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■2016/07/21 (Thu)
第7章 Art Loss Register

前回を読む

23
 宮川はようやく気が済んだみたいだった。ぜいぜいと、しかし恍惚そうな息を漏らしていた。
 ツグミはゆっくり顔を上げた。川村は倒れたままの格好で、動かなくなっていた。体を変な方向に曲げて、気を失っているようだった。
 ツグミはその姿を見て、思わず涙がこみあげてきた。悲鳴を上げたかったけど、それは押し留めた。倒れている川村を見るのがつらかった。
 宮川がツグミを振り返った。ツグミは今度は自分の番だ、と思って身を固くした。
 宮川はズンズンとツグミに向かってきた。ツグミは短く悲鳴を漏らして、身をのけぞらした。宮川はツグミの右腕を鷲掴みにして、もの凄い力で掴みあげた。
 宮川はツグミを立ち上がらせただけだった。それから、宮川はツグミの背中に回り、両肩に手を置いた。
「どうだ。素晴らしい眺めだろう。世界の至宝が6枚だ。こんな光景を見た人間は、誰もいない。我々だけがこの奇跡を見ているのだ」
 宮川は6枚の『合奏』を眺めながら、声を上擦らせていた。
 ツグミは『合奏』を見ずに、宮川を睨み付けた。宮川の目は、暗闇の中とは思えないくらい、明るく煌めいていた。
 宮川はツグミの側を離れて『合奏』の前に進んだ。宮川は気分が高揚しているらしかった。大演説が始まりそうな予感だった。
「……しかし6枚も要らない。どんなに優れた絵画も、数が多くなれば価値を失う。フェルメールの価値は、作品が優れているからではない。フェルメールに相当する技術力を持った画家は、探せばいくらでも見付かる。フェルメールの真の価値は、枚数が少ない事実にある。たったの30枚だ。30枚! だからこそ貴重なのだ。それ以上にあると、誰も見向きもしない。注目する人間はいるだろう。だが、研究書の域を決して越えない。金を出す者もいなくなる。悪いのは我々ではない。絵に値段を付け、金持ちの所有欲を煽り立てる画商連中が悪いのだ。画商同士が示し合って、芸術の発見をセンセーショナルなドラマにでっち上げ、値段を吊り上げている。美術品はただ飾るだけで、何の実用性もない。それを、金持ちの浪費にふさわしいものに無理矢理、押し上げている。我々はそういう組織的な悪徳商法の尻馬の端っこに、ちょっと乗っているだけなのだ」
 宮川は、実に朗々とした調子で、演説をした。6枚の『合奏』を前にして、よっぽど興奮しているらしい。
「アンタは、人を殺したやんか。私のお父さんも。アンタは尻馬に乗ったんやない。全部了解済みで利用しただけや」
 ツグミは反撃のつもりで声を張り上げた。熱かった。体の底に、マッチ棒くらいの炎が燃えていた。少しでも気を抜いたら、吹き消されてしまいそうな炎だった。
「いや、違う。私は悪くない。私も君も、悪い画商に操られた、犠牲者の1人だ。でなければ、私たちはこんなふうに会う機会もなかった。私たちは後に引けないんだよ。さあ、ツグミ。ここに6枚の『合奏』がある。恐らく、世界中のどの研究機関が検査しても、本物と判定されてしまうだろう。6枚もあると、それはただの印刷物だ。何の値打ちもない。だがこの6枚の中に、間違いなく本物が1枚ある。残り5枚は限りなく本物に近い贋作だ。これを見分けられるのは、この世でたったの1人だけ。ツグミ、お前だ。さあ、応えてもらおう。本物は、どれだ」
 宮川はまたツグミの側までやって来た。悪魔みたいに、「本物はどれだ」とツグミの耳に囁きかけてくる。
 ツグミは奥歯をきつく噛んで、身を震わせた。宮川を振り向き、睨み付けた。
「コピーでもいいやんか。ルーブルの絵のほとんどが、コピー品やで。でも、ルーブルにやって来る誰が、コピーか本物かなんて議論するんや。本物にしか見えない絵が6枚ある。それでいいやんか。数が多いからって、その絵の価値がなくなるなんて、絶対にない。値段がつかないからって、絵そのものが持っている本質が変わるわけがない。いくらになろうと、その絵はその絵としてそこに存在する。本物にしか見えない完璧な絵が6枚あるんなら、それも優れたものとして認められてもええやろ。値段が全ての物差しちゃうわ!」
 ツグミは声を宮川に叩きつけるつもりで、力を込めた。
 しかし、宮川の顔から笑みは消えなかった。
「私は色んなものを救いたいんだ。6枚も『合奏』があるなんて事態になってみろ。フェルメールの価値が一気に下がる。世界中のファンががっかりするだろう。フェルメールは、世界でもっとも値打ちのある絵画でなければならないんだ。それがフェルメールを支える宗教の本質だ。この世界では、お金こそが全ての物差しなんだよ。だから、価値を落とす悪因は全て排除しなくてはならないんだ」
 ツグミは宮川を指でさした。
「全部アンタの都合の話やんか。結局、アンタはフェルメールを高額で売りたいだけやんか。なんでアンタの金儲けに、私が協力しなくちゃあかんのや。私は絶対に鑑定なんかせえへんからな!」
 ツグミは相手に屈辱を与えるつもりで、ゆっくりと言葉を並べた。
 やはり宮川は笑っていた。何の打撃にもなっていなかった。ツグミは自分の言葉が手応えなく跳ね返ってくるのを感じた。

