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■2009/09/12 (Sat)
創作小説■
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判】
11
ここには太陽の光も気温の変化もなかった。だからどれだけ時間が経過したのかもわからなかった。ただ、とにかく長い時間、私たちは小さな部屋の中にいた。
「私たち、どうなったの?」
私は色んなものを紛らすつもりで可符香に話しかけた。小波のように繰り返し迫ってくる退屈と不安。少しでも癒せるものが欲しかった。
「きっと地底人の王国に迷いこんだんだよ」
可符香は頭蓋骨の顎をカチカチ鳴らしながら、明るい声で言った。
「今はそういうのやめて! そういう気分じゃないの!」
私は衝動的に怒鳴ってしまった。それから反省するように、「ごめんなさい」と声を沈ませた。
「いいんだよ。健太郎君も気にしないって言ってるから」
可符香が頭蓋骨に微笑みかけた。その顔に僅かな疲労があるが、いつもの暖かな微笑だった。
私は溜め息をついて、うつむいた。どれだけの時間が過ぎたのだろう、とまた考えていた。空腹は限界を通り越して、ただの疲労としか感じられなかった。
私たちはここから出られるだろうか。それを思うと、狂いそうな不安が私を掴むような気がした。
ふと顔を上げた。可符香は頭蓋骨と向き合って、会話しているように微笑みかけていた。
「可符香ちゃん。どうしてそれが健太郎君なの? どうしてここが地下だってわかるの?」
ようやく私は疑問に気付いて、可符香に訊ねてみた。
しかし、可符香から返事は返ってこなかった。
私は少し体を前に乗り出させて、可符香の表情を覗き込むようにした。
「可符香ちゃん、もしかして、この屋敷を知っているの? あの男爵って男のことも、知っているんじゃないの?」
私はもう一度、追及するように可符香に話しかけた。
可符香は急に表情を殺して、視線を落とした。
「わからない。思い出せないの。ずっと記憶の深いところで、何かが眠っているのをいつも感じている。だけど思い出せないの。これは健太郎君。なぜなら健太郎君だって知っているから。でも、どうして知っているのかその理由が思い出せないの」
いつもポジティブな可符香とは思えない、沈んだ言葉だった。
私は地面に両手をついて、さらに可符香に顔を近づけた。
「ねえ、思い出して。やっぱり10年前、私たち出会っているよね? 同じ幼稚園で、一緒に遊んだよね。ねえ、可符香ちゃん。あのとき可符香ちゃんは、どうしていなくなっちゃったの? ねえ」
私は可符香の記憶を刺激させるつもりで、話しかけた。
可符香は、もどかしそうに首を振った。
「やめて! やめて。……思い出したくないの。恐いから」
可符香は手から頭蓋骨を落とし、膝に顔をうずめた。私を避けるように、体を背けていた。
「ごめんね、可符香ちゃん」
私は申し訳ない気がして、謝って体を元に戻した。
可符香から返事はなかった。興奮しているらしく、はあはあとゆっくり肩を上下させていた。
私は可符香から目を逸らすように、鉄扉を振り向いた。そんな姿の可符香を見るのは初めてだったし、見たいとは思わなかった。
天井の裸電球が、ちりちりと点滅し始めた。あっと私は顔を上げた。裸電球は赤く焦げるような残像を浮べ、消えてしまった。
小さな部屋が真っ黒な闇に閉ざされた。だからといって際立つものもなかった。そこには風の音もなく、部屋の外を歩く気配すらなかった。完全な静寂だった。
そんな時だ。鉄扉の向うに気配が現れた。ひたひたと裸足が床を歩き進む音だった。
私は顔を上げて、気配の動きを探った。風の音もしない沈黙の中、気配は音量を間違えたようにくっきりと浮かび上がる。裸の足音は、間違いなくこちらに向かって進んでいた。
間もなくして、足音は鉄扉の前で停止した。
