■ 最新記事
(08/15)
(08/14)
(08/13)
(08/12)
(08/11)
(08/10)
(08/09)
(08/08)
(08/07)
(08/06)
■ カテゴリー
お探し記事は【記事一覧 索引】が便利です。
■2009/08/15 (Sat)
創作小説■
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判】
10
「なんじゃ、騒々しい」
凛とした少女の声に、私たちは振り返った。
振り向いたそこに、細い枯山水が置かれ、それをまたぐように反り橋があった。その反り橋の一番高くなったところに、少女が立って私たちを見ていた。
美しい少女だった。肌は白く、目の大きな容姿は完璧に整って和人形のようだった。黒く長い髪はゆるやかに波打って、右の肩に少しかかっていた。格好は赤地に菊の絵羽模様を描いた振袖姿だった。素人の目でも、高級な品とわかる振袖だった。
少女には、まるで大奥の時代からそのまま飛び越えてきたような、そんな風格があった。美しく品のある顔立ちに和服姿がよく似合っていたし、なにより庭園の風景と見事に調和していた。
すでに日が暮れかけて、少女は夕日の光を背にしていた。美しい顔に淡い影を落としていた。だけど背後から差し込む光が、後光のように少女の黒髪を輝かせていて、むしろ神々しさを与えているように思えた。
「お嬢様、下がっていてください。危険でございます」
少女の背後から、ボディーガードらしい体格のいい黒服の男達がぞろぞろと現われる。
「よい。なんじゃお前ら。どこから迷い込んだ」
少女の言葉は高圧的だったけど、それに相反させる心地よい響きがあった。
「な、何よ。私たちは客人として招かれたのよ。それに、先にそちらから名乗るのが礼儀でしょ。」
千里は気に入らないらしく、一歩前に進み出て少女を怒鳴った。
「千里ちゃん、やめて」
私はすぐに千里の前に出て宥めようとする。
「望お兄様の客人か?」
少女は私たちを推し量るように僅かに目を細めた。
「はい、そうです。私たち、糸色 望先生に招かれてここにやってきたんです。お兄様ってことは……」
私は千里の代わりに説明した。それから、ようやくこの屋敷に入った時の時田の説明を思い出した。糸色 望には妹がいる、と。
「やはりそうか。私は望お兄様の妹、倫じゃ」
糸色 倫は厳かに宣言するように名乗った。気のせいなのか、倫の眼差しに、軽蔑するような冷たさが混じるように思えた。
私の心に、複雑な思いが交差した。倫の美しさと傑出した経歴に、素直な尊敬を感じた。一方で、何もかもを見下すような倫の態度や視線が、私にささやかな嫌悪感を呼び起こしていた。
それから、糸色 倫の名前を改めて聞いた瞬間、私は頭の中でくっつけて考えていた。私はそれを口にしてしまいそうになって、ぐっと喉の奥に押し留めた。
でも、
「絶倫ちゃん!」
可符香が大きな声をあげて倫を指さした。私は、「ええ!」と可符香を振り返った。
倫の和人形のような美しい顔に、暗い影が落ちた。
「刀を持て!」
倫は怒りに歪んだ声でボディーガードに命じる。だが、ボディーガードが倫を宥めようと頭を下げた。
「殿中でございます」
「構わん! あの失礼な女をたた切ってやる!」
倫は激しく怒りに燃え上がらせてボディーガードを怒鳴った。
私は、やばいかも、と2歩下がった。でも可符香は危険を感じた様子もなく、朗らかな笑顔を浮かべていた。
「お嬢様、失礼します」
ついにボディーガードが倫を掴み、肩に担ぎ上げてしまった。
「放せ! 放せ! あの無礼者を一刀両断にしてくれるわ!」
倫はボディーガードの広い肩の上でじたばたともがいた。ボディーガードたちは倫の命令を聞かず、反り橋の向こう側に走り去ってしまった。
危機が去って、私はふっと胸を撫でた。ちょっとだけ、すっとするような思いもあった。
「そろそろ部屋に戻ろうか」
私はみんなを振り返って提案した。
「そうね。」
千里が同意して頷いた。一緒にやってきた可符香やまといも頷いた。
そうして引き返そうとすると、竹林の入口であびると合流した。
「あれ? あびるちゃん、それ?」
あびるは胸に猫のようなものを抱いていた。でも、猫というには体は大きいし、眼光は鋭く、それに見たことのない豹柄模様だった。
「ベンガルヤマネコよ。ここ、いいところだわ」
あびるはいつもクールな顔をにこやかに崩して、ヤマネコの体を撫でていた。
ヤマネコは不機嫌そうに目を細めて、あびるが撫でるのを許していた。けど、尻尾を撫で始めた途端、ヤマネコは急に体を反転させ、あびるの指を引っ掻いて逃げ出してしまった。ヤマネコは素早く竹林の陰に消えていく。
ヤマネコのえぐった傷はかなり深く、あびるの指から血が垂れ始めていた。だけどあびるは晴れやかな笑顔で、ヤマネコが消えた陰に手を振っていた。
なんだか、クールだと思っていたあびるの、意外な一面を見るようだった。