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※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。

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■2016/07/20 (Wed)
第14章 最後の戦い

前回を読む

17
 大広間に飛び込むと、やはりそこにも悪魔が待ち受けていた。奥の十字架の下に儲けられた玉座に、角を持った獣が、まるで王族のごとく座り、訪れる者を待ち受けていた。
 悪魔がオークと対決するために立ち上がった。立ち上がると高さは約4メートル。悪魔の中では小ぶりなほうだが、向き合ってみるとこれほど恐ろしいと感じる巨人はいなかった。しかも巨人の右手には、恐るべき鎚が握られ、左手には巨大な斧が握られていた。
 オークは巨人の悪魔に立ち向かった。巨人の鎚は地面を叩き割り、斧は石壁をバターのように切り裂く。しかも巨人は、武器を巧みに操り、驚くべき速度でオークを追い詰めた。
 しばらく1対1の戦いが続いたが、やがてネフィリム達が通路から現れ、戦いに参加した。オークはかつてないほど早く剣を走らせてネフィリムを斬り殺し、かつてない腕力で巨人に立ち向かった。オークの一撃は悪魔の鎚を押し返し、破壊力は斧を上回った。
 オークも攻撃を受けた。一瞬の油断で、鎚の一撃がオークの背中に命中した。鎧が砕かれ、骨にも衝撃が走った。
 しかしどんなに体力を奪われようとも、血が失われようとも、オークをまとう鬼気迫る殺気は毫とも衰えず、剣の力が弱くなることはなかった。
 オークの力は巨人を圧倒し、凄まじい攻撃の連打でついに巨人が膝を着いた。オークはとどめの一撃を巨人の頭頂部に叩き落とした。
 辺りに群がり集まるネフィリムを1匹残らず倒すと、突然にふらりと膝が折れた。気を失いかけた。背中に受けた一撃は、思った以上に致命的だった。
 だがそこは魔の巣窟。とどまるわけにはいかなかった。
 オークは再び走り始めた。回廊を抜けて、広間を2つ横切った。
 突然、上方の吹き受けに、ズンズンと気配が迫った。はっと顔を上げる。壁を覆う壮麗なるステンドガラスが砕け散った。色とりどりの光が空間一杯に煌めく。その向こうから、恐ろしく巨大な黒い塊がどすんと落下してきた。
 次なる悪魔は固有の形を持たなかった。ただただ巨大な黒い塊に、無数の手足をにょきにょきと生やしていた。
 悪魔の手を長く伸ばし、オークを掴もうとする。ネフィリム達も当然のように集まってきた。
 オークは悪魔の腕を叩き落とした。だが、いくら叩き落としても次々に新しい手が生えてきた。いくら叩き落としても、ダメージにはならなかった。
 オークは構わず斬り続けた。すでに戦いが本能であり、その本能に従った。オークは目に映る全てを斬っていた。いつの間にかオーク自身の魂に悪魔のような狂気が映っていた。
 気付けば悪魔を倒していた。悪魔の体が真っ二つに裂かれて、その周囲に夥しい数の手足が散らばっていた。オークはいつどうやって倒したか覚えていなかった。
 オークは次の階層へと進んでいった。そこにも悪魔が待ち受けていた。全身で炎で覆われた、恐ろしく巨大な悪魔だった。
 オークは炎の獣と対峙し、剣を構えたまま、ふらりと膝が崩れた。目の焦点が定まらず、近付いてくる獣の姿が2重にぶれた。
 悪魔がオークの体を掴んだ。燃え上がる手がオークの体を燃やす。悪魔はオークの体を高く高く放り投げた。どこまで放り投げたかわからないくらい長く宙を舞った後、オークは激しく地面に激突した。
 周囲が暗転した。今の衝撃で、目の前のものが何も見えなくなった。なのに、目の前に悪魔が迫るのを感じた。感じていたが、体が動かなかった。
 悪魔の拳が迫った。1発1発が恐ろしく威力のある鉄塊だった。オークは拳を避けられず全身に浴びたが、手に持った剣だけは放さなかった。
 さらに悪魔は再びオークの体を掴み、放り投げた。
 オークは窓の外へ。そのまま地面に激突するかと思いきや、どんな幸運か向かいの空中庭園がオークを抱き留めていた。
 オークはようやく意識を取り戻した。剣を手に、立ち上がった。あの怪物が、建物の壁を這い上り、こちらに登ってくるのが見えた。こちらの庭園に移るつもりだ。
 悪魔が跳躍した。オークも同時に飛んだ。
 オークはタイミングを誤らず、悪魔の頂点にダーンウィンを振り落とした。悪魔の体が空中で仰け反った。悪魔は目的地に辿り着けず、壁に激突した。オークは悪魔の体に取り付いて、落下の衝撃をかわした。悪魔が壁に叩きつけられてたじろいでいる隙に、その首を叩き落とした。
 首を落とされても悪魔はすぐに死ななかった。断末魔の叫びを上げて、悶え暴れた後、自身をまとった炎に焼かれて死んだ。
 オークは悪魔の死を見届けて、次の回廊に入った。

