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■2011/08/16 (Tue)
オリジナル・アニメ・DVD■
「なぜ今さら?」
かつての原作愛読者を茫然とさせ、批評家たちを「?」と首を傾げさせ、作品を知らない世代ばかりか、原作者すらも置き去りにして進行するアニメシリーズの中巻がいよいよ登場である。
『かってに改蔵 中巻』は愛蔵版2巻~4巻とかなり広い範囲をベースに描かれている。初期の頃に提示した天才塾との対立という縦糸が後方に消えかかり、新たな方向性を獲得しようという時期である。この頃から我々のよく知る後期『かってに改蔵』に近い内容になり、羅列ネタや風刺といった、後の『さよなら絶望先生』に続くパターンの片鱗がかすかに見え始める頃である。
『かってに改蔵 中巻』において、キャラクターの設定が新たに書き直され、再調整が加えられる。
連載当初ではそれなりに普通の少女として描かれていたはずの名取羽美は、この頃から“友達がいない”あるいは猟奇的な性格が再設定される。後に“ヤンデレ”とカテゴライズされるキャラクターを確立しはじめる頃であり、『かってに改蔵 中巻』の中でその過程が描かれる。
第1話Bパート『コノ子ノ七ツノオ祝イニ』では名取羽美の幼少期における凶暴な本質が描かれ、それが現在における猟奇的な性格と常識的な社会性が欠落するという性格の裏付けになっている。また幼少期のエピソードは、『かってに改蔵』シリーズにおける典型的な一つのパターンを形成する重要度の高いエピソードであり、『かってに改蔵』というシリーズ全体像を描く上にも避けて通れないエピソードだ。ちなにみ『コノ子ノ七ツノオ祝イニ』における「かーさーぷーたーはーがーすー」の台詞は声優喜多村英梨がどうしても声を当てたかった台詞であり、彼女にとって夢の叶った瞬間である(それだけに、見事な熱演であった)。
その一方で主人公である勝改蔵は、暴走しがちな名取羽美に翻弄されるキャラクターへと書き直される。妙な思い込みと妬みでエピソードの切っ掛けを作り、あるいはエピソードに変化を与える提示するなど、主人公としての存在感と重要度は相変わらず高いが、『上巻』で描かれた暑苦しいヒーロー然とした重さは消え去り(演技の面でも暑苦しさは消えた)、どこか子供じみていて、それでいてギャグ漫画原作らしいユニークなパーソナリティーを構築している。名取羽美や坪内地丹があまりにも個性的に際立っていくのに対して、勝改蔵は少々思い込みの激しいものの、ある程度の常識を持ち、目の前で起きている事件に対して驚いたり怯えたりなど平均的な反応を見せる良識的な性格を持つようになった。
そして坪内地丹は、『上巻』を比較して明らかに頭身が低く縮まり、いよいよ人として社会的人格を崩壊させていく。第1話Aパート「どうしようラヴストーリー」ではすぐに図に乗る、すぐに勘違いする、その上であっという間に身を滅ぼすといったダメ人間のお手本のような性格を披露する。声優の演技面でも、『上巻』ではまだキャラクターの造形と声優のテンションの間にズレが見られ、何か掴みかねている違和感があったものの、『中巻』に入りようやく両者の気持ちは接近してきたようである。『中巻』の段階で話のオチをつける都合のいいキャラクターとしてのポジションを確立しており、これが切っ掛けとなり、間もなく“人ではない何か”へとシフトしていく。おそらく『下巻』においてその展望が見られると期待されるので、その過程にもぜひ注目したいところである。
(彩園すずだけは相変わらずなので解説を省略する。キャラクターとしてもポジションとしての鉄壁の地位を守っている。初登場時から変更の必要のない、完成したキャラクターだったのだろう)