次に、ガチンッと錠が外れる音がした。続くように、鉄扉がほんの少しだけ、きぃと開いた。外の重たい空気が密かに流れてくるのを感じた。
私は可符香を振り返った。僅かに差し込んだ光に、可符香の姿がうっすらと浮かび上がっていた。可符香の瞳に浮んだ涙が、きらりと光を宿していた。
「可符香ちゃん、行ってみようよ。きっと妖精さんだから」
私は無理にでも微笑んで、いつもの可符香の口ぶりを真似てみた。
私は立ち上がり、鉄扉の前に進んだ。鉄扉は重く、しかも少し錆びていた。私は体重を使って、鉄扉をゆっくりと引いた。
すると部屋の外に、誰かがいた。薄い闇のトーンが折り重なるそこに、セーラー服姿の可符香が立っていた。色彩のないモノトーンの闇なのに、その瞳だけがくっきりと赤色に輝いていた。
私は茫然とセーラー服姿の可符香を見ていた。部屋の奥を振り返る。そこにもやはり可符香はいた。
いったい何が起きているのかわからなかった。思考も働かなかった。
セーラー服姿の可符香が部屋に入ってきて、私の胸を乱暴に突き飛ばした。私は自分を支えられず尻を突いた。
セーラー服姿の可符香は、私をまたいで真直ぐもう一人の可符香の前まで進んだ。可符香は立ち上がるけど、壁を背にしたまま逃げ出さなかった。
可符香の表情が恐怖に引き攣っていた。自分と同じ顔をした可符香を避けようと身を捩じらせるけど、膝ががたがたと震えて動き出せないみたいだった。
セーラー服姿の可符香が、可符香をそっと抱きしめるように体を重ねた。そうして、可符香の左の肩に顔を寄せて、何かを囁いた。
瞬間、可符香がはっとしたように全身を引き攣らせた。その目から人格が消えて、信じられないことに、真っ赤に輝き始めた。それを最後に、可符香は意識を失ってセーラー服姿の可符香に体を預けた。
私は、食堂で聞いた男爵の話を思い出していた。そう、セーラー服姿の可符香は、可符香の本当の名前を告げたのだ、と思った。
次回 P054 第5章 ドラコニアの屋敷12 を読む
小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
P053 第5章 ドラコニアの屋敷
11
ここには太陽の光も気温の変化もなかった。だからどれだけ時間が経過したのかもわからなかった。ただ、とにかく長い時間、私たちは小さな部屋の中にいた。
「私たち、どうなったの?」
私は色んなものを紛らすつもりで可符香に話しかけた。小波のように繰り返し迫ってくる退屈と不安。少しでも癒せるものが欲しかった。
「きっと地底人の王国に迷いこんだんだよ」
可符香は頭蓋骨の顎をカチカチ鳴らしながら、明るい声で言った。
「今はそういうのやめて! そういう気分じゃないの!」
私は衝動的に怒鳴ってしまった。それから反省するように、「ごめんなさい」と声を沈ませた。
「いいんだよ。健太郎君も気にしないって言ってるから」
可符香が頭蓋骨に微笑みかけた。その顔に僅かな疲労があるが、いつもの暖かな微笑だった。
私は溜め息をついて、うつむいた。どれだけの時間が過ぎたのだろう、とまた考えていた。空腹は限界を通り越して、ただの疲労としか感じられなかった。
私たちはここから出られるだろうか。それを思うと、狂いそうな不安が私を掴むような気がした。
ふと顔を上げた。可符香は頭蓋骨と向き合って、会話しているように微笑みかけていた。
「可符香ちゃん。どうしてそれが健太郎君なの? どうしてここが地下だってわかるの?」
ようやく私は疑問に気付いて、可符香に訊ねてみた。
しかし、可符香から返事は返ってこなかった。
私は少し体を前に乗り出させて、可符香の表情を覗き込むようにした。
「可符香ちゃん、もしかして、この屋敷を知っているの? あの男爵って男のことも、知っているんじゃないの?」
私はもう一度、追及するように可符香に話しかけた。
可符香は急に表情を殺して、視線を落とした。
「わからない。思い出せないの。ずっと記憶の深いところで、何かが眠っているのをいつも感じている。だけど思い出せないの。これは健太郎君。なぜなら健太郎君だって知っているから。でも、どうして知っているのかその理由が思い出せないの」
