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■2015/08/04 (Tue)
創作小説■
第2章 聖なる乙女
前回を読む
1
若者はゆっくりと目を覚ました。視界はぼんやり霞んでいたが、光が辺りを漂うのを感じた。しかしそこが安全な場所という確信があった。ぬくもりは穏やかで、馴染みのある空気が辺りを包んでいた。我が家だ。老ドルイド僧
「目覚めたか」
×××
「ここは?」
老ドルイド僧
「お前さんの家じゃ」
×××
「何日目ですか」
老ドルイド僧
「4日だ。よくぞ戻ってきた。死神が側をうろつくのを2度見たぞ」
×××
「あなたも無事でしたか」
老ドルイド僧
「わしもバン・シーの女に助けられたのじゃ。助けられたのはわしとお前さんだけじゃ。おかげで、こうして生き恥をさらしておる」
×××
「バン・シーはどこに?」
老ドルイド僧
「もう去った。今は眠れ。お前の傷は深い」
×××
「…………」
若者は言われるままに目を閉じた。
さらに3日ほど過ぎて、若者は体を起こすようになった。まだ全身の傷は生々しく残っている。しかし眠っているわけにはいかなかった。それに完全ではないものの、すでに体には活力が戻っていた。
族長の屋敷には、親族の者達が集まってきていた。若者は広間の椅子に座る。若者の前に、老ドルイド僧が杖に寄りかかるように立ち、呪文を唱えている。
やがて老ドルイド僧の呪文が終わった。
老ドルイド僧
「やはり、そなたの体内から名前が失われておる。どんなに深く探っても、名前が見付からない。魔物に奪われたのじゃ」
老ドルイド僧が、ふらりと崩れるように椅子に座る。足を負傷しているのだ。
×××
「取り返すことはできますか」
老ドルイド僧
「一度奪われた名前は永久に取り戻せん。名前を奪った魔物を倒しても、その名前はすでにお前のものじゃない。それにあの魔物は強力じゃ。名前のないお前が同じように戦いを臨んでも、無様に破れるだけじゃ。……お前は、まだ自分の名前を覚えておるか?」
×××
「……おぼろげながら」
老ドルイド僧
「そうじゃろう。だが“もはや自分のものではない”という感じじゃ。そのうち忘れてしまうじゃろう。間もなくこの村の者達も、お前を忘れてしまうじゃろう。お前自身も自分が何者かわからなくなり、やがて流浪の者となって人里を離れ、幽鬼と成り果てるのじゃ。大パンテオンを目指すがよい。そこで新しい名前を授かるのじゃ」
×××
「村を守る使命は、道半ばでした。こんなところで終わるなんて……」
老ドルイド僧
「お前が支払った苦労は無駄じゃない。村に大きな礎を残した。後を継ぐ者がおるじゃろう。わしはお前の共として従いていってやりたいが、この脚じゃ。ここから動けぬ」
×××
「○○○、おりますか」
ミルディの従兄弟
「ここにおります」
×××
「私はすでにこの村の者ではありません。旅立ちます。長の役目はあなたが引き継いでください」
ミルディの従兄弟
「旅立ちはいつ?」
×××
「明日。明日の朝、この村を去ります」
ミルディの従兄弟
「どうかご無事で。かつてと同じ者として戻ってくるのを待っております」
次回を読む
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