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■2009/04/12 (Sun)
シリーズアニメ■
桜も満開の春。
明日、私立洛芦和高校の入学式だというのに、夏目智春は引越しの荷解きをしていた。
母親が再婚したのを切っ掛けに、実家を追い出されたのだ。そんなわけで、今日から鳴桜邸と呼ばれる屋敷で一人暮らしだった。
でも荷物は一杯だし、手伝いに来たはずの友人の樋口琢磨はちっとも協力的じゃない。古ぼけた屋敷に夢中になって、「幽霊が出るかも!」と探検して回っていた。
「可愛い幽霊だったら、もうここにいるのにね」
ふと、頭上から少女が声を掛けた。
智春が見上げると、桜が散る空に、少女が一人浮かんでいた。体の色が薄く、向うの背景が透けている。
この少女は水無神操緒。智春に取り憑いている、一応、幽霊だった。
ふと、屋敷の中で気配がした。樋口が何かやらかしたのだろうか。
一階の応接間へいくと、暖炉の前に見覚えのないトランクが一つ置かれていた。
「智、こんな高そうなの、持っていた?」
操緒がトランクを覗き込んで、首を傾げた。
「それはあなた達のものよ。君、直貴さんの弟君ね」
えっと振り向くと、応接間に設置されていたソファにくつろいでる女がいた。
夏目直貴。智春の兄で、今、アフリカに留学中の兄だった。
「いえ。あの、兄貴の?」
知り合いだろうな。智春はおずおずと女に尋ねた。
女は黒い短く髪を切りそろえ、赤いフレームの眼鏡をかけている。年齢不詳な感じだが、とにかく大人の女性に思えた。
「直貴さんから頼まれたの。確かに渡したわ。それ、間違いなく、あなた“たち”のものだから。絶対、手放しては駄目よ」
女はそれだけ言い残すと、颯爽と屋敷から出て行った。
結局、引越しの荷解きは終わらないまま、日が暮れてしまった。
智春は、昼間の女を気にしながら、ベッドに横たわる。目を開けると、すぐ側を操緒がふわふわと浮かんでいた。
操緒は薄い寝間着を一つ羽織っただけの姿で、ゆったりと寝息を立てていた。
ふと智春は顔が熱くなって、目を逸らした。
そんな時だ。沈黙を破るように、何かが破裂する音が聞こえた。
泥棒か。智春ははっとベッドから飛び起き、一階へと降りていった。客間に飛び込むと、窓が割れているのが見えた。だが、派手に打ち破られたのではなかった。窓はきれいな円の形に削り取られていた。
なんだろう、これ。
思わず見入っているところに、気配が迫った。智春は首をぐっと掴まれ、壁に押し付けられた。
「アスラ・マキーナはどこ?」
少女だった。巫女装束のような衣装を身にまとった少女だった。
「イクストラクタを渡してください。あれは、危険な存在です!」
少女は強いまなざしで、智春を睨みつけた。智春は首を絞められて答えられず、少女の顔を見詰めかえした。少女は右と左の目の色が違っていた。
そこに、操緒が天井から姿を現して、駆けつけてきた。
操緒の姿に、巫女服の少女ははっと振り向く。
「射影体!」
少女は操緒の姿の驚愕して、その場から逃げ去っていく。
夜も明け、いよいよ高校の入学式だ。
学校に行くと、なぜか幽霊の操緒は私立洛芦和高校を身にまとっていた。
「その制服どこからもって来たの?」
「内緒。可愛いよね。ここの制服。いつも同じ服より、オシャレな幽霊のほうがいいでしょ」
操緒は得意げに微笑んで、空中でくるっと回ってみせた。
まあ、それもそうか。智春は深く考えずに、納得することにした。
間もなく、女好きの樋口琢磨の情報網で、昨日の二人の女の正体が明らかになった。
黒い髪の女は、同じ高校の2年生。名前は黒崎朱浬。科学部部長代理を務めていてる。
もう一人の巫女服の少女は、なんと同じクラスの嵩月奏。
夏目智春の周囲に、不穏な影が漂い満ち始める。