キャラクターの描き方も、『上巻』と違うアプローチが試みられている。『上巻』では標準的で今日的なアニメーションのスタイルを踏襲して描かれていたが、『中巻』に入って線の量はざっくり切り落とされ、線や影塗りわけ、色彩はよりシンプルに描かれるようになった。キャラクターの頭がやや大きくデザインされ、頭身が少しずつ低く描かれていく。
瞳の描かれ方にも注目したい。『上巻』ではハイライト、BLベタ、中間色、標準色と段階的に描かれていたが、『中巻』に入り、瞳の中央に瞳孔が丸く描かれ、それを中心に3段階のグラデーションが続く。ハイライトの描き方も小さく点のように描かれ、『上巻』ほどの主張はない。この瞳の描き方は『かってに改蔵』後期まで一貫した作画方法として継続されていく。
物語の描き方にも変化が多く、そろそろ『かってに改蔵』シリーズだけではなく、久米田康治の作風として定着する要素がいくつも見られる。初期においては勢いの強かった下ネタは次第に自制的になり、物語を彩る変態たちはまだ登場し続けるが、ブリーフパンツという文明的な被服を獲得し、視聴に少し安心感を与えるようになった。特徴的である羅列ネタや、その当時の流行や世相を取り入れた風刺ネタはこの頃から顕著に見られるようになり、羅列ネタが次々と映像化され、あっという間に流れていく様子が楽しい(ただネタの大半が賞味期限切れなのが残念なところだ。若い世代はついていけないかもしれない)。
だが、テレビアニメーションよりまだスケジュールに余裕が持てるはずのOADシリーズなのにも関わらず、作画にブレが多く見られるところが残念なところである。
第1話Cパート『イツカギリギリスル日!?』20:31あたり。名取羽美のセーターの袖口の線が回転しているように見える。この線は本来、動いてはいけない部分である。これは完全に動画マンのミスである。なぜチェックは見落としたのだろう?
同じく第1話Cパート。21:30あたり。手前に身を乗り出している名取羽美が、後ろに体を動かす。ここで原画と原画の間コマがごっそり抜け落ち、名取羽美が急に場所を移動したように見える。まさかの中割りの抜けである。ここで本来必要だったのは、およそ5枚程度の中割りだ。ここで「果たしてチェックは仕事していたのだろうか?」と疑問に思わずにはいられなくなる。また極端な広角レンズふうを意識したカットだが、天井が近すぎでしかもキャラクターと同じ歪みが描かれておらず、また彩園すずがひどく平面的で、まるで紙に描いた絵を角度をつけて貼り付けただけのように見える。
第2話Aパート『ゴーイング娘』35:14あたり。カメラワークが変化する動画としてはそこそこに難しいカットだが、動画の最後、勝改蔵の指が突然縮んだように見える。これも動画マンのミスで、原画の始まりと終わりとしっかりと確かめずに中割りしたために起きたミスだ。下書き段階で気付いていれば、ほんの数分で修正できるミスだから、動画担当、チェックが気付かず見落としたのだろう。それに広角レンズふうに描かれたカットだが、やはり天井が近すぎである。
この他にも作画面におけるミス、絵画のブレは多く見られた。撮影による最終仕上げも、『上巻』の丁寧さと比較すると、もう一歩である。もう発売してしまった作品だから仕方ないが、『下巻』ではもう少し頑張ってもらいたいところである。
『かってに改蔵 中巻』は初期に描かれた諸要素を放り捨て、我々がよく知っている『かってに改蔵』のイメージに近付き、あるいは久米田康治が独自の作風を身につける過渡期を描いている。アニメ版『かってに改蔵』シリーズが、久米田康治の作風の変化と、試行錯誤の過程を追跡し、映像化しているのだということがよくわかる。『かってに改蔵』のアニメーションは迷いなく確実に『かってに改蔵』に接近して行き、久米田康治という作家の深層を抉り取っていくのだろう。
まあ、それはそれとして……売れてるのか、これ?