P025 次回 第4章 見合う前に跳べ1 を読む
小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
P024 第3章 義姉さん僕は貴族です
10
「なんじゃ、騒々しい」
凛とした少女の声に、私たちは振り返った。
振り向いたそこに、細い枯山水が置かれ、それをまたぐように反り橋があった。その反り橋の一番高くなったところに、少女が立って私たちを見ていた。
美しい少女だった。肌は白く、目の大きな容姿は完璧に整って和人形のようだった。黒く長い髪はゆるやかに波打って、右の肩に少しかかっていた。格好は赤地に菊の絵羽模様を描いた振袖姿だった。素人の目でも、高級な品とわかる振袖だった。
少女には、まるで大奥の時代からそのまま飛び越えてきたような、そんな風格があった。美しく品のある顔立ちに和服姿がよく似合っていたし、なにより庭園の風景と見事に調和していた。
すでに日が暮れかけて、少女は夕日の光を背にしていた。美しい顔に淡い影を落としていた。だけど背後から差し込む光が、後光のように少女の黒髪を輝かせていて、むしろ神々しさを与えているように思えた。
「お嬢様、下がっていてください。危険でございます」
少女の背後から、ボディーガードらしい体格のいい黒服の男達がぞろぞろと現われる。
「よい。なんじゃお前ら。どこから迷い込んだ」
少女の言葉は高圧的だったけど、それに相反させる心地よい響きがあった。
「な、何よ。私たちは客人として招かれたのよ。それに、先にそちらから名乗るのが礼儀でしょ。」
千里は気に入らないらしく、一歩前に進み出て少女を怒鳴った。
「千里ちゃん、やめて」
私はすぐに千里の前に出て宥めようとする。
「望お兄様の客人か?」
少女は私たちを推し量るように僅かに目を細めた。
「はい、そうです。私たち、糸色 望先生に招かれてここにやってきたんです。お兄様ってことは……」
私は千里の代わりに説明した。それから、ようやくこの屋敷に入った時の時田の説明を思い出した。糸色 望には妹がいる、と。
「やはりそうか。私は望お兄様の妹、倫じゃ」
糸色 倫は厳かに宣言するように名乗った。気のせいなのか、倫の眼差しに、軽蔑するような冷たさが混じるように思えた。
私の心に、複雑な思いが交差した。倫の美しさと傑出した経歴に、素直な尊敬を感じた。一方で、何もかもを見下すような倫の態度や視線が、私にささやかな嫌悪感を呼び起こしていた。
それから、糸色 倫の名前を改めて聞いた瞬間、私は頭の中でくっつけて考えていた。私はそれを口にしてしまいそうになって、ぐっと喉の奥に押し留めた。
でも、
「絶倫ちゃん!」
可符香が大きな声をあげて倫を指さした。私は、「ええ!」と可符香を振り返った。
倫の和人形のような美しい顔に、暗い影が落ちた。
「刀を持て!」
倫は怒りに歪んだ声でボディーガードに命じる。だが、ボディーガードが倫を宥めようと頭を下げた。
「殿中でございます」
「構わん! あの失礼な女をたた切ってやる!」
倫は激しく怒りに燃え上がらせてボディーガードを怒鳴った。
私は、やばいかも、と2歩下がった。でも可符香は危険を感じた様子もなく、朗らかな笑顔を浮かべていた。
「お嬢様、失礼します」
ついにボディーガードが倫を掴み、肩に担ぎ上げてしまった。
「放せ! 放せ! あの無礼者を一刀両断にしてくれるわ!」
倫はボディーガードの広い肩の上でじたばたともがいた。ボディーガードたちは倫の命令を聞かず、反り橋の向こう側に走り去ってしまった。
危機が去って、私はふっと胸を撫でた。ちょっとだけ、すっとするような思いもあった。
「そろそろ部屋に戻ろうか」
私はみんなを振り返って提案した。
「そうね。」
千里が同意して頷いた。一緒にやってきた可符香やまといも頷いた。
そうして引き返そうとすると、竹林の入口であびると合流した。
「あれ? あびるちゃん、それ?」
あびるは胸に猫のようなものを抱いていた。でも、猫というには体は大きいし、眼光は鋭く、それに見たことのない豹柄模様だった。
「ベンガルヤマネコよ。ここ、いいところだわ」
あびるはいつもクールな顔をにこやかに崩して、ヤマネコの体を撫でていた。
ヤマネコは不機嫌そうに目を細めて、あびるが撫でるのを許していた。けど、尻尾を撫で始めた途端、ヤマネコは急に体を反転させ、あびるの指を引っ掻いて逃げ出してしまった。ヤマネコは素早く竹林の陰に消えていく。
ヤマネコのえぐった傷はかなり深く、あびるの指から血が垂れ始めていた。だけどあびるは晴れやかな笑顔で、ヤマネコが消えた陰に手を振っていた。
なんだか、クールだと思っていたあびるの、意外な一面を見るようだった。
P025 次回 第4章 見合う前に跳べ1 を読む
小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
PR