非日常の物語は、すでに始まっていた。
『アスラクライン』の物語は、現実世界を舞台としているが、完全なファンタジーである。
主人公の夏目智春は、親やその周辺社会から隔絶された屋敷に暮らし、現実世界との接点を持っていない。
夏目智春にとっての日常は、高校での生活ということになるが、この学園生活という空間自体が、完全なる異空間である。
特殊なデザインの制服に、すべての登場人物はこの高校の在校生徒だ。
つまり、物語がこの高校の周辺から飛躍する展開はなく、すべてが高校生活の内部に集約され、完結するように作られているのだ。
夏目智春の在籍は「1年7組」である。この少子化の時代に、どうして「7組」なんて設定にしてしまったのだろう。現代の時代の流れを読み違えたのだろうか。
もっとも、閉鎖された高校ですべてが集約されるファンタジー・アニメは、日本のアニメにおいては定番のジャンルである。
キャラクターや設定は独創的に練りこまれているように見えるが、アニメのジャンルにおいては平凡だ。
人物の設定、配置方法、学園風景……何もかもが、既視感で満たされている。
『アスラクライン』独自による、飛躍やイマジナリィはどこにも発見できない。
前時代的というべき設定や作法を、インデックスにして列挙したような作品である。
「個性がない」とは言わず、古典に倣ったアニメと見るべきかもしれない。
作品データ
監督:草川啓造 原作:三雲岳斗 脚本:小出克彦
キャラクター原案:和狸ナオ キャラクターデザイン:小森篤
メカデザイン:福島秀機 メカ総作監:小田裕康
美術監督:海津利子 美術設定:青木薫 色彩設計:甲斐けいこ
撮影監督:北岡正 音楽:田尻光隆
アニメーション制作:セブン・アークス
出演:入野自由 戸松遥 野中藍 田中理恵
下野紘 豊崎愛生 森久保祥太郎 こやまきみこ
高橋研二 日笠陽子
明日、私立洛芦和高校の入学式だというのに、夏目智春は引越しの荷解きをしていた。
母親が再婚したのを切っ掛けに、実家を追い出されたのだ。そんなわけで、今日から鳴桜邸と呼ばれる屋敷で一人暮らしだった。
でも荷物は一杯だし、手伝いに来たはずの友人の樋口琢磨はちっとも協力的じゃない。古ぼけた屋敷に夢中になって、「幽霊が出るかも!」と探検して回っていた。
「可愛い幽霊だったら、もうここにいるのにね」
ふと、頭上から少女が声を掛けた。
智春が見上げると、桜が散る空に、少女が一人浮かんでいた。体の色が薄く、向うの背景が透けている。
この少女は水無神操緒。智春に取り憑いている、一応、幽霊だった。
ふと、屋敷の中で気配がした。樋口が何かやらかしたのだろうか。
一階の応接間へいくと、暖炉の前に見覚えのないトランクが一つ置かれていた。
「智、こんな高そうなの、持っていた?」
操緒がトランクを覗き込んで、首を傾げた。
「それはあなた達のものよ。君、直貴さんの弟君ね」
えっと振り向くと、応接間に設置されていたソファにくつろいでる女がいた。
夏目直貴。智春の兄で、今、アフリカに留学中の兄だった。
「いえ。あの、兄貴の?」
知り合いだろうな。智春はおずおずと女に尋ねた。
女は黒い短く髪を切りそろえ、赤いフレームの眼鏡をかけている。年齢不詳な感じだが、とにかく大人の女性に思えた。
「直貴さんから頼まれたの。確かに渡したわ。それ、間違いなく、あなた“たち”のものだから。絶対、手放しては駄目よ」
女はそれだけ言い残すと、颯爽と屋敷から出て行った。
結局、引越しの荷解きは終わらないまま、日が暮れてしまった。
智春は、昼間の女を気にしながら、ベッドに横たわる。目を開けると、すぐ側を操緒がふわふわと浮かんでいた。
操緒は薄い寝間着を一つ羽織っただけの姿で、ゆったりと寝息を立てていた。
ふと智春は顔が熱くなって、目を逸らした。
