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■2016/01/11 (Mon)
創作小説■
第5章 Art Crime
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23
ツグミは自動扉を潜って、外の通りに出た。通りは相変わらず人が犇いていて、間もなく傾き掛けた日が街を夕暮れの色に染めようとしていた。でも、ツグミは解放的な気分になって、そこで背伸びでもしたい気持ちになった。といっても、目の前は人ごみで、周りは排ガスまみれだからしないけど。
このまま、ちょっとセンター街をぶらついてから帰ろうかな、と簡単な計画を立てた。
しかし、目の前に大男が立ち塞がった。2メートルはありそうな筋肉質の巨体。ダークスーツにサングラス、鼻の下には髭。誰がどう見ても、堅気には見えなかった。
ツグミはびっくりして大男を見上げた。逃げようと方向転換する。が、そこにもう1人、全く同じ容貌の巨人が行く手を阻んだ。
ツグミは困惑した。どうしよう、と2人の大男を交互に見上げた。
すると、大男の1人が、すっと頭を下げた。
「お嬢、お迎えに上がりました」
大男は目の前のバス停留場を示した。
見ると、そこに黒のクラウン・バンが待ち構えていた。異様に角ばった高級感のある車は、明るい陽射しの下で、ひどく場違いな歪さを主張していた。それが、ドアを開けて、ツグミを待ち構えている……。
ツグミは、助けを求めるつもりで周りに目を向けた。誰も、ツグミを見ていなかった。バス停留所で待つ人たちも、みんなツグミから背を向けていた。多分、みんな怖くてツグミから目を逸らしているのだ。
大男を見ると、目に「早くしろ」と露骨な苛立ちを浮かばせていた。
どうやら、今のツグミの立場は「ヤクザのお嬢さん」らしい。周りの人たちも、きっとそんな目でツグミを見ているのだろう。
ツグミは男達に従うことにした。杖をついて、クラウン・バンに近付く。2人の大男がツグミの後にぴったり従いてきた。
これがSPだったら心強い。でもその正反対だから、プレッシャー以外の何物でもなかった。
クラウン・バンに乗り込む前に、まず中の様子を覗きこんだ。
中は思った以上に広々とした空間で、座席が対面式で並んでいた。シートは高級感のありそうな白の革張りになっている。天井に、きらきら輝く照明が吊り下げられていた。
どこかしら威圧感のある高級感で、やはりヤクザの車以外の何物でもなかった。
座席の運転席側に、宮川大河が1人で座っていた。汚れ1つない白のスーツを着て、長い足をゆったりと組んでいる。
ツグミが宮川を見ると、宮川はこちらを振り向き、軽く微笑んだ。「また会ったな」という感じで。
ツグミは宮川から目を逸らした。何となく、宮川がいるような予感がしていた。
ツグミは身をかがめて車の中に入ると、リュックを膝の上に乗せて、後部座席の奥に座った。
外にいた大男が1人、ぬっと入って来て、ツグミの隣に座った。ツグミはさらに奥へ、向いのドアに体がくっつくくらいのところまで下がった。
最後に残った1人が、ドアを閉めた。完璧な所作で、頭を下げる。
誰の指示もなく、運転手が車を発進させた。快適な挙動で車が動き出し、車道の列の中へと入っていく。
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目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
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