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■2009/10/07 (Wed)
創作小説■
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判】
7
私たちは食い入るように写真に注目していた。デジカメのディスプレイに写っていた写真は、あまりにも鮮明で、絶大な威力を持った証拠品だった。
私ははっと意識が過去に吸い込まれていった。見合いの儀が終了して、一人きりで目を覚ました、あの朝。竹林を歩く私の前に、青ざめた顔の臼井が飛び出してきた。竹林の先にあったのは、赤木杏が眠る沼。そうだ、臼井は決定的な瞬間を目撃し、写真に収め、それで恐怖に捉われて逃げ出していたのだ。
そういえばあの時、沼の近くの草に泥が混じって濡れていた。あれはニセ時田が赤木杏を引きずり出したためだ。
それに私はあの後、赤木杏を目撃した。みんなで帰ろうと向かった玄関先で、私を見詰めていたセーラー服姿の赤木杏。その肌の色が緑色だった。
違和感そのもののように思えた赤木杏の存在。私は白昼夢を見たのではないかと思っていた。でも赤木杏は、確かに存在していた。
それにしても、赤木杏はどうしてあの場所にいたのだろう。隠れていればいいのに、どうして私たちの前に、姿を見せたのだろう。
私は、ふと赤木杏が部屋を出るときに見せた表情を思い出した。……寂しかったのかもしれない。沼の中で10年間眠っていて、ぼんやりした意識しかなかったという赤木杏。それでも、寂しさを感じていたのかもしれない。
「いつ、気付いた。俺が偽者だと?」
時田の声に、私の意識が現実に引き戻された。
私は時田を振り返った。時田は顔を苦しそうに歪め、汗を浮かべていた。顔も声も、すでに時田ではない別人だった。
「昨日ですね。あなたの変装は見事なものです。恥ずかしながら、私も気付きませんでした。しかし、昨日あなたが持ってきた男爵の生徒リスト。あれを見て、私はすぐにおかしいと気付きました。だってあのリストには、“12人”しかいませんでしたからね」
糸色先生は旅行ケースを開けて、用紙を一枚引っ張り出し、テーブルに置いた。昨日の夜、命先生の診療所で見た救出された子供のリストだった。
でも私はリストを覗き込んで、首を傾げた。
「先生、ちゃんと13人いますけど。」
千里が私より先に、顔を上げて疑問を口にした。
糸色先生は首を振って否定した。
「いいえ、12人です。よく御覧なさい。1番目と13番目。これは名前を反転させただけの同一人物です。住所は、慌てていたのでしょう、ただのコピーですね」
糸色先生がリストの1人目と12人目を指して説明した。
私はあっとなった。1番目の「三田智菜美」と、13番目の「源民」。平仮名にすると「みたともなみ」と「みなもとたみ」となる。単に反転させて、漢字を当てはめただけだ。それに、苗字が違うのに住所が一緒。明らかな捏造だった。
「私はこれを見て、ただちに何者かが証拠品に手を加えていると察しました。しかし、これだけでは時田を疑うには判断材料に欠けます。資料を改竄したのは、時田ではない、他の誰かという可能性は充分ありますからね。そこで、もう一つの証拠品です。私は兄の命医院で、あるカルテを見ました。あなたが整形外科に通った証拠であるカルテです。私ははじめ、時田が若作りでもしたのかと思いました。でも、改めて兄に電話して確かめたのですが、“皺を増やすため”の整形手術だったそうです。この段階で、私は確信しました。あなたは偽者であり、男爵の弟子である、と。今は手袋をしていますけど、その掌、随分と若々しいらしいですね。ちらとしか見えませんが、首に皺がなさすぎです。あなたの本当の年齢は30代半ば、といったところではありまんせんか?」
糸色先生は旅行ケースの中から問題のカルテを引っ張り出し、テーブルの上に置いた。それから、ニセ時田を振り向き、畳み込みかけるように言葉を重ねる。
私はカルテを覗き込んだ。専門的な医学用語が羅列されていて、よくわからなかった。その代わりに、糸色医院で聞いた、命先生とのやりとりを思い出していた。
命先生は「“一応身内であるから”」と言った。“一応身内”すなわち、「限りなく身内に近い立場であるけど他人である」という意味だ。
それに見合いの儀の時、時田に糸色先生の幼少時代の思い出を聞くと、真っ先に17歳の事件が話に出てきた。あれは、17歳の時に起きた事件のインパクトがあったからではない。ニセ時田が17歳の糸色先生しか知らなかったからだ。
糸色先生の話はまだ終っていない。私は自分の推測から逃れて、顔を上げた。
「……それで私は裁判所へ行き、当時の正しい資料をコピーさせてもらいました。当時の事件当事者だといえば、簡単にコピーさせてくれましたよ。これがそのコピーです」
糸色先生はとどめのように宣言すると、旅行ケースから最後の資料を引っ張り出した。
資料には、次の名前が列挙されていた。
〇〇名前 当時の住所
三田 智菜美 東京府調布市20-7
楠田 陽子 東京府調布市4-98
群 市太郎 静岡県駿河区31-121
火田 健次郎 福岡県福岡市5-21
帆府 茅香 東京府市川市3-55
市女笠 吉武 東京府守谷市大粕7-14
桜 妓市 東京府杉並区3-83
山形 富一 宮城県仙台市66-65
吉川 和海 千葉県茂原市11-534
幸田 邦仁 茨城県閲沼市3-8
池谷 彰 東京府久坂市2-35
遠藤 喜一 北海道札幌市8-1
