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■2009/10/03 (Sat)
シリーズアニメ■
第1話 豹頭の仮面&作品解説
レムスとリンダの二人は、モンゴール軍の襲撃から逃れて、森を彷徨っていた。ルードの森と呼ばれるそこは、古来より死霊と魔物が跋扈すると言われている。森は深く、大木に蔦植物が絡みついている。頭上を鬱蒼とした木の葉が覆っている。夕暮れの光が、その向うからちらちらと落ちていた。
森の小道をモンゴールの騎馬隊が通り過ぎた。人の管理のない森だが、蹄が踏み固めた道がまっすぐに伸びていた。
レムスとリンダの二人は、大木の陰に隠れて兵士たちをやり過ごした。だが兵士たちは異変に気付き、戻ってきた。レムスとリンダは発見されてしまった。
走って逃げるレムスとリンダ。だが兵士たちは俊足だった。鬱蒼とした茂みを掻き分けて、レムスとリンダを追跡した。
間もなく、レムスが掴まってしまった。リンダははっとして振り返った。密林の影から次々と兵士たちが現われる。
リンダは兵士たちと毅然と向き合い、ナイフを抜いた。
「野蛮人。モンゴールの犬。お前たちなど、ヤヌスの雷が落ちて、黒焦げになってしまうがいい!」
リンダが呪いの言葉を呟いてナイフを振り上げた。
兵士が悠然とリンダに近付いてきた。リンダは兵士に向かってナイフを振り落とした。しかし、ナイフを持つ腕がつかまれてしまった。兵士の拳がリンダを叩く。リンダは衝撃に地面に崩れた。
「リンダ!」
レムスが悲鳴のような声をあげた。
「助けて。誰か……」
リンダは地面にうずくまったまま、震える声で呟いた。
その時、兵士がはっと一点を振り返った。リンダとレムスもその方向を振り向いた。
少し進んだところに小さな池があり、夕暮れの光で金色に輝いていた。その光を背にして、巨大な影がゆらりと立っていた。誰もが息を飲んで、巨人を見ていた。巨人は筋骨隆々の裸で、豹の頭を持っていた。
「化け物。ルードの悪魔だ」
兵士の一人が怯えた声をあげた。
「ええい、うろたえるな!」
隊長らしき男が叱咤し、剣を抜いた。剣の切っ先を向けて、豹頭の巨人に近付く。
突然、手刀が落ちた。兵士の仮面が掌の形に潰れて、その体が地面に埋ってしまった。
さらに豹頭の仮面が兵士を殴る。兵士の仮面が潰れて、中から血を吹き出させた。
全員が唖然とした。豹頭の男は問答無用で飛びついた。レムスを掴んでいた兵士に襲い掛かり、殴った。兵の体が数メートル背後に吹っ飛んだ。
別の兵士が剣を手に襲い掛かる。豹頭の巨人は身軽にかわし、強烈な蹴りで返した。兵士の体が崩れ、地面に倒れた。
兵士が一人だけ残された。残された兵士は、自分が最後の一人だと気付くと、剣を収めて回れ右して走った。
それを見送った直後、豹頭の男は膝をついた。
「……グイン」
豹頭の男は、気絶する瞬間そう呟いた。
『グイン・サーガ』は栗本薫による伝説的なファンタジー小説である。ギネスにこそ認定されなかったものの、間違いなく世界最長のファンタジー小説である。謎めいた豹頭の男を中心に、壮大にして壮絶な物語を繰り広げる。
残念ながら作者の死により完結されなかったが、今も熱烈に支持され、残された遺稿による続編が待ち望まれる作品である。
作品人気に関わらず、連載開始より30年間、映像化とは縁がなかった。複雑にして長大、壮大な世界観を映像化する方法がなかったからだあろう。だが2009年、我々は待望の映像化を見ることとなる。
『グイン・サーガ』の物語は1979年に始まり、以来30年間巻数を重ねてきた。正伝が128巻、外伝が21巻。シリーズ総合で149冊に及ぶ。しかし、2009年5月、原作者である栗本薫が膵臓癌のために死去。世界最長の物語は惜しくも未完で終ってしまった。正伝は130巻まで執筆されているとされ、発表が予定されている。
アニメ『グイン・サーガ』の物語はパロ王国の陥落から始まる。モンゴールの突然の襲撃により、王と王妃は殺害され、世継ぎであるレムスとリンダは古代機械の手を借りて脱出する。
だが送られた先は、モンゴール領であるルードの森だった。鬱蒼とした森で、夜になれば魑魅魍魎が出現し、生きた者を襲い掛かる呪われた場所である。そんな場所で逃亡生活を続けるレムスとリンダだったが、追跡のモンゴール兵士に追い詰められ、掴まってしまう。
