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■2015/11/15 (Sun)
創作小説■
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
前回を読む
「ツグミちゃん、これ光太さんの絵? 見ていい?」
かな恵は穏やかな喋り調子で、椅子に乗せた紙袋を覗き込むようにした。
「ええ、いいですよ。どうぞ」
ツグミは角砂糖をざくざくやりながら、「どうぞ」と勧めた。
そうしてから、急に恥ずかしいのを思い出した。紙袋に入っている絵のモデルは、自分だというのをすっかり忘れていた。
かな恵は紙袋の中から箱を引っ張り出し、箱を膝の上に載せて蓋を開ける。中から現れた絵を見て、かな恵は「うっ」としゃっくりのような呻き声を漏らした。
「あの、これ、お値段はいくらくらいなん?」
かな恵はいつになく興奮した様子で、早口になり、身を乗り出した。心なしか、頬が赤くなっているように思えた。
「ええっと、まだ決めてないけど、70万円くらいで考えています」
ツグミはちょっと目を逸らし、考えるようにしながら答えた。
実は光太の絵の評価額は『美術年盤』に載せられていて、それを参考にすると、光太の絵はそんな高い値段にはならない。日本画壇での評価は、低いままなのだ。
しかし世界的な基準に合わせると、今度は70万円という値段でも安いくらいになってしまう。画廊で展示販売する時は、その合間を調整しつつ、買いに来た人に高いと思われない微妙な値段設定を心掛けていた。
「給料3か月分やわ……。どうしよう。キープとかはあかんの?」
かな恵は絵をじっと見詰めて、真剣に考えるふうに顎をなでていた。
「ええ、予約受け付けていますよ。一括払いが厳しいようでしたら、分割払いなどもありますけど」
ツグミはずるいと思いつつ、打算的な考えをいろいろ巡らせていた。今ここでかな恵に購入してもらえば、色んな人に絵を見られて恥ずかしい思いをしなくて済むかもしれない。それに、絵が1枚でも売れると、家計はかなり助かるのだ。
「うん、ごめんだけど、それじゃ、それでお願い。近いうちに、ツグミちゃんの画廊に行くなぁ。正式な契約書、書かなきゃあかんから」
かな恵は満足そうに頷き、いつものおっとりした調子に戻って絵を箱の中に戻した。
ツグミはほっとしつつ、心の中で密かな喝采を上げた。
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目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
第4章 美術市場の闇
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13
コーヒーとミルフィーユが運ばれてきて、話は一度中断になった。ツグミはとりあえず、コーヒーに角砂糖を5つ放り込んで、スプーンの先で角砂糖を砕いた。「ツグミちゃん、これ光太さんの絵? 見ていい?」
かな恵は穏やかな喋り調子で、椅子に乗せた紙袋を覗き込むようにした。
「ええ、いいですよ。どうぞ」
ツグミは角砂糖をざくざくやりながら、「どうぞ」と勧めた。
そうしてから、急に恥ずかしいのを思い出した。紙袋に入っている絵のモデルは、自分だというのをすっかり忘れていた。
かな恵は紙袋の中から箱を引っ張り出し、箱を膝の上に載せて蓋を開ける。中から現れた絵を見て、かな恵は「うっ」としゃっくりのような呻き声を漏らした。
「あの、これ、お値段はいくらくらいなん?」
かな恵はいつになく興奮した様子で、早口になり、身を乗り出した。心なしか、頬が赤くなっているように思えた。
「ええっと、まだ決めてないけど、70万円くらいで考えています」
ツグミはちょっと目を逸らし、考えるようにしながら答えた。
実は光太の絵の評価額は『美術年盤』に載せられていて、それを参考にすると、光太の絵はそんな高い値段にはならない。日本画壇での評価は、低いままなのだ。
しかし世界的な基準に合わせると、今度は70万円という値段でも安いくらいになってしまう。画廊で展示販売する時は、その合間を調整しつつ、買いに来た人に高いと思われない微妙な値段設定を心掛けていた。
「給料3か月分やわ……。どうしよう。キープとかはあかんの?」
かな恵は絵をじっと見詰めて、真剣に考えるふうに顎をなでていた。
「ええ、予約受け付けていますよ。一括払いが厳しいようでしたら、分割払いなどもありますけど」
ツグミはずるいと思いつつ、打算的な考えをいろいろ巡らせていた。今ここでかな恵に購入してもらえば、色んな人に絵を見られて恥ずかしい思いをしなくて済むかもしれない。それに、絵が1枚でも売れると、家計はかなり助かるのだ。
「うん、ごめんだけど、それじゃ、それでお願い。近いうちに、ツグミちゃんの画廊に行くなぁ。正式な契約書、書かなきゃあかんから」
かな恵は満足そうに頷き、いつものおっとりした調子に戻って絵を箱の中に戻した。
ツグミはほっとしつつ、心の中で密かな喝采を上げた。
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※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
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