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■2009/08/13 (Thu)
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判

P023 第3章 義姉さん僕は貴族です


私たちは草履を履いて庭に出た。芽留とカエレだけ、屋敷に残って板間で私たちを見送った。
庭は建物と平行するように竹林が遮っていて、ちょうどいい狭さに区切り取られていた。左右に別の場所へと繋がっていそうな、細い抜け道があった。盆栽を乗せた棚は二つに分けられ、シンメトリーの形になっていた。
その棚の中央を進んだところに、細い抜け道があった。竹林が二つに分けられ、飛び石がその向うへと続いていた。
私は探検する気分でその向うに入っていった。可符香や千里、マリア達が従いてきた。
竹林の向こう側は、細いトンネルみたいになっていた。竹林は鬱蒼としていて、辺りを薄暗い緑色に染めている。飛び石が続く細道に沿って、竹林にロープが張られていた。細道は緩くカーブを描いて、視界の広がりを遮っていた。
間もなく竹林のトンネルに出口が見えた。私はその向うは何だろう、と子供のように胸を弾ませて出口へと急いだ。
トンネルを抜けると、その向うに広大な風景が現れた。少し進んだところに大きな池が置かれ、丸い蓮の葉が一杯に詰まっていた。池には中島がいくつも配され、反り橋で繋がっていた。中島の一つに東屋が置かれていた。
飛び石が道のように四方に点々と伸びて、石灯篭がいくつも配置されていた。ずっと向うにある森林は鬱蒼とした感じではなく、階段状になって葉の形を一つ一つ見せているみたいだった。その森林に隠れるように、茶室があるのが見えた。
それは、途方もなく広い庭園だった。何もかも自然のままではなく、徹底的に手が加えられ、幾何学的と思える美しさがあった。
空はそろそろ赤く染まりかけて、暗い影が落ちつつある。そんな瞬間だからこそ、庭園の風景がくっきりした陰影に形を浮かび上がらせるように思えた。
「うわぁ、凄い……」
私はまたしても平凡な感想を漏らしていた。私には、その瞬間に感じた途方もない感情を、言葉にする詩人の才能はなかった。
「魚いるか?」
マリアが池の水際に走り寄った。
「危ないよ、マリアちゃん。……て、これ沼?」
私はマリアの追って池の側に気付き、ようやくそれが沼だと気付いた。黒く沈んだ水には、泥が濃厚に混じっていた。
「本当、沼だわ。庭園って自然の風景を再現するものだから、確かに沼もありかもしれないけど、これはいただけないわ。主の趣味を疑うわね。」
千里も沼の前まで近付いて、難しそうな顔をして腕組をした。さすが茶道部らしいコメントだった。
私はマリアと一緒にかがみ込んで、沼をじっと見詰めた。沼は、時々ぽこぽこと泡を浮かばせた。鯉はいなくとも、なにか生き物は住んでいるのかもしれない。
可符香も沼の前に歩き進んだ。顔を上げて振り向くと、可符香は何か考えるふうにしていた。
「沼……沼……。沼には、色んなものが沈められている。こんなものが!
  秘書が沈めた政治献金
  あのアイドルの実年齢
  元アイドルが覚醒剤発覚で逃亡していた期間の謎
  編集でカットされた首相発言の大事な部分
  有名画家の死後、アトリエから発見される恥ずかしい絵
  企画中断されたゲームの企画書
  ピンはねされたアニメの制作費の行方
  オリコン発表の本当の数字
  久米田康治の絶望先生以前の作品(絶版)」
「ないから。そんなの沈められていないから」
私は立ち上がって、妄想エンジンを暴走させる可符香を宥めようとした。
「そうよ。誰がどこに沈めた献金かまで、きっちり言いなさいよ!」
千里が本気で怒った顔で可符香に詰め寄ろうとした。
「千里ちゃんまで、きっちり乗らなくていいから」
私は可符香と千里の間に入って、二人を引き離そうとした。

次回 P024 義姉さん僕は貴族です10 を読む

小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次




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