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■2009/08/13 (Thu)
創作小説■
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判】
8
私たちは女中に案内されて、広い部屋に入った。
「それでは、こちらでしばしお待ち下さい」
赤い着物の女中が、丁寧に指をそろえて頭を下げた。
「ちょっと待って。お見合いについて聞きたいんですけど。」
千里が女中を引きとめて話を聞きだそうとした。
「その件を含めまして、後ほど説明があります。皆さんも参加予定になっておりますので。それでは」
女中は穏やかな微笑を見せると、もう一度頭を下げて、襖を閉じた。
千里は諦めたように、部屋のなかを振り向いた。私も客間の全体を見回した。部屋は20畳くらいありそうな大広間だった。部屋の反対の端が冗談にならないくらいずっと向うだった。
私たちの背後には立派な床の間が置かれ、絵皿や壷、掛け軸か飾られている。部屋の中央辺りを仕切る場所に、荒削りな彫りの欄間が掲げられていた。襖の向かい側は板間の縁側になっていて、庭が見えた。庭には段々になった棚が置かれ、盆栽が並べられていた。竹林が背景に置かれ、庭は狭く区切り取られていた。
客間には人数分の座布団が敷かれていたが、誰も座ろうとする者はいなかった。あまりにも広くて、みんな所在なげに立ったまま、部屋のなかをあれこれと見ていた。
あびるは庭に興味を持ったらしく、草履を履いている。カエレはその側に立って、庭を見ていた。芽留は部屋のなかを携帯電話片手にうろうろとしていた。落ち着ける場所を探しているみたいだった。可符香は座布団に座ろうとしたけど、他の皆に合わせて、とりあえずみたいに立っていた。マリアと千里は床の間に飾られている美術品を見ていた。千里は茶道部らしく、真剣な顔をして掛け軸を眺めていた。
私は、そんな皆の中に常月まといがいるのに気付いた。
「あれ、まといちゃん。先生と一緒じゃなかったの?」
まといは不安な顔を浮かべてうろうろと歩いていた。糸色先生に合わせたチャラチャラした格好のままだった。
「ええ、引き離されてしまったの。準備が済むまでって。でも、大丈夫。先生に発信機つけたから。これさえあれば、いつでも先生の居場所を知ることができるの」
私が声をかけると、まといは少し落ち着いたらしく、ポケットの中から発信機という道具を引っ張り出した。それはストップウォッチを大きくしたような形で、どことなくというか、間違いなくそれはドラゴン・レーダーだった。
まといが発信機のスイッチを入れる。発信機が緑色の光を宿し始める。縦横の座標軸が浮かび始め、その中心で点が一つ明滅していた。
「これは、どう見るの? この点が、糸色先生のいる場所?」
私はレーダーを覗き込んだ。だけど見方がよくわからなかった。座標の中心が、この機械の置かれている場所だろう。しかし光る点も、同じく座標の中心だった。
まといははっとして自分の体を探った。すぐに脇の下にピンのようなものが留められているのに気づいて、それを手に取った。
「やられたわ!」
まといが敗北感をこめた声をあげた。どうやら発信機の存在はすでにばれていて、まとい自身に付け替えられたみたいだった。
「残念だったわね」
私は落胆でうなだれるまといの背中を撫でた。
するとまといが顔を上げた。頬をほんのり赤くして、目に涙が浮かんでいた。まといは私をじっと見詰めたまま、私の両肩に両手を置いて、私の襟首にさっきのピンを取り付けた。
「なんで? なんで私?」
私は動揺して後ろを向こうとした。
「お願い! 誰かにすがってないと、生きていけないの!」
まといは、一歩私に身を乗り出して、顔をふるふると震わせて訴えた。
こうして間近にすると、今さらだけどまといの顔の美しさに気付いた。強い力を持った大きな瞳も、小さく控えめな鼻や口も、綺麗にまとまっている。そんな綺麗な顔で哀願されると、同性でもドキッと胸を弾ませるものがあった。多分、私は頬を赤くしていたと思う。