そんな時だ。沈黙を破るように、何かが破裂する音が聞こえた。
泥棒か。智春ははっとベッドから飛び起き、一階へと降りていった。客間に飛び込むと、窓が割れているのが見えた。だが、派手に打ち破られたのではなかった。窓はきれいな円の形に削り取られていた。
なんだろう、これ。
思わず見入っているところに、気配が迫った。智春は首をぐっと掴まれ、壁に押し付けられた。
「アスラ・マキーナはどこ?」
少女だった。巫女装束のような衣装を身にまとった少女だった。
「イクストラクタを渡してください。あれは、危険な存在です!」
少女は強いまなざしで、智春を睨みつけた。智春は首を絞められて答えられず、少女の顔を見詰めかえした。少女は右と左の目の色が違っていた。
そこに、操緒が天井から姿を現して、駆けつけてきた。
操緒の姿に、巫女服の少女ははっと振り向く。
「射影体!」
少女は操緒の姿の驚愕して、その場から逃げ去っていく。
夜も明け、いよいよ高校の入学式だ。
学校に行くと、なぜか幽霊の操緒は私立洛芦和高校を身にまとっていた。
「その制服どこからもって来たの?」
「内緒。可愛いよね。ここの制服。いつも同じ服より、オシャレな幽霊のほうがいいでしょ」
操緒は得意げに微笑んで、空中でくるっと回ってみせた。
まあ、それもそうか。智春は深く考えずに、納得することにした。
間もなく、女好きの樋口琢磨の情報網で、昨日の二人の女の正体が明らかになった。
黒い髪の女は、同じ高校の2年生。名前は黒崎朱浬。科学部部長代理を務めていてる。
もう一人の巫女服の少女は、なんと同じクラスの嵩月奏。
夏目智春の周囲に、不穏な影が漂い満ち始める。
非日常の物語は、すでに始まっていた。
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『アスラクライン』の物語は、現実世界を舞台としているが、完全なファンタジーである。
主人公の夏目智春は、親やその周辺社会から隔絶された屋敷に暮らし、現実世界との接点を持っていない。
夏目智春にとっての日常は、高校での生活ということになるが、この学園生活という空間自体が、完全なる異空間である。
特殊なデザインの制服に、すべての登場人物はこの高校の在校生徒だ。
つまり、物語がこの高校の周辺から飛躍する展開はなく、すべてが高校生活の内部に集約され、完結するように作られているのだ。
夏目智春の在籍は「1年7組」である。この少子化の時代に、どうして「7組」なんて設定にしてしまったのだろう。現代の時代の流れを読み違えたのだろうか。
もっとも、閉鎖された高校ですべてが集約されるファンタジー・アニメは、日本のアニメにおいては定番のジャンルである。
キャラクターや設定は独創的に練りこまれているように見えるが、アニメのジャンルにおいては平凡だ。
人物の設定、配置方法、学園風景……何もかもが、既視感で満たされている。
『アスラクライン』独自による、飛躍やイマジナリィはどこにも発見できない。
前時代的というべき設定や作法を、インデックスにして列挙したような作品である。
「個性がない」とは言わず、古典に倣ったアニメと見るべきかもしれない。
作品データ
監督:草川啓造 原作:三雲岳斗 脚本:小出克彦
キャラクター原案:和狸ナオ キャラクターデザイン:小森篤
メカデザイン:福島秀機 メカ総作監:小田裕康
美術監督:海津利子 美術設定:青木薫 色彩設計:甲斐けいこ
撮影監督:北岡正 音楽:田尻光隆
アニメーション制作:セブン・アークス
出演:入野自由 戸松遥 野中藍 田中理恵
下野紘 豊崎愛生 森久保祥太郎 こやまきみこ
高橋研二 日笠陽子
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