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■2009/10/04 (Sun)
シリーズアニメ■
#1 電撃使い(エレクトロマスター)&作品解説
男は路地裏に逃げ込んだ。白井黒子はその後を追って、路地裏に飛び込んでいく。
「くそっ! ついてねえな。いったい何なんだ、あいつは……」
男は走りながらぼやいた。
白井は男を追って走り、その背中を目視範囲に収めた。
男が追跡者を確かめようと後ろを振り向く。白井はそのタイミングに合わせて、空間を跳躍した。
男の顔が一瞬はっとした。白井は男の前に出現した。男がもう一度驚愕を浮かべた。
白井は男の足を払い、地面に転がせた。すぐにその背中にのしかかり、腕を後ろに捻る。
「ジャッジメントです。通報にあった暴漢というのは、あなたですわね」
白井は慌てふためく男の姿を見て、にやりと笑った。手錠を引っ張り出し、男の腕を近くのパイプ管と繋ぐ。
標的は男一人だけではない。白井は残りの数人を探して走った。
「こちら白井黒子。犯人の一人を確保。初春、残りの野蛮人どもはどこですの?」
白井は走りながら情報を求めた。
「その路地の突き当りを左へ。5メートル先をさらに左です」
すぐに応答が返ってきた。おっとりしている声だけど、的確なナビゲーターだ。
白井は次の角を左へ曲がった。ナビゲーションどおり、確かに左へ折れる道があった。
白井はその向うに飛び出して、右袖につけた腕章の盾の紋章を見せた。
「ジャッジメントですの! 通報を受けてまいりました。どうぞ大人しくお縄を……て、これって?」
威勢のいい口上で決めようとしたが、すぐに異変に気付いた。
狭い路地に、男達がぼろぼろに力尽きて倒れていた。その体が軽く焦げて煙を噴き上げている。路地全体も、煤けたように黒い色を浮かべ、硫黄の臭いが全体を満たしていた。そんな陰惨な地獄絵図の中に、ただ一人、平然と立っている少女がいた。
「……ああ、黒子」
少女がはっと白井を振り返った。しかし白井だと気付いて、緊張を解いた。
「お姉さま!」
白井は茫然とした声をあげた。
御坂美琴――この学園都市にたった7人しかいない最強の能力者。常盤台中の超電磁砲(レールガン)と呼ばれる少女だった。
物語の前半は、独創的に練り上げた背景世界の説明に消費される。
その都市は、近代技術の力によって高度に発達した学園都市である。総人口は230万人、そのうち、8割が学生で占められている。
その学校では通常の授業に加えて、能力開発と呼ばれる特殊な授業がある。舞台となる学園都市に通う学生たちは、皆なんらかの特殊能力を持ち、定期的な身体検査(システムスキャン)によってその能力が推し量られる。能力によってランク付けもされおり、「無能力者(レベル0)」「低能力(レベル1)」「異能力(レベル2)」「強能力(レベル3)」「大能力(レベル4)」「超能力(レベル5)」の5つに分類される。
白井黒子はテレポーターでレベル4(大能力)
初春飾利はレベル1(低能力)だがどんな能力を持っているか不明。
佐天涙子は完全な無能力者。一般人である。
そして御坂美琴はレベル5のレールガンだ。
ちなみに学園都市には警察が存在せず、治安維持はジャッジメント(風紀委員)が独自に担当していた。白井黒子、初春飾利の二人は、ジャッジメントに所属する一員である。
アニメの後半に入り、物語は解説から本筋へと戻ってくる。学校を終えた白井黒子は、御坂美琴とともに喫茶店でくつろいでいた。
「私のファン?」
白井から話を聞いて、美琴はそれだけで重く溜め息を吐いた。
「ジャッジメント第177支部で、私のバックアップを担当してくれている子ですの。一度でいいからお姉さまにお会いしていた、ことあるごとに……」
白井はココアを啜りながら、美琴の様子を確かめた。美琴はうんざりしきった顔で、平坦なテーブルを見詰めていた。
「お姉さまが常日頃からファンの子からの無礼な振る舞いに閉口されているのは存じておりますわ。けれど、初春は分別をわきまえた、大人しい子。それに何より、私が認めた数少ない友人。ここは黒子に免じてひとつ。もちろん、お姉さまのストレスを最小限に抑えるべく、今日の予定は私がバッチリ……」
白井は長々と説明を続けて、学生鞄からメモ帳を引っ張り出した。
と御坂がメモ帳を奪い取った。白井があっと取り戻そうとするが、御坂は長い腕で白井を押し付けた。
「なになに……。初春を口実にしたお姉さまとのデートプラン。その1、ファミレスで親睦を深め、その2、ランジェリーショップ(勝負下着購入)、その3、アロマショップでショッピング(媚薬購入)。その4、初春駆除。その5、お姉さまとホテルへGO……。つまり、大人しくて分別のある友人を利用して自分の変態願望を叶えようと。読んでいるだけで、すんげぇストレス溜まるんだけど!」
御坂が怒りを浮かべて、白井の両頬をつまんだ。思い切り白井の顔を崩すくら両頬を引っ張ってそれからパチンッと元に戻した。
「……まあでも、黒子の友達じゃしょうがない、か」
その後で、御坂は背に体を預けて、諦めたように呟いた。
「お、お姉さま! お姉さまがそんなに黒子のことを思ってくださったなんて! 黒子はもう、どうにかなってしまいそう!」
白井が目の前からすっ姿を消した。あっと思う間もなく御坂の側に出現すると、御坂に抱きつき、頬ずりをはじめた。
「お、おい、やめろ……」
御坂は引き剥がそうとするが、白井はがっちりと御坂にすがり付いている。
ふと視線に気付いて振り返った。ガラス窓の向うに、頬を染めてじっと見ているセーラー服の女の子がいた。頭に花の飾りを乗せた、大人しそうな女の子だった。初春飾利だった。その側に、他人の振りして目を逸らそうとしている同じセーラー服の女の子がいた。佐天涙子だ。
こうして合流した四人は、親睦を深めようと街へと繰り出す。その途上で、一同は突然の銀行強盗に出くわす。ただちにジャッジメントとして出動する白井は、鮮やかに銀行強盗のうち2人を倒す。
しかし、残りの一人が子供を連れて逃走を図ろうとしていた。とっさに佐天が飛びついて、子供を救うが、犯人の蹴りが佐天の頬を直撃する。
その様を見て、御坂が飛び出した。白井を「ここからは私の個人的な喧嘩だから。悪いけど、手、出させてもらうわよ」と制する。