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■2009/09/05 (Sat)
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判

P045 第5章 ドラコニアの屋敷


藤吉がやっと見つけてくれた携帯電話で、警察に通報した。警察の車は、すぐに糸色先生家の前にやってきた。最初は覆面車のセダンだけだったけど、後から鑑識のワゴン車や白黒パトカーが次々とやってきた。
糸色先生の小さな借家は、警察の人たちで一杯になってしまった。私たちは邪魔にならないように庭に出て、土の上に座り込んだ。
青空がゆっくりと暗い影を落としつつある。夏の長い一日は終わり、太陽が沈みかけていた。ただ一つ開けたままになっている雨戸から、借家の明かりが庭に落ちていた。廊下や居間で、鑑識の青い制服の人たちが仕事をしている。カメラのストロボが、何度も暗くなりかける庭に飛び込んできた。
ここからは見えないけど、垣根の向こう側でざわざわと声がし始めた。騒ぎを聞きつけた野次馬が集ってきたのだろう。
私は土の上に座り込んで、膝を抱えてうなだれていた。ほかのみんなも、同じようにしていた。声をかけたり、目を合わせたりしようという人もいない。
「死体の状況は?」
刑事らしい男の声がした。私は顔を上げた。腕に、『機動捜査隊』の腕章をつけた、初老の男の横顔が見えた。ごく普通のスーツ姿で、腕章がなければ平凡なサラリーマンに見えた。
「死体は漂白剤で洗浄されています。死亡直後から低温で保存されていたらしく、体温は気温より低いです。今の段階では、死亡時刻の特定は困難です。蛆虫の付着もありません」
現場指揮らしい鑑識が事務的に報告した。
「コレクションは大事にするタイプだな。損傷は?」
刑事の男はメモを取りながら、次の質問をした。
「いずれも頭部への打撲です。皮下出血の跡がありました。最小限の手数です」
鑑識はさっきと同じ調子で説明した。
「手際がいいな。この家の中で血痕や争った跡は?」
刑事の男は厳しい目で鑑識をちらと見た。
「現在予備試験中です。肉眼及び紫外線撮影で発見されなかったので、ルミノール科学発光検査を行っています。家自体新しいので、異変があればすぐに発見できるはずですが……」
鑑識は説明しながら、作業を続ける部下たちに目を向けた。私には、専門用語だらけで何を言っているのか皆目わからなかった。
「よし、現場写真の撮影が終れば死体は行政解剖に回せ。あとは第1課の仕事だ」
刑事の男が指示を出して、そこを離れようとした。
「警部補、こんなものが発見されました」
若い刑事が、さっきの男を警部補と呼んで引き止めた。
私はうつむいて、足元の土を見つめた。起伏の浅い土が、くっきりとした白と黒に分かれていた。
私は、少し落ち着いた気持ちで、部屋のなかで見たものを思い出した。襖を開けたところに、死体が4体、こちらに足を向けて寝かせてあった。綺麗に等間隔に並べて置かれていた。
死体はどれも裸だった。全身が刻まれ、さらにそれを縫い合わせた跡があった。黒く太い糸が使用されていて、縫い目に皺が集っていた。
死体のうちの3体は少年で、残りの1体は少女だった。どの死体にも性器がなかった。新井智恵先生が言ったように、性器蒐集の趣味を持った人による犯罪らしかった。
そして、死体のうちの一体は、間違いなく野沢だった。顔面が斜めに引き裂かれ、それを糸で縫って形を整えていた。野沢の端整だった顔は、醜く崩れて歪んでいた。
野沢の死体を思い出して、私は急に胸が苦しくなった。肺に不浄が入り込んだように、息が苦しくなって、胸を押さえた。
借家のほうで、動きがあったらしい。私はもう一度顔を上げて振り返った。死体がビニールシートに入れて運び出されるところだった。借家の玄関口に、ワゴン車がハッチを開けてぴったりくっつけてあった。どのビニールシートが野沢の死体かわからなかった。
私はそれを眺めながら、感情が噴きあがってくるのを感じた。目から涙がこぼれる。泣き声を押し殺そうと、私は膝に顔をうずめた。後ろでうずくまっていた可符香が、私の背中を撫でてくれた。

次回 P046 第5章 ドラコニアの屋敷 4 を読む

小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次




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