次回 P078 第7章 幻想の解体8 を読む
小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
P077 第7章 幻想の解体
7
私たちは食い入るように写真に注目していた。デジカメのディスプレイに写っていた写真は、あまりにも鮮明で、絶大な威力を持った証拠品だった。
私ははっと意識が過去に吸い込まれていった。見合いの儀が終了して、一人きりで目を覚ました、あの朝。竹林を歩く私の前に、青ざめた顔の臼井が飛び出してきた。竹林の先にあったのは、赤木杏が眠る沼。そうだ、臼井は決定的な瞬間を目撃し、写真に収め、それで恐怖に捉われて逃げ出していたのだ。
そういえばあの時、沼の近くの草に泥が混じって濡れていた。あれはニセ時田が赤木杏を引きずり出したためだ。
それに私はあの後、赤木杏を目撃した。みんなで帰ろうと向かった玄関先で、私を見詰めていたセーラー服姿の赤木杏。その肌の色が緑色だった。
違和感そのもののように思えた赤木杏の存在。私は白昼夢を見たのではないかと思っていた。でも赤木杏は、確かに存在していた。
それにしても、赤木杏はどうしてあの場所にいたのだろう。隠れていればいいのに、どうして私たちの前に、姿を見せたのだろう。
私は、ふと赤木杏が部屋を出るときに見せた表情を思い出した。……寂しかったのかもしれない。沼の中で10年間眠っていて、ぼんやりした意識しかなかったという赤木杏。それでも、寂しさを感じていたのかもしれない。
「いつ、気付いた。俺が偽者だと?」
時田の声に、私の意識が現実に引き戻された。
私は時田を振り返った。時田は顔を苦しそうに歪め、汗を浮かべていた。顔も声も、すでに時田ではない別人だった。
「昨日ですね。あなたの変装は見事なものです。恥ずかしながら、私も気付きませんでした。しかし、昨日あなたが持ってきた男爵の生徒リスト。あれを見て、私はすぐにおかしいと気付きました。だってあのリストには、“12人”しかいませんでしたからね」
糸色先生は旅行ケースを開けて、用紙を一枚引っ張り出し、テーブルに置いた。昨日の夜、命先生の診療所で見た救出された子供のリストだった。
でも私はリストを覗き込んで、首を傾げた。
「先生、ちゃんと13人いますけど。」
千里が私より先に、顔を上げて疑問を口にした。
糸色先生は首を振って否定した。
「いいえ、12人です。よく御覧なさい。1番目と13番目。これは名前を反転させただけの同一人物です。住所は、慌てていたのでしょう、ただのコピーですね」
糸色先生がリストの1人目と12人目を指して説明した。
私はあっとなった。1番目の「三田智菜美」と、13番目の「源民」。平仮名にすると「みたともなみ」と「みなもとたみ」となる。単に反転させて、漢字を当てはめただけだ。それに、苗字が違うのに住所が一緒。明らかな捏造だった。
「私はこれを見て、ただちに何者かが証拠品に手を加えていると察しました。しかし、これだけでは時田を疑うには判断材料に欠けます。資料を改竄したのは、時田ではない、他の誰かという可能性は充分ありますからね。そこで、もう一つの証拠品です。私は兄の命医院で、あるカルテを見ました。あなたが整形外科に通った証拠であるカルテです。私ははじめ、時田が若作りでもしたのかと思いました。でも、改めて兄に電話して確かめたのですが、“皺を増やすため”の整形手術だったそうです。この段階で、私は確信しました。あなたは偽者であり、男爵の弟子である、と。今は手袋をしていますけど、その掌、随分と若々しいらしいですね。ちらとしか見えませんが、首に皺がなさすぎです。あなたの本当の年齢は30代半ば、といったところではありまんせんか?」
糸色先生は旅行ケースの中から問題のカルテを引っ張り出し、テーブルの上に置いた。それから、ニセ時田を振り向き、畳み込みかけるように言葉を重ねる。
私はカルテを覗き込んだ。専門的な医学用語が羅列されていて、よくわからなかった。その代わりに、糸色医院で聞いた、命先生とのやりとりを思い出していた。
命先生は「“一応身内であるから”」と言った。“一応身内”すなわち、「限りなく身内に近い立場であるけど他人である」という意味だ。
それに見合いの儀の時、時田に糸色先生の幼少時代の思い出を聞くと、真っ先に17歳の事件が話に出てきた。あれは、17歳の時に起きた事件のインパクトがあったからではない。ニセ時田が17歳の糸色先生しか知らなかったからだ。
糸色先生の話はまだ終っていない。私は自分の推測から逃れて、顔を上げた。
「……それで私は裁判所へ行き、当時の正しい資料をコピーさせてもらいました。当時の事件当事者だといえば、簡単にコピーさせてくれましたよ。これがそのコピーです」
糸色先生はとどめのように宣言すると、旅行ケースから最後の資料を引っ張り出した。
資料には、次の名前が列挙されていた。
〇〇名前 当時の住所
三田 智菜美 東京府調布市20-7
楠田 陽子 東京府調布市4-98
群 市太郎 静岡県駿河区31-121
火田 健次郎 福岡県福岡市5-21
帆府 茅香 東京府市川市3-55
市女笠 吉武 東京府守谷市大粕7-14
桜 妓市 東京府杉並区3-83
山形 富一 宮城県仙台市66-65
吉川 和海 千葉県茂原市11-534
幸田 邦仁 茨城県閲沼市3-8
池谷 彰 東京府久坂市2-35
遠藤 喜一 北海道札幌市8-1
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