第1話 炎の幻影紅天女
Aパート ドウシヨウラヴストーリー(愛蔵版第3巻第13話)
「我々に何か足りない要素があるとつねづね思っていたのですが……わかりました」
勝改蔵はいつにない慎重な口ぶりで切り出した。我々に足りないもの、あるいはこのシリーズに不足しているもの、それは――
「我々にはラブが足りないのです!」
思えばラヴコメとしてスタートしたはずのこの作品。今となっては誰一人ラヴを自覚する者のないラヴ劣等生、ラブ落第生である。このままラヴ不足が続けば、深刻な問題を引き起こす可能性もある。
と議論に燃え上がる科特部にとある人物がやってくる。元天才塾演劇コースラブ影先生である。ラヴ先生とは日本を代表する世界的ラヴ演出家である。受賞した作品は数知れず、ラヴ先生の手にかかればどんな物語もラヴに変換されるという。「ラヴとりじいさん」「ラヴすて山」「ラブカニ合戦」……いくつもの代表作を持った名演出家である。
そんなラヴ先生が科特部を尋ねた理由はただ一つ。科特部に天性のラヴの素質を持った少年がいたからであった。
Bパート コノ子ノ七ツノオ祝イニ(愛蔵版第4巻第13話)
これは、勝改蔵が7歳の頃の思い出である。
「おかあさま、ボクはもう7歳なのですが、男子は5歳なのではないですか?」
神社に勝改蔵の母子が尋ねる。まだ利発で天才、神童と称えられていた頃の改蔵が不思議そうにしている。
そこに、神社の神主が現れる。
「七五三が7歳、5歳、3歳だけのものと思ったら、大間違いです。健康を願う全ての人に七五三を祝う権利があるのです! というわけで古来より当天才大社では、様々な年齢の七五三をお迎えしているのです」
ただし、誰もが祝う権利はあるものの、誰もが天神様の元までたどり着けるとは限らない。天神様に至る道には、様々な苦難に満ちた試練が待ち受けているのだ。そんな恐るべき場所に放り出されてしまった改蔵。
すると、道の途上に名取羽美が待ち構えていた。羽美も試練に出されたのだという。改蔵は羽美と2人で天神様を目指すが……。
Cパート イツカギリギリスル日!?(愛蔵版第3巻第3話)
とあるファーストフードのお店。クラスで美人で有名な山田さんが、トレーにジュースとやきそばパンを乗せ、開いている席を探していた。
「あなたもギリギリに挑んでみませんか?」
不意に後ろから男が顔を寄せてきた。
驚いて振り返っている間に、男はカップにジュースを注ぎ込む。カップはぎりぎり一杯までジュースに満たされる。表面張力で辛うじて保っているけど、一歩でも動いたら、この均衡は崩れてしまう……。
「ギリギリ感を楽しみたまえ!」
「いやあぁぁ!」
男たちは山田さんのうなじを、腰を、太股をつんつんと撫でていく。山田さんは耐え切れず悲鳴を上げ、バランスを崩され、そして……。
「最近この界隈で、限界ギリギリを強要される事件が続発している」
電波が1本だけで、今にも切れそうな携帯電話。電池ギリギリで、セーブできないゲームボーイ。紙がぎりぎりのトイレットペーパー。布がぎりぎりの水着。
事件は拡大する一方だが、犯人は神出鬼没でなかなか姿を現さない。いったいどうすれば……。
「おびき出してみるか」
と彩園すずが提案したのは、棒倒しだった。
第2話 裏切りのサイエンス
Aパート ゴーイング娘(愛蔵版第4巻第21話)
空気の読めない人がいます。
まだ人の少ない早朝の教室。女子生徒たちが暗くうつむいてひそひそと話をしている。
「お父さんの会社、倒産しちゃって……」
とそこに名取羽美が元気に飛び込んでくる。
「ねえねえ、今朝公園でずーっとスーツ着てブランコに乗っているおじさんがいてね。ありゃリストラね。家族にいえないのよ」
羽美は口元を隠しながら愉快そうに笑った。
空気の読めない人がいます。
「重症ですな。ここまで空気が読めないと……。友達ができないわけだな」
「なんですってええ!」
羽美が改蔵の首を掴む。
「失礼なこと言わないでよ! 読めるわよ空気くらい!」
羽美は改蔵を激しく揺らしながら訴えた。
果たして羽美は空気が読めないのか? 彩園すずの提案で、第3者に意見を聞いてみることとなった。すると次から次へと出てくる。羽美の「空気読めない武勇伝」の数々!