「なあ、これ1つもらっていいか?」
そんな私たちの間に、マリアがやってきて器のひとつを差し出してきた。
「なに? これ床の間に飾ってあったやつ?」
私はまといと興奮しかける自分の感情から逃れようと、マリアを振り向いて器を受け取った。まといも私から離れて、マリアを振り返った。
「これだけ他のより汚いゾ」
マリアは子供のような元気な声を上げる。
私はそうね、とマリアが持ってきた器と、違い棚に飾られたほかの器と見比べた。確かに、綺麗な器には見えなかった。形はふにゃふにゃとして曖昧で、やっと器になったという感じだった。色も筆で塗りたくった感じで、黒っぽく沈みかけていた。さすがにこれは、私の目にも価値があるものには見えなかった。
「うーん、まあ、いいんじゃない。一杯あるみたいだし、ひとつくらい持って帰っても大丈夫だよ」
私はマリアの身長に合わせて膝をつくと、器をマリアの小さな掌に返した。
「駄目よ! これは魯山人の本物よ。壊したらどうするの!」
するといきなり、千里が怒鳴って器を奪い取った。
その拍子に、器が千里の掌から滑り落ちた。あっと言っている間もなく、器は畳に落ちて、中央から真っ二つに割れた。砕ける瞬間の音は、畳が吸い込んでくれた。
「ばらばらだ……」
マリアががっかりした声をあげる。
「ど、ど、どうしよう。やっぱり、ここはきっちりと……。」
千里が動揺で言葉を詰まらせた。顔もはっきり青ざめている。
「いや、きっちりしなくていいから。黙っていよう。たくさんあるから、こうやって置いておけばばれないよ。ね」
私は魯山人の器を手に取ると、割れた部分を合わせて、違い棚の開いたところに置いた。破片も散らばらなかったから、こうして置くと、始めから二つに割れた器に見えなくもないように思えた。
「ほら、お庭に行こう。なんかあるよ、きっと」
私は千里とマリアの背中を押して、むりやり庭のほうへ進ませた。
次回 P023 義姉さん僕は貴族です9 を読む
小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
P022 第3章 義姉さん僕は貴族です
8
私たちは女中に案内されて、広い部屋に入った。
「それでは、こちらでしばしお待ち下さい」
赤い着物の女中が、丁寧に指をそろえて頭を下げた。
「ちょっと待って。お見合いについて聞きたいんですけど。」
千里が女中を引きとめて話を聞きだそうとした。
「その件を含めまして、後ほど説明があります。皆さんも参加予定になっておりますので。それでは」
女中は穏やかな微笑を見せると、もう一度頭を下げて、襖を閉じた。
千里は諦めたように、部屋のなかを振り向いた。私も客間の全体を見回した。部屋は20畳くらいありそうな大広間だった。部屋の反対の端が冗談にならないくらいずっと向うだった。
私たちの背後には立派な床の間が置かれ、絵皿や壷、掛け軸か飾られている。部屋の中央辺りを仕切る場所に、荒削りな彫りの欄間が掲げられていた。襖の向かい側は板間の縁側になっていて、庭が見えた。庭には段々になった棚が置かれ、盆栽が並べられていた。竹林が背景に置かれ、庭は狭く区切り取られていた。
客間には人数分の座布団が敷かれていたが、誰も座ろうとする者はいなかった。あまりにも広くて、みんな所在なげに立ったまま、部屋のなかをあれこれと見ていた。
あびるは庭に興味を持ったらしく、草履を履いている。カエレはその側に立って、庭を見ていた。芽留は部屋のなかを携帯電話片手にうろうろとしていた。落ち着ける場所を探しているみたいだった。可符香は座布団に座ろうとしたけど、他の皆に合わせて、とりあえずみたいに立っていた。マリアと千里は床の間に飾られている美術品を見ていた。千里は茶道部らしく、真剣な顔をして掛け軸を眺めていた。
私は、そんな皆の中に常月まといがいるのに気付いた。
「あれ、まといちゃん。先生と一緒じゃなかったの?」
まといは不安な顔を浮かべてうろうろと歩いていた。糸色先生に合わせたチャラチャラした格好のままだった。