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■2016/07/19 (Tue)
第7章 Art Loss Register

前回を読む

22
 そこは廃ビルなのか、それとも廃倉庫なのか。空間がだだっ広く、ずっと向こうに窓の形が見えた。遠くない場所から、波の音が聞こえてくる。
 窓から暗い光が射し込み、さらに深い闇を照らしていた。窓の光がなければ、暗闇がどこまでも続いているように錯覚を起こしそうだった。
 ツグミは混乱する思いで、4枚並んだ『合奏』を見た。頭がぼんやりしていたが、「川村さんが描いた『合奏』だ」と何とか考えるに至った。
 ふと暗闇の中で気配が動いた。階段の下から、何人か登ってくる音がした。
 3人の男が照明の中に入ってきた。男たちはそれぞれキャンバスを持っていた。
「川村の作業部屋から発見しました。『合奏』が新たに3つ。そのうち、描きかけが1つ」
「描きかけはいらない。除外しろ。邪魔だ」
 男の1人が報告し、宮川がすぐに指示を返した。
 男たちは指示を予想していたみたいに、2枚の『合奏』をイーゼルに掛けた。描きかけの1枚は暗闇に投げ捨てられた。
 絵を運んできた3人に続いて、もう1組、明かりの中に入ってきた。長髪の男と川村だった。川村は手を縄で縛られていた。
 長髪の男は、照明の光が辛うじて当たる場所に川村を連れて来た。長髪の男は、川村に膝をつかせた。
 宮川が川村の前に進んだ。長髪の男は「宮川にすべて委ねる」という態度で、暗闇の中に下がった。
 宮川と川村が向き合った。川村が顔を上げて、宮川に挨拶のように軽く微笑みかけた。
 宮川はいきなり川村の顔面を蹴った。川村の体が地面に崩れた。
「やめて! やめて!」
 ツグミは悲鳴を上げた。飛びつこうとしたけど、左脚で踏み出そうとしてしまって、転んでしまった。
 宮川は何度も川村を蹴った。川村は悲鳴を上げず、攻撃を防ごうともしなかった。あえて抵抗しないみたいに、蹴られるがままだった。
 ツグミは見ていられなくて、目を背けた。宮川の靴が川村に当たるのを聞くたびに、自分の体が蹴られたみたいな気分になった。

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■2016/07/18 (Mon)
第14章 最後の戦い