周囲から指摘された羽美は、「空気読めるようになってやる!」と叫びながら教室を飛び出してしまう。
Bパート 西から来た女(愛蔵版第2巻第14話)
虎馬高校校門前。砂の混じった風にまぎれるように、女が一人立っていた。
「許さへんで、絶対に! あの女だけは!」
女は目をギラギラさせて呟きに怒りを込めた。その手には一枚の写真。写真には美しい少女が涼しげな微笑を浮かべていた――写真の少女は彩園すずである。女は写真の中で微笑む彩園すずに怒りの炎を向ける。
しかし女は、怒りの炎を抑え込んで一人考えに沈んでいく。
――あの女の周囲には極悪非道の取り巻きがいるらしい。迂闊には手を出されへん……。
考えながら、女は虎馬高校の廊下をうつむきながら歩く。ふと、掲示板の張り紙に気付いて足を止める。
《生徒会急募》
「これや!」
女はかすかな希望を見つけて声を弾ませた。
女はジュン。彩園すずと浅からぬ関係を持ち、因縁のライヴァルである――とジュンは思い込んでいる。
かってに改蔵 上巻
かってに改蔵 下巻
さよなら絶望先生《本家》目次ページへ
作品データ
総監督:新房昭之 監督:龍輪直征 原作:久米田康治
キャラクターデザイン:山村洋貴 メインアニメーター:岩崎安利
美術監督:飯島寿治 伊藤和宏 ビジュアルエフェクト:酒井基 色彩設計:滝沢いづみ
構成:東冨耶子 構成・脚本:高山カツヒコ 編集:関一彦
撮影監督:江藤慎一郎 音響監督:亀山俊樹 音楽:川田瑠夏
プロデューサー:宮本純乃介 アニメーションプロデューサー:久保田光俊
オープニング主題歌:水木一郎と特撮 エンディング主題歌:新☆谷良子
アニメーション制作:シャフト
出演:櫻井孝宏 喜多村英梨 斉藤千和 豊崎愛生 堀江由衣
○ 立木文彦 新谷良子 岩男潤子 永田依子 高岡瓶々
○ 徳本英一郎 平田真菜 五十嵐亮太 小野友樹 浅科准平
○ 渡辺由佳
かつての原作愛読者を茫然とさせ、批評家たちを「?」と首を傾げさせ、作品を知らない世代ばかりか、原作者すらも置き去りにして進行するアニメシリーズの中巻がいよいよ登場である。
『かってに改蔵 中巻』は愛蔵版2巻~4巻とかなり広い範囲をベースに描かれている。初期の頃に提示した天才塾との対立という縦糸が後方に消えかかり、新たな方向性を獲得しようという時期である。この頃から我々のよく知る後期『かってに改蔵』に近い内容になり、羅列ネタや風刺といった、後の『さよなら絶望先生』に続くパターンの片鱗がかすかに見え始める頃である。
『かってに改蔵 中巻』において、キャラクターの設定が新たに書き直され、再調整が加えられる。
連載当初ではそれなりに普通の少女として描かれていたはずの名取羽美は、この頃から“友達がいない”あるいは猟奇的な性格が再設定される。後に“ヤンデレ”とカテゴライズされるキャラクターを確立しはじめる頃であり、『かってに改蔵 中巻』の中でその過程が描かれる。
第1話Bパート『コノ子ノ七ツノオ祝イニ』では名取羽美の幼少期における凶暴な本質が描かれ、それが現在における猟奇的な性格と常識的な社会性が欠落するという性格の裏付けになっている。また幼少期のエピソードは、『かってに改蔵』シリーズにおける典型的な一つのパターンを形成する重要度の高いエピソードであり、『かってに改蔵』というシリーズ全体像を描く上にも避けて通れないエピソードだ。ちなにみ『コノ子ノ七ツノオ祝イニ』における「かーさーぷーたーはーがーすー」の台詞は声優喜多村英梨がどうしても声を当てたかった台詞であり、彼女にとって夢の叶った瞬間である(それだけに、見事な熱演であった)。