「ええ、引き離されてしまったの。準備が済むまでって。でも、大丈夫。先生に発信機つけたから。これさえあれば、いつでも先生の居場所を知ることができるの」
私が声をかけると、まといは少し落ち着いたらしく、ポケットの中から発信機という道具を引っ張り出した。それはストップウォッチを大きくしたような形で、どことなくというか、間違いなくそれはドラゴン・レーダーだった。
まといが発信機のスイッチを入れる。発信機が緑色の光を宿し始める。縦横の座標軸が浮かび始め、その中心で点が一つ明滅していた。
「これは、どう見るの? この点が、糸色先生のいる場所?」
私はレーダーを覗き込んだ。だけど見方がよくわからなかった。座標の中心が、この機械の置かれている場所だろう。しかし光る点も、同じく座標の中心だった。
まといははっとして自分の体を探った。すぐに脇の下にピンのようなものが留められているのに気づいて、それを手に取った。
「やられたわ!」
まといが敗北感をこめた声をあげた。どうやら発信機の存在はすでにばれていて、まとい自身に付け替えられたみたいだった。
「残念だったわね」
私は落胆でうなだれるまといの背中を撫でた。
するとまといが顔を上げた。頬をほんのり赤くして、目に涙が浮かんでいた。まといは私をじっと見詰めたまま、私の両肩に両手を置いて、私の襟首にさっきのピンを取り付けた。
「なんで? なんで私?」
私は動揺して後ろを向こうとした。
「お願い! 誰かにすがってないと、生きていけないの!」
まといは、一歩私に身を乗り出して、顔をふるふると震わせて訴えた。
こうして間近にすると、今さらだけどまといの顔の美しさに気付いた。強い力を持った大きな瞳も、小さく控えめな鼻や口も、綺麗にまとまっている。そんな綺麗な顔で哀願されると、同性でもドキッと胸を弾ませるものがあった。多分、私は頬を赤くしていたと思う。
「なあ、これ1つもらっていいか?」
そんな私たちの間に、マリアがやってきて器のひとつを差し出してきた。
「なに? これ床の間に飾ってあったやつ?」
私はまといと興奮しかける自分の感情から逃れようと、マリアを振り向いて器を受け取った。まといも私から離れて、マリアを振り返った。
「これだけ他のより汚いゾ」
マリアは子供のような元気な声を上げる。
私はそうね、とマリアが持ってきた器と、違い棚に飾られたほかの器と見比べた。確かに、綺麗な器には見えなかった。形はふにゃふにゃとして曖昧で、やっと器になったという感じだった。色も筆で塗りたくった感じで、黒っぽく沈みかけていた。さすがにこれは、私の目にも価値があるものには見えなかった。
「うーん、まあ、いいんじゃない。一杯あるみたいだし、ひとつくらい持って帰っても大丈夫だよ」
私はマリアの身長に合わせて膝をつくと、器をマリアの小さな掌に返した。
「駄目よ! これは魯山人の本物よ。壊したらどうするの!」
するといきなり、千里が怒鳴って器を奪い取った。
その拍子に、器が千里の掌から滑り落ちた。あっと言っている間もなく、器は畳に落ちて、中央から真っ二つに割れた。砕ける瞬間の音は、畳が吸い込んでくれた。
「ばらばらだ……」
マリアががっかりした声をあげる。
「ど、ど、どうしよう。やっぱり、ここはきっちりと……。」
千里が動揺で言葉を詰まらせた。顔もはっきり青ざめている。
「いや、きっちりしなくていいから。黙っていよう。たくさんあるから、こうやって置いておけばばれないよ。ね」
私は魯山人の器を手に取ると、割れた部分を合わせて、違い棚の開いたところに置いた。破片も散らばらなかったから、こうして置くと、始めから二つに割れた器に見えなくもないように思えた。
「ほら、お庭に行こう。なんかあるよ、きっと」
私は千里とマリアの背中を押して、むりやり庭のほうへ進ませた。
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小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
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