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16
 悪魔の王の行進には、悪魔達だけではなく、闇に潜んでいた多くの魔界の者や、ネフィリムが加わった。悪魔の王は夥しい数の百鬼夜行を引き連れて、真っ直ぐキール・ブリシュトを目指した。
 土砂降りだった雨はやんだが、雲は晴れるかわりに悪魔の王が撒き散らした暗闇が周囲を暗く染めている。それが魔界の者達の花道を彩った。
 オークは悪魔達を追って、ひたすら馬を走らせた。野を駆け、山脈を飛び越えていき、馬の尻に鞭を振るい続けた。
 しかしどんなに全力で走ろうとも、あらゆる地形を無視して行進する悪魔達の行列に追いつけなかった。徐々に引き離されてしまう。悪魔達はたった1人で追ってくる人間など気にもしなかった。
 ただし、目的ははっきりしていた。オークは知る限りの近道を馬で走らせて、キール・ブリシュトを目指して走った。
 間もなく邪悪なる山脈へと到着した。魔の山はクロースが立ち入って以来、再び闇の眷属の巣窟となっていた。山道に入っていくと、ネフィリム達がオークの行く手を遮った。すでに悪魔の王たちはこの山に入っていて、魔の者は本来の主を得てますます血気盛んな様子になっていた。
 オークはネフィリム達を蹴散らしながら、山の奥へと入っていった。やがて山脈の谷間に、あの巨大な聖堂が姿を現した。すでに夜明けの時間なのに、あの周辺だけひどく暗く、不気味に禍々しい気配を放っていた。その気配に馬が怯えて踏みとどまってしまった。オークは馬を乗り捨てて、目の前の斜面を自らの脚で駆け下りていった。
 ネフィリムの大軍がオークの前に立ち塞がった。キール・ブリシュトの玄関口に至る道を、数えようのない大量のネフィリムが集結していた。
 だがオークは避けるつもりも逃げるつもりもなかった。正面からネフィリムに立ち向かっていった。
 オークは驚くべき腕力でダーンウィンを振りかざす。ダーンウィンはオークの意思に呼応して神秘の力を発揮した。オークが一振りする度に、数十のネフィリムが一度に吹き飛び、炎で燃え上がった。
 そうやってネフィリムを一気に薙ぎ払うと、いよいよ入口の門を潜り抜けていった。
 すると、やはりいた。門を抜けた広場に、巨大な怪物が一体、オークを待ち受けていた。
 オークは剣を身構えて、悪魔と向き合う。
 不意に、頭上から翼を持ったガーゴイルの軍団が飛び降りてきた。
 オークはガーゴイルの群れを剣で振り払おうとしたが、宙に浮かぶ敵は容易に捉えがたかった。ガーゴイルは空に浮かんで剣を避けて、隙を見付けてはオークに飛びかかった。
 ガーゴイルに気を取られているうちに、ぬっと巨大な影が迫った。オークははっと振り返る。悪魔の掌が、オークを掴んだ。悪魔はオークを高く放り投げた。
 オークは長く長く宙を舞い、地面に叩きつけられた。敷石が砕け、体のどこかが折れる感触があった。気付けばダーンウィンがその手にない。
 痛みにのたうつ間もなく、悪魔とガーゴイルがオークに襲いかかった。
 オークは飛び起きた。次の攻撃を避けると、敵と距離を置き、ダーンウィンを探した。
 ダーンウィンはずっと向こうに転がっていた。ネフィリムの大軍が集まって、持ち去ろうとしていた。
 しかし、ネフィリムがダーンウィンの柄を握ると、火が噴き上がった。慌てふためいたネフィリムは、ダーンウィンを投げ渡そうとするが、その度に持ち手が火に包まれた。
 オークはネフィリムの群れの中に飛び込んでいった。ダーンウィンを奪い取る。
 ネフィリム達がオークに攻撃の矛先を向ける。オークは迷わず剣で薙ぎ払った。ダーンウィンの神秘の力で、魔の者は次々と業火に焼き尽くされた。
 悪魔が迫ってきた。悪魔が拳を振り落とす。オークは拳の一撃を避けた。悪魔の拳は、同族であるネフィリムを叩き潰した。
 瞬間、わずかな隙が生まれた。オークはとっさに悪魔の腕に飛びつき、その体に取り付いた。悪魔は体を大きく揺さぶった。オークは耐えきれず吹き飛ばされた。
 だが狙い通りだった。オークは空中を飛んでいたガーゴイルの足を掴んだ。ガーゴイルは慌てて翼をばたばたとさせた。ガーゴイルはオークをぶら下げたまま、高く高く上昇した。
 悪魔はオークの姿を見失っていた。うろうろと辺りを見回している。
 隙だらけだった。オークはガーゴイルから飛び降りた。落下の勢いに、剣を振り落とす勢いを加えた。剣が怪物の頭頂部に激突する。固い頭蓋骨が真っ二つに砕けた。
 尋常ならざる生命力を持った怪物は、それでも死ななかった。喉の奥で断末魔の悲鳴を漏らし、激しい痛みにのたうった。
 オークはそれ以上戦う必要なしと判断すると、聖堂の中へと駆け込んだ。