その一方で主人公である勝改蔵は、暴走しがちな名取羽美に翻弄されるキャラクターへと書き直される。妙な思い込みと妬みでエピソードの切っ掛けを作り、あるいはエピソードに変化を与える提示するなど、主人公としての存在感と重要度は相変わらず高いが、『上巻』で描かれた暑苦しいヒーロー然とした重さは消え去り(演技の面でも暑苦しさは消えた)、どこか子供じみていて、それでいてギャグ漫画原作らしいユニークなパーソナリティーを構築している。名取羽美や坪内地丹があまりにも個性的に際立っていくのに対して、勝改蔵は少々思い込みの激しいものの、ある程度の常識を持ち、目の前で起きている事件に対して驚いたり怯えたりなど平均的な反応を見せる良識的な性格を持つようになった。
そして坪内地丹は、『上巻』を比較して明らかに頭身が低く縮まり、いよいよ人として社会的人格を崩壊させていく。第1話Aパート「どうしようラヴストーリー」ではすぐに図に乗る、すぐに勘違いする、その上であっという間に身を滅ぼすといったダメ人間のお手本のような性格を披露する。声優の演技面でも、『上巻』ではまだキャラクターの造形と声優のテンションの間にズレが見られ、何か掴みかねている違和感があったものの、『中巻』に入りようやく両者の気持ちは接近してきたようである。『中巻』の段階で話のオチをつける都合のいいキャラクターとしてのポジションを確立しており、これが切っ掛けとなり、間もなく“人ではない何か”へとシフトしていく。おそらく『下巻』においてその展望が見られると期待されるので、その過程にもぜひ注目したいところである。
(彩園すずだけは相変わらずなので解説を省略する。キャラクターとしてもポジションとしての鉄壁の地位を守っている。初登場時から変更の必要のない、完成したキャラクターだったのだろう)
キャラクターの描き方も、『上巻』と違うアプローチが試みられている。『上巻』では標準的で今日的なアニメーションのスタイルを踏襲して描かれていたが、『中巻』に入って線の量はざっくり切り落とされ、線や影塗りわけ、色彩はよりシンプルに描かれるようになった。キャラクターの頭がやや大きくデザインされ、頭身が少しずつ低く描かれていく。
瞳の描かれ方にも注目したい。『上巻』ではハイライト、BLベタ、中間色、標準色と段階的に描かれていたが、『中巻』に入り、瞳の中央に瞳孔が丸く描かれ、それを中心に3段階のグラデーションが続く。ハイライトの描き方も小さく点のように描かれ、『上巻』ほどの主張はない。この瞳の描き方は『かってに改蔵』後期まで一貫した作画方法として継続されていく。
物語の描き方にも変化が多く、そろそろ『かってに改蔵』シリーズだけではなく、久米田康治の作風として定着する要素がいくつも見られる。初期においては勢いの強かった下ネタは次第に自制的になり、物語を彩る変態たちはまだ登場し続けるが、ブリーフパンツという文明的な被服を獲得し、視聴に少し安心感を与えるようになった。特徴的である羅列ネタや、その当時の流行や世相を取り入れた風刺ネタはこの頃から顕著に見られるようになり、羅列ネタが次々と映像化され、あっという間に流れていく様子が楽しい(ただネタの大半が賞味期限切れなのが残念なところだ。若い世代はついていけないかもしれない)。
だが、テレビアニメーションよりまだスケジュールに余裕が持てるはずのOADシリーズなのにも関わらず、作画にブレが多く見られるところが残念なところである。
第1話Cパート『イツカギリギリスル日!?』20:31あたり。名取羽美のセーターの袖口の線が回転しているように見える。この線は本来、動いてはいけない部分である。これは完全に動画マンのミスである。なぜチェックは見落としたのだろう?
