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■2015/12/16 (Wed)
創作小説■
第7章 王国炎上
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7
大門の前にテントが築かれた。セシルはテーブルの上に地図を広げた。王城周辺の1万分の1地図で、東西の海外線のおおよその形が描かれ、南は街道の分かれ道まで描かれている。土地の者の目にも、信頼し得る正確な地図であった。ブラン
「征旅の最中で、東、西の両側からネフィリムの大軍が移動しているのを見た。小規模の軍団なら潰したが。まるでガラティア全体がヤフーまみれになったようだ。第2陣、第3陣、ともに数は3万を越える。見慣れぬ巨人もいたぞ」
セシル
「どれくらいかかるか、わかるか?」
ブラン
「第2陣は明日の明け方頃になるだろう。第3陣は同じ日の夕刻頃……。その後方にもまだまだ続いている。戦いは長引けば不利になるだけだ」
セシル
「……もう間もなくか。3万の軍勢相手に短期決戦を繰り返すとは」
気が遠くなりそうな話だった。
勝利宣言が下された後だが、現状では戦闘はまだ続いていた。ネフィリムはどれだけ数を減らそうとも戦意喪失はしない。まだ前線では千体近いネフィリムとの戦いが続いていた。
戦場では夥しい数のネフィリムの死体が積み上げられていた。手の空いた兵士達が死体に火を付けている。炎は赤くならず、黒い色で燃えて辺りを照らさなかった。煙も真っ黒で、その周囲を通り過ぎようとすると、黒い灰で服が真っ黒に染まった。それに、凄まじい異臭だった。黒い煙の中で、悪霊がゆらめくようにすら思えた。
セシルは休む間もなく、次の戦いに備えて大門の前にテントをいくつか張り、そこを即席の司令部とした。参謀達が集まり、地図を広げて議論している。
兵士達は休まず働いている。騎士団の進撃の邪魔になるネフィリムの死体が片付けられ、新しい武器が支給され、大急ぎで食事を済ませている。
間もなく夜明けが来る。兵士達は不眠不休で働いて、すでに疲労は限界に達している。それでも誰一人休む者はいなかった。
ブラン
「しかし一体なにがあった。私はお前さんが蛮族と戦っていると聞いて兵を動かしたのだが」
セシル
「そうだとも。人間同士の戦いだった。しかしネフィリムの戦いはそれ以前から始まり、決着を放棄してきた。いつかケリをつけるべき戦いであった」
ブラン
「我々もできる限りの協力をしよう。ヤフーどもの脅威は遠からず我らの国に……いや世界中が向き合わなければならなくなる問題だ。叩くなら、今だ」
セシル
「うむ。助かる」
セシルが遠くを見た。地平線が白みはじめていた。大地は暗い灰色に浮かび、そんな不吉な夜明けを背負うかのように、風景の向こうに次なるネフィリムの大軍が現れるのが見えた。
セシル
「オーク。戦いの準備は?」
オーク
「完了しています。合図があればいつでもいけます」
セシル
「よし」
オーク
「……セシル様。少しお休みになってください。悪魔との戦いから、3日眠っていません」
セシル
「それはそなたも同じであろう。兵士らが命を賭して戦っている最中に眠ってなどいられるか」
オーク
「…………」
悪魔との戦いの時、その中心はセシルであった。最も危険な戦いを挑んだのはセシルであった。今もそれは変わらない。ネフィリムの第2陣が来れば、再びセシルの戦いが始まる。王族ゆえの宿命の戦いだ。この数日、真に命を賭けた戦いを続けているのは、セシルただ1人であった。
ネフィリムの戦いは目前に迫っていた。ネフィリムの軍勢はまるで先の戦いなどなかったかのような大軍勢を率いて王城に向かってきていた。
明け方になると、空はことさら暗くなり、やがて雨が降り始めた。
※ ヤフー 「ならず者」という意味。『ガリバー旅行記』に登場する。ここではネフィリムへの蔑称として使われている。
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