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■2016/07/17 (Sun)
第7章 Art Loss Register

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21
 ツグミの体が、ガクリとなった。ツグミは自分が気を失いかけたのだと思って、首を振った。
 しかし違った。ボートのエンジン音が停止していた。どこかに到着したらしかった。周囲で男たちの気配が動いた。
 ツグミは体の具合は最悪だった。船酔いだった。それにシートを被せられたといっても、やはり寒かった。頭がクラクラして、周りを囲む足音が、頭の中をグルグルと回っている感じだった。喉元に異物感が這い上がってきたけど、これは飲み込んで我慢した。
 シートが外された。どこかの岸壁だった。コンクリートの岸壁が、目の前に立ち塞がった。その向こうに大きな倉庫があった。明かりがなく、倉庫が色を失った暗闇の中に浮かんでいた。辺りは暗くて、どれくらいの大きさなのかよくわからなかった。
 男がツグミの腕を掴んで立ち上がらせようとした。しかしツグミは立てなかった。平衡感覚は完全に失われていたし、足下の感覚もなかった。立ち上がろうという体力すらなく、男にもたれかかってしまった。
 仕方なく、男はツグミを掴み挙げて肩の上に載せて運んだ。
 体が揺さぶられて、気持ち悪かった。視界は感度の悪いカメラのように激しくぶれていた。あまりにも気分が悪くて、誰かの目を通して光景を見ているようだった。体の入口と外側の両方に、異物感を這い上がってくるのを感じた。とにかく、その一線だけは越えまいと意思を保った。
 突然、ツグミの体が投げ出された。一瞬、ツグミの意識が暗転した。どこか暗いところから、突き落とされたのだと錯覚した。
 ツグミは指先で地面の感触を確かめた。突き落とされたわけではなかった。地面は乾いていた。なぜかその瞬間、ツグミは血が広がっていくのを幻覚の中で感じていた。
 意識が戻るまで、しばし時間が必要だった。目元が霞んでいたし、辺りは照明のない暗闇だった。
 目の前に明かりが入った。床に提灯みたいな照明が4つ並んでいた。照明が暗闇を淡いセピア色に浮かべる。
 ツグミは頭を上げた。明かりの中に誰かいる。すらりとした長身。しかし足下はくっきりしているのに、胸から上が暗い影で覆われていた。
 直感と気配だけで、誰なのか想像ができた。宮川大河だ。
 ヒナが予言したとおり、宮川が出現した。ということは、今が最後の瞬間なのだ。宮川を捕まえる最後のチャンスであり、本物のフェルメールを手に入れる最終的なタイミングだった。
 ツグミは意思を強く持ち、起き上がろうとした。腹を床にくっつけて、手を床に付け、上半身を持ち上げる。たかがそれだけの動作がひどい重労働だった。
 それに、ちょっと吐いてしまった。口元を抑えて吐き出すものを受け取ろうとする。ネバネバとした粘液だけだった。
 ツグミはやっとのことで上半身を起こして、顔を上げた。やっぱり宮川大河だった。
「立って見たまえ。実にいい眺めだぞ」
 宮川は愉快そうだった。宮川の言葉がツグミの頭の中をガンガンと駆け巡り、気持ち悪かった。
 ツグミはもうひとふんばり、と立ち上がろうとした。杖もないし、誰も補助してくれない。ツグミは右脚に体重を寄せ集めて、ゆっくり立ち上がった。まるで初めて立ち上がる子鹿のように、フラフラとしていた。
 やっと立ち上がって、ツグミは片足飛びで2歩進んだ。宮川が視界の邪魔にならないように、そこを退いた。
 照明の光に4枚の絵画が浮かんでいた。いずれもイーゼルに掛けられていた。4枚の絵はきちんと正面を向いて、整列していた。
 ツグミはわかっているつもりだったけど、茫然としてしまった。全て『合奏』だった。

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