同じく第1話Cパート。21:30あたり。手前に身を乗り出している名取羽美が、後ろに体を動かす。ここで原画と原画の間コマがごっそり抜け落ち、名取羽美が急に場所を移動したように見える。まさかの中割りの抜けである。ここで本来必要だったのは、およそ5枚程度の中割りだ。ここで「果たしてチェックは仕事していたのだろうか?」と疑問に思わずにはいられなくなる。また極端な広角レンズふうを意識したカットだが、天井が近すぎでしかもキャラクターと同じ歪みが描かれておらず、また彩園すずがひどく平面的で、まるで紙に描いた絵を角度をつけて貼り付けただけのように見える。
第2話Aパート『ゴーイング娘』35:14あたり。カメラワークが変化する動画としてはそこそこに難しいカットだが、動画の最後、勝改蔵の指が突然縮んだように見える。これも動画マンのミスで、原画の始まりと終わりとしっかりと確かめずに中割りしたために起きたミスだ。下書き段階で気付いていれば、ほんの数分で修正できるミスだから、動画担当、チェックが気付かず見落としたのだろう。それに広角レンズふうに描かれたカットだが、やはり天井が近すぎである。
この他にも作画面におけるミス、絵画のブレは多く見られた。撮影による最終仕上げも、『上巻』の丁寧さと比較すると、もう一歩である。もう発売してしまった作品だから仕方ないが、『下巻』ではもう少し頑張ってもらいたいところである。
『かってに改蔵 中巻』は初期に描かれた諸要素を放り捨て、我々がよく知っている『かってに改蔵』のイメージに近付き、あるいは久米田康治が独自の作風を身につける過渡期を描いている。アニメ版『かってに改蔵』シリーズが、久米田康治の作風の変化と、試行錯誤の過程を追跡し、映像化しているのだということがよくわかる。『かってに改蔵』のアニメーションは迷いなく確実に『かってに改蔵』に接近して行き、久米田康治という作家の深層を抉り取っていくのだろう。
まあ、それはそれとして……売れてるのか、これ?
第1話 炎の幻影紅天女
Aパート ドウシヨウラヴストーリー(愛蔵版第3巻第13話)
「我々に何か足りない要素があるとつねづね思っていたのですが……わかりました」
勝改蔵はいつにない慎重な口ぶりで切り出した。我々に足りないもの、あるいはこのシリーズに不足しているもの、それは――
「我々にはラブが足りないのです!」
思えばラヴコメとしてスタートしたはずのこの作品。今となっては誰一人ラヴを自覚する者のないラヴ劣等生、ラブ落第生である。このままラヴ不足が続けば、深刻な問題を引き起こす可能性もある。
と議論に燃え上がる科特部にとある人物がやってくる。元天才塾演劇コースラブ影先生である。ラヴ先生とは日本を代表する世界的ラヴ演出家である。受賞した作品は数知れず、ラヴ先生の手にかかればどんな物語もラヴに変換されるという。「ラヴとりじいさん」「ラヴすて山」「ラブカニ合戦」……いくつもの代表作を持った名演出家である。
そんなラヴ先生が科特部を尋ねた理由はただ一つ。科特部に天性のラヴの素質を持った少年がいたからであった。
Bパート コノ子ノ七ツノオ祝イニ(愛蔵版第4巻第13話)
これは、勝改蔵が7歳の頃の思い出である。
「おかあさま、ボクはもう7歳なのですが、男子は5歳なのではないですか?」
神社に勝改蔵の母子が尋ねる。まだ利発で天才、神童と称えられていた頃の改蔵が不思議そうにしている。
そこに、神社の神主が現れる。
「七五三が7歳、5歳、3歳だけのものと思ったら、大間違いです。健康を願う全ての人に七五三を祝う権利があるのです! というわけで古来より当天才大社では、様々な年齢の七五三をお迎えしているのです」
ただし、誰もが祝う権利はあるものの、誰もが天神様の元までたどり着けるとは限らない。天神様に至る道には、様々な苦難に満ちた試練が待ち受けているのだ。そんな恐るべき場所に放り出されてしまった改蔵。
すると、道の途上に名取羽美が待ち構えていた。羽美も試練に出されたのだという。改蔵は羽美と2人で天神様を目指すが……。
Cパート イツカギリギリスル日!?(愛蔵版第3巻第3話)
