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■2009/10/04 (Sun)
創作小説■
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判】
4
赤木杏が客間から出て行った。部屋を取り囲む空気が、入れ替わる感じがあった。もう始めにあった、ざわざわする感じはない。
「これで、事件は解決ですか」
千里の左隣に座っていた藤吉が、少し身を乗り出させた。でも藤吉の言葉に、続きを予感するような緊張が取り付いていた。藤吉はスツールに座っていた。スツールは唐草模様の装飾が施され、足が曲線を描いていた。高級そうなスツールだった。
「いいえ。私が明らかにしたのは事件の一断片です。だって、蘭京太郎殺害の件が未解決のままでしょう。うちの生徒が4人も殺されているんですから。この事件を解決しないかぎり、男爵は明日にでも新しい手を打ってくるでしょう。“彼”を封じないかぎり、男爵の挑戦は永続的に続きます」
糸色先生は新しい問題を提起するように、私たちに宣言をした。
「蘭京さん、殺されていたんですか?」
千里が戸惑うように糸色先生に尋ねた。私だけでなく、全員が思ったはずだ。失踪したはずの蘭京太郎。それが死亡していた。しかも殺されていたなんて、初耳だ。
「ええ。蘭京太郎は殺されています。しかしそのおかげで、私は“彼”を告発し、男爵の計画を挫くことができるのです」
糸色先生が千里に頷き、男爵を振り向いた。
「いったい誰ですか? 蘭京さんを殺したのって」
私は言葉の調子を落として訊ねた。聞くのが少し恐い気がした。
糸色先生が頷き、あまりにも意外な人物を振り向いた。
「それはあなたですよ、時田」
糸色先生が振り向き、指をさしたのは、時田だった。
私たちはみんなで時田を振り返った。時田は私の後ろの空間に、執事らしく慎ましく立っていた。糸色先生に指をさされても、時田は表情をぴくりとも動かさず、閉じているように見える目で糸色先生を見詰め返していた。
「……いえ、時田ではありませんね。遠藤喜一。皆さんにとって、遠藤喜一の名前は初めて聞く名前でしょう。しかし、重要なのは彼の本当の名前ではありません。私たちはそもそもからいって、事件の背景にいるもう一人の何者かを予感せねばなりませんでした。しかもその人物は、我々の中に巧妙に紛れ込み、私や皆さんの知らない空白の時間の中で、あらゆる工作を行っていた。それが可能だった人物。それがあなた。時田に変装した、遠藤喜一だったのです」
糸色先生は時田に宣告するように、冷たく言い放った。
「先生、どういうことですか。時田さんが犯人だなんて」
私は動揺して首を振り、糸色先生に身を乗り出させた。間違いなら、今なら訂正できる。いや、むしろ間違いでしたと言って欲しかった。
「いえ、だから時田ではありません。偽者ですよ」
糸色先生は私を振り返って、落ち着いた声で訂正した。糸色先生の表情に迷いはない。そんな顔を見ても、私はまだ困惑から解放されなかった。
「理由が必要なようだね。君は幼少時代から面倒を見てもらっている男を告発しようとしている。少女たちの顔を見たまえ。すっかり動揺しているではないか。間違いなら、今だけチャンスを与えよう。どうしてあの時田が偽物であり、蘭京太郎という男を殺す必要があったのか。説明してもらえるかな」
男爵が挑みかけるように低い声で問いかけた。
「お気遣いを感謝します。しかし結構です。訂正の必要はありません。すべてお話しましょう」
糸色先生が男爵に視線と言葉を返した。私は戦いの始まりを予感していた。
次回 P075 第7章 幻想の解体5 を読む
小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
P074 第7章 幻想の解体
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赤木杏が客間から出て行った。部屋を取り囲む空気が、入れ替わる感じがあった。もう始めにあった、ざわざわする感じはない。
「これで、事件は解決ですか」
千里の左隣に座っていた藤吉が、少し身を乗り出させた。でも藤吉の言葉に、続きを予感するような緊張が取り付いていた。藤吉はスツールに座っていた。スツールは唐草模様の装飾が施され、足が曲線を描いていた。高級そうなスツールだった。
「いいえ。私が明らかにしたのは事件の一断片です。だって、蘭京太郎殺害の件が未解決のままでしょう。うちの生徒が4人も殺されているんですから。この事件を解決しないかぎり、男爵は明日にでも新しい手を打ってくるでしょう。“彼”を封じないかぎり、男爵の挑戦は永続的に続きます」
糸色先生は新しい問題を提起するように、私たちに宣言をした。
「蘭京さん、殺されていたんですか?」
千里が戸惑うように糸色先生に尋ねた。私だけでなく、全員が思ったはずだ。失踪したはずの蘭京太郎。それが死亡していた。しかも殺されていたなんて、初耳だ。
「ええ。蘭京太郎は殺されています。しかしそのおかげで、私は“彼”を告発し、男爵の計画を挫くことができるのです」
糸色先生が千里に頷き、男爵を振り向いた。
「いったい誰ですか? 蘭京さんを殺したのって」
私は言葉の調子を落として訊ねた。聞くのが少し恐い気がした。
糸色先生が頷き、あまりにも意外な人物を振り向いた。
「それはあなたですよ、時田」
糸色先生が振り向き、指をさしたのは、時田だった。
私たちはみんなで時田を振り返った。時田は私の後ろの空間に、執事らしく慎ましく立っていた。糸色先生に指をさされても、時田は表情をぴくりとも動かさず、閉じているように見える目で糸色先生を見詰め返していた。
「……いえ、時田ではありませんね。遠藤喜一。皆さんにとって、遠藤喜一の名前は初めて聞く名前でしょう。しかし、重要なのは彼の本当の名前ではありません。私たちはそもそもからいって、事件の背景にいるもう一人の何者かを予感せねばなりませんでした。しかもその人物は、我々の中に巧妙に紛れ込み、私や皆さんの知らない空白の時間の中で、あらゆる工作を行っていた。それが可能だった人物。それがあなた。時田に変装した、遠藤喜一だったのです」
糸色先生は時田に宣告するように、冷たく言い放った。
「先生、どういうことですか。時田さんが犯人だなんて」
私は動揺して首を振り、糸色先生に身を乗り出させた。間違いなら、今なら訂正できる。いや、むしろ間違いでしたと言って欲しかった。
「いえ、だから時田ではありません。偽者ですよ」
糸色先生は私を振り返って、落ち着いた声で訂正した。糸色先生の表情に迷いはない。そんな顔を見ても、私はまだ困惑から解放されなかった。
「理由が必要なようだね。君は幼少時代から面倒を見てもらっている男を告発しようとしている。少女たちの顔を見たまえ。すっかり動揺しているではないか。間違いなら、今だけチャンスを与えよう。どうしてあの時田が偽物であり、蘭京太郎という男を殺す必要があったのか。説明してもらえるかな」
男爵が挑みかけるように低い声で問いかけた。
「お気遣いを感謝します。しかし結構です。訂正の必要はありません。すべてお話しましょう」
糸色先生が男爵に視線と言葉を返した。私は戦いの始まりを予感していた。
次回 P075 第7章 幻想の解体5 を読む
小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
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