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■2016/01/09 (Sat)
創作小説■
第5章 Art Crime
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22
画面が再びピーッと音を鳴らした。心臓に悪い音だけど、2度目だから少しは耐性ができた。と思ったが、今度は電話が鳴った。
びっくりして周囲を見回す。いったい、どこから?
左手の、目線から外れる位置に、電話が掛けてあった。とりあえず、電話を静めるために、受話器を取った。
「番号をお忘れですか?」
淡々とした、男性の銀行員の声だった。
「すみません。番号を押し間違えたんです」
ツグミは焦って早口に言い返すと、一方的に受話器を戻した。ますます電話がトラウマになってしまった。
ツグミはうなだれるように視線を落とし、気持ちを鎮めようとした。両掌で顔を覆うようにして汗を拭った。顔も掌もベトベトで、返って気持悪くなった。トレンチコートの袖口で拭うと、べったりと汗を吸い込んだ。
周到な川村さんのことだ。どこかに必ずヒントを残しているはずだ。
ツグミはじっくりと考えた。記憶の中から川村に関するところだけを、ピックアップして早送りをした。
こんな場合、暗証番号はどう設定するだろう。誕生日? 住んでいるところの番地? 電話番号……。
……電話番号。
ツグミは「あっ」と声を上げてモニターに飛びついた。
『6092―7824』
川村の電話番号だ。かけようとしても、遂に繋がらなかった、あの不自然な電話番号。そうだ、そういえばあの番号、もともとは8桁だった。
入力してから、少し間があった。モニターは何も反応せず、入力画面を表示し続けた。ツグミはその間、息を止めて待った。
やがて、画面が切り替わった。
『ロックを解除します』
ツグミは体から力が抜けて、「はあー」と長く息を吐いた。
正面の把手の付いた枠が、ガチャッと少し隙間を開けた。把手を掴んで開けると、向うに引き出しが現れた。それが貸金庫の本体だ。
引き出しの把手を手に取り、引っ張り出して、カウンターの上に置いた。
小さかった。小さなカウンターに載る程度の大きさで、奥行きはせいぜい30センチくらい、厚さは10センチ程度だった。
ツグミはにわかに緊張した。「この中に、川村さんが預けた何かが」と思うと、さんざん汗を掻いた後だというのに、自分の気持ちを勿体つけたくなってしまった。開けないまま色々想像して、気持を少し昂らせてしまった。
ツグミは、ゆっくりと引き出しの中を開けた。中に入っていたのはたったの2点。1号キャンバスと、百円ライターだけだった。
次回を読む
目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
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