繊細だし、立体的に構成され、現実感を強めている。
制作者達の少女へのフェテッシュは、ノスタルジックな思いを込めて、強烈な強さで描かれている。
少女たちも、あの時間が静止したかのような風景も、何もかもが懐かしい。
そんな懐かしさと、少女への偏執的な愛とが、強力に交じり合って作られたアニメーションだ。
作品データ
監督・絵コンテ:舛成孝二 脚本:倉田英之
企画:竹内成和 原作:ベサメムーチョ
キャラクター原案:羽音たらく キャラクターデザイン:千葉祟洋
プロダクションデザイン:okama
作画監督:千葉祟洋 美術:渋谷幸弘
色彩設計:歌川律子 音楽:池頼広
アニメーション制作:ブレインズ・ベース
出演:MAKO 峰香織 森永理科 野中藍
宮崎一成 岡野浩介 斉藤千和 津村まこと
星野充昭 伊藤美紀 杉山紀彰 岩尾万太郎
「光恵ちゃん。あたし、神様になっちゃった」
四条光恵は、特に感動したふうでもなく、ハッピー牛乳のパックにストローを差し込む。
「なんの?」
「わかんない。昨日の夜、なったばかりだから」
光恵は、それとなく自分の弁当から、パセリを箸でつまみ、ゆりえのお弁当に載せる。
「お供え」
「いらな~い」
「神様が好き嫌いしちゃ、駄目でしょ」
光恵は、淡々と嗜める。ゆりえは光恵を上目遣いにしつつ、溜め息をついた。
「信じてないでしょ、光恵ちゃん。……私もね、なった限りには、自分が何の神様か、知っておきたいんだ。でも、どうしたらいいのかな」
すると、突然にクラスメイトの女の子が、椅子ごとゆりえの側に飛んできた。
「今、神様の話してたわね、一橋ゆりえさん。いえ、ゆりえと呼ばせてもらうわ」
「三枝祀さん?」
祀は物凄い勢いで、ゆりえに迫ってきた。ゆりえは、祀がちょっと恐いみたいな気持ちになって、身を引いた。
お弁当を食べ終わると、祀はゆりえの手を引いて、学校の屋上へと駆け上った。その後を、光恵が追いかけてくる。
「なんで、屋上?」
思い切り走ってきたから、ゆりえは肩を揺らしてはあはあと息をした。
「人目があると、恥ずかしいからよ」
「恥ずかしいことをするの、私?」
ゆりえはおずおずと祀に目を向けた。ゆりえも光恵も息を切らしているのに、祀だけは元気にすっくと仁王立ちにしていた。
「ねえ、ゆりえ。こんな伝説知っている? 風が強い日、この屋上で告白すると、その恋は絶対に実るんだって」
「本当に!」
ゆりえは思わず、身を乗り出した。祀は、ふふん、と笑って頷く。
ゆりえは、すぐに二宮くんの姿を頭に浮かべた。二宮健児。この中学で唯一の書道部。周りは変な人とか言うけど、私は絶対、天才だと思う。
ゆりえは、俄然、気合が入って、屋上の広場に仁王立ちになった。
「でも、どうやって風を起こすの?」
「想いを込めて、呪文を唱えるの」
祀は、当たり前みたいに結論を出した。ゆりえは一度頷いて、正面を向いた。が、
「でも、なんて言うの?」
「神様で中学生なんだし“かみちゅ”でいいんじゃない」
祀は特に深く考えるふうもなく、さらっと言った。
「なんか、ヘン」
ゆりえは、なんとなく祀が疑わしくなって、上目遣いに睨んだ」
「とりあえずよ。ほら、ラヴな想いこめて、やって!」
ゆりえは促されるままに頷いて、今度こそ正面を振り向いた。きっと体に力を込めて、思い切り息を吸い込んだ。
「か~み~ちゅ~!」
物語の舞台となっているのは1980年代だ。80年代のアイドル映画風に描きたかったようだ。各話のサブタイトルも、アイドルの歌曲から取られている。制作者たちにとって、ノスタルジー的な思いを抱ける年代だから、80年代が描かれることになったそうだ。
『かみちゅ!』が舞台とするのは、広島県尾道市だ。
尾道市は、映画作りのロケーションとして、最高の場所だ。
街全体が急斜面になっていて階段が多く、どこに立っても眺めのいい瀬戸内の内海を見下ろすことができる。
街の風景は、数十年前から時が止まったように、古い建築が時の流れを背負って建っている。
この街で、何本もの映画が制作され、現在でも映画撮影に欠かせない場所だ。
『かみちゅ!』に描かれた背景には、常にパースの塊ともいうべき尾道市の風景が描かれ、日常の空間が充実している。
作品の不思議な穏やかさと尾道の風景は、素晴らしい感性で調和してる。
尾道の風景は、どこにカメラを向けても独特の空気を炙り出す。何度も映画撮影に利用された場所だが、その魅力は今も失われていない。路地裏に分け入り、地元の人でも知らない風景が見付かる時があるのが、尾道の魅力だ。
主人公である一橋ゆりえは、物語の冒頭で、突然に神様宣言する。
だが、どうして神様になったのか。だからといって何なのか?
そういった解説は何一つ説明されないし、神様なのに、ゆりえはあまりにも幼く、あまりにも頼りなげで、気弱に描かれている。
神様だから、と超常的な力に目覚めるわけでもない。
ただ、物語の進行していくと、描きこまれた尾道市の日常空間に、奇妙な妖怪やもののけ達が姿を見せ始めてくる。
そういった妖怪たちも特別何か悪さするわけでもなく、ゆりえとなにか対立を見せるわけでもない。
ただ物語中に描きこまれた日常世界に、穏やかに共存するだけだ。
物語中の少女たちはフェティッシュの感性で描かれている。どのキャラクターも素行優良で、目が大きく、愛らしい。フェテッシュ・アニメとして極めて完成度が高い。カットの一つ一つは、額に入れて飾りたいくらいだ。
注目すべきは、キャラクター達の演技である。
近年の、クロースアップを並べただけの一般的なアニメと比較すると、『かみちゅ!』でのキャラクターは流麗に動き、呼吸している。
どの動きも少女達の心情を表現するかのように、繊細だし、立体的に構成され、現実感を強めている。
制作者達の少女へのフェテッシュは、ノスタルジックな思いを込めて、強烈な強さで描かれている。
少女たちも、あの時間が静止したかのような風景も、何もかもが懐かしい。
そんな懐かしさと、少女への偏執的な愛とが、強力に交じり合って作られたアニメーションだ。
作品データ
監督・絵コンテ:舛成孝二 脚本:倉田英之
企画:竹内成和 原作:ベサメムーチョ
キャラクター原案:羽音たらく キャラクターデザイン:千葉祟洋
プロダクションデザイン:okama
作画監督:千葉祟洋 美術:渋谷幸弘
色彩設計:歌川律子 音楽:池頼広
アニメーション制作:ブレインズ・ベース
出演:MAKO 峰香織 森永理科 野中藍
宮崎一成 岡野浩介 斉藤千和 津村まこと
星野充昭 伊藤美紀 杉山紀彰 岩尾万太郎
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