とあるファーストフードのお店。クラスで美人で有名な山田さんが、トレーにジュースとやきそばパンを乗せ、開いている席を探していた。
「あなたもギリギリに挑んでみませんか?」
不意に後ろから男が顔を寄せてきた。
驚いて振り返っている間に、男はカップにジュースを注ぎ込む。カップはぎりぎり一杯までジュースに満たされる。表面張力で辛うじて保っているけど、一歩でも動いたら、この均衡は崩れてしまう……。
「ギリギリ感を楽しみたまえ!」
「いやあぁぁ!」
男たちは山田さんのうなじを、腰を、太股をつんつんと撫でていく。山田さんは耐え切れず悲鳴を上げ、バランスを崩され、そして……。
「最近この界隈で、限界ギリギリを強要される事件が続発している」
電波が1本だけで、今にも切れそうな携帯電話。電池ギリギリで、セーブできないゲームボーイ。紙がぎりぎりのトイレットペーパー。布がぎりぎりの水着。
事件は拡大する一方だが、犯人は神出鬼没でなかなか姿を現さない。いったいどうすれば……。
「おびき出してみるか」
と彩園すずが提案したのは、棒倒しだった。
第2話 裏切りのサイエンス
Aパート ゴーイング娘(愛蔵版第4巻第21話)
空気の読めない人がいます。
まだ人の少ない早朝の教室。女子生徒たちが暗くうつむいてひそひそと話をしている。
「お父さんの会社、倒産しちゃって……」
とそこに名取羽美が元気に飛び込んでくる。
「ねえねえ、今朝公園でずーっとスーツ着てブランコに乗っているおじさんがいてね。ありゃリストラね。家族にいえないのよ」
羽美は口元を隠しながら愉快そうに笑った。
空気の読めない人がいます。
「重症ですな。ここまで空気が読めないと……。友達ができないわけだな」
「なんですってええ!」
羽美が改蔵の首を掴む。
「失礼なこと言わないでよ! 読めるわよ空気くらい!」
羽美は改蔵を激しく揺らしながら訴えた。
果たして羽美は空気が読めないのか? 彩園すずの提案で、第3者に意見を聞いてみることとなった。すると次から次へと出てくる。羽美の「空気読めない武勇伝」の数々!
周囲から指摘された羽美は、「空気読めるようになってやる!」と叫びながら教室を飛び出してしまう。
Bパート 西から来た女(愛蔵版第2巻第14話)
虎馬高校校門前。砂の混じった風にまぎれるように、女が一人立っていた。
「許さへんで、絶対に! あの女だけは!」
女は目をギラギラさせて呟きに怒りを込めた。その手には一枚の写真。写真には美しい少女が涼しげな微笑を浮かべていた――写真の少女は彩園すずである。女は写真の中で微笑む彩園すずに怒りの炎を向ける。
しかし女は、怒りの炎を抑え込んで一人考えに沈んでいく。
――あの女の周囲には極悪非道の取り巻きがいるらしい。迂闊には手を出されへん……。
考えながら、女は虎馬高校の廊下をうつむきながら歩く。ふと、掲示板の張り紙に気付いて足を止める。
《生徒会急募》
「これや!」
女はかすかな希望を見つけて声を弾ませた。
女はジュン。彩園すずと浅からぬ関係を持ち、因縁のライヴァルである――とジュンは思い込んでいる。
かってに改蔵 上巻
かってに改蔵 下巻
さよなら絶望先生《本家》目次ページへ
作品データ
総監督:新房昭之 監督:龍輪直征 原作:久米田康治
キャラクターデザイン:山村洋貴 メインアニメーター:岩崎安利
美術監督:飯島寿治 伊藤和宏 ビジュアルエフェクト:酒井基 色彩設計:滝沢いづみ
構成:東冨耶子 構成・脚本:高山カツヒコ 編集:関一彦
撮影監督:江藤慎一郎 音響監督:亀山俊樹 音楽:川田瑠夏
プロデューサー:宮本純乃介 アニメーションプロデューサー:久保田光俊
オープニング主題歌:水木一郎と特撮 エンディング主題歌:新☆谷良子
アニメーション制作:シャフト
出演:櫻井孝宏 喜多村英梨 斉藤千和 豊崎愛生 堀江由衣
○ 立木文彦 新谷良子 岩男潤子 永田依子 高岡瓶々
○ 徳本英一郎 平田真菜 五十嵐亮太 小野友樹 浅科准平
○ 渡辺由佳
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