いつもポジティブな可符香とは思えない、沈んだ言葉だった。
私は地面に両手をついて、さらに可符香に顔を近づけた。
「ねえ、思い出して。やっぱり10年前、私たち出会っているよね? 同じ幼稚園で、一緒に遊んだよね。ねえ、可符香ちゃん。あのとき可符香ちゃんは、どうしていなくなっちゃったの? ねえ」
私は可符香の記憶を刺激させるつもりで、話しかけた。
可符香は、もどかしそうに首を振った。
「やめて! やめて。……思い出したくないの。恐いから」
可符香は手から頭蓋骨を落とし、膝に顔をうずめた。私を避けるように、体を背けていた。
「ごめんね、可符香ちゃん」
私は申し訳ない気がして、謝って体を元に戻した。
可符香から返事はなかった。興奮しているらしく、はあはあとゆっくり肩を上下させていた。
私は可符香から目を逸らすように、鉄扉を振り向いた。そんな姿の可符香を見るのは初めてだったし、見たいとは思わなかった。
天井の裸電球が、ちりちりと点滅し始めた。あっと私は顔を上げた。裸電球は赤く焦げるような残像を浮べ、消えてしまった。
小さな部屋が真っ黒な闇に閉ざされた。だからといって際立つものもなかった。そこには風の音もなく、部屋の外を歩く気配すらなかった。完全な静寂だった。
そんな時だ。鉄扉の向うに気配が現れた。ひたひたと裸足が床を歩き進む音だった。
私は顔を上げて、気配の動きを探った。風の音もしない沈黙の中、気配は音量を間違えたようにくっきりと浮かび上がる。裸の足音は、間違いなくこちらに向かって進んでいた。
間もなくして、足音は鉄扉の前で停止した。
次に、ガチンッと錠が外れる音がした。続くように、鉄扉がほんの少しだけ、きぃと開いた。外の重たい空気が密かに流れてくるのを感じた。
私は可符香を振り返った。僅かに差し込んだ光に、可符香の姿がうっすらと浮かび上がっていた。可符香の瞳に浮んだ涙が、きらりと光を宿していた。
「可符香ちゃん、行ってみようよ。きっと妖精さんだから」
私は無理にでも微笑んで、いつもの可符香の口ぶりを真似てみた。
私は立ち上がり、鉄扉の前に進んだ。鉄扉は重く、しかも少し錆びていた。私は体重を使って、鉄扉をゆっくりと引いた。
すると部屋の外に、誰かがいた。薄い闇のトーンが折り重なるそこに、セーラー服姿の可符香が立っていた。色彩のないモノトーンの闇なのに、その瞳だけがくっきりと赤色に輝いていた。
私は茫然とセーラー服姿の可符香を見ていた。部屋の奥を振り返る。そこにもやはり可符香はいた。
いったい何が起きているのかわからなかった。思考も働かなかった。
セーラー服姿の可符香が部屋に入ってきて、私の胸を乱暴に突き飛ばした。私は自分を支えられず尻を突いた。
セーラー服姿の可符香は、私をまたいで真直ぐもう一人の可符香の前まで進んだ。可符香は立ち上がるけど、壁を背にしたまま逃げ出さなかった。
可符香の表情が恐怖に引き攣っていた。自分と同じ顔をした可符香を避けようと身を捩じらせるけど、膝ががたがたと震えて動き出せないみたいだった。
セーラー服姿の可符香が、可符香をそっと抱きしめるように体を重ねた。そうして、可符香の左の肩に顔を寄せて、何かを囁いた。
瞬間、可符香がはっとしたように全身を引き攣らせた。その目から人格が消えて、信じられないことに、真っ赤に輝き始めた。それを最後に、可符香は意識を失ってセーラー服姿の可符香に体を預けた。
私は、食堂で聞いた男爵の話を思い出していた。そう、セーラー服姿の可符香は、可符香の本当の名前を告げたのだ、と思った。
次回 P054 第5章 ドラコニアの屋敷12 を読む
小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
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