そんな最中、突然現れる豹頭の男――グイン。
グインは剛腕でモンゴール兵士一個小隊を全滅させる。危機を脱したレムスとリンダだったが、グインが自分の名前と「アウラ」の名前以外、すべてを忘れてしまっていると知る。
やがて夜が訪れ、死霊グールがレムスたち三人を襲う。戦い、水の中に逃れた三人は、何とか朝を迎える。しかし待ち構えていたのは、モンゴールの兵士たちであった。
アニメーションの動きは、アニメのありがちなアクションをモンタージュ的に並べているだけだ。間を埋めるべきアクションが省略されている。それが大袈裟、大味な雰囲気を作り出し、カートゥーンアニメような雰囲気を出してしまっている。これは日本人が作った作品か?と疑いたくなる。
壮大な物語のプロローグである。何かが始まろうとするそんな予感と異変が全体に張り詰めている。没落する栄光の王国。記憶を失った謎の男の出現。次々と迫り来る戦い、冒険。
しかしアニメーションの演出は、原作の壮大さを支えるに至ってない。
高詳細に描かれたセル画は非常に密度が高く、一本一本に妥協はない。背景画も詳細に描かれ、異世界の独自的な様式を描き出している。キャラクター、背景いずれにしても圧倒するようなディティールで描きこまれている。
だがこの両者は、一切調和していない。キャラクターは背景画に溶け込まず、水と油のように分離して浮かび上がっている。繊細に塗りこまれた背景画に対して、キャラクターはべったり原色むき出しで塗られ、背景から浮かび上がる。
装飾過剰ぎみに描かれたキャラクターの衣装や装飾は、90年代初めに流行したファンタジーの様式をそのまま踏襲している。現代の技術で何もかもが鮮明になった分、キャラクターの絵画は背景画にも馴染まず、高詳細に作りこまれた世界イメージとも調和していない。キャラクターだけが絵画、世界を無視して華麗でしかも現代的に描かれすぎてしまっている。
映像の流れも、物語が持っている力を具現化しているとは言いがたい。
キャラクターの動きは直線的に動き、走り、飛ばし、そこにカット間の繋がりが意識されていない。ただ走るカットがあり、跳ぶカットがあり、その間にどんな動きがあるのか説明されていない。どのカットもカットで切り抜かれ、間にあるべきもっと繊細なキャラクターのアクションが省略されている。
勢いがあるが、強引としかいいようのない。壮大な演出に装飾されているが、実体としては何もかもがちぐはぐな紙芝居演劇でしかない。何か大きなものを仰々しくやってみようとして、空振りに終った印象だ。
高詳細に世界が描かれる一方で、キャラクターの演技空間が全く意識されていない。それが世界のイメージを小さくすぼめている。また、キャラクターのつくりも典型的なだけで学術的な考証が見えてこないのが個々の説得力を弱くさせてしまっている。
だが物語は始まったばかりである。アニメーションもまだ始まったばかりである。壮大かつ長大な物語の、まだプロローグに過ぎない、
このアニメーションが作り手の才能にどのような刺激を与え、変質し、成長していくか。壮大なドラマは物語の登場人物だけでなく、作り手に対しても大きな影響を与えるはずである。
『グイン・サーが』がどのように変質し、成長していくか。あらゆる可能性と余地はまだまだ残されているはずである。
作品データ
監督・絵コンテ・演出:若林厚史
原作:栗本薫
シリーズ構成:米村正二 キャラクター原案:皇なつき
キャラクターデザイン・総作画監督:村田峻治 コンセプトデザイン:大河広行
美術設定:松元浩樹 高橋武之 美術監督:東潤一 平柳悟
色彩設計:甲斐けいこ 篠原愛子 撮影監督:久保田淳
編集:岡祐司 助監督:ヤマトナオミチ
音響監督:明田川進 音楽:植松伸夫
アニメーション制作:サテライト
出演:堀内賢雄 中原麻衣 代永翼 内田夕夜
〇〇〇小形満 大原さやか 梅津秀行 樫井笙人
〇〇〇滝知史 金光宣明 御園行洋 宮坂俊蔵
〇〇〇利根健太郎 田中晶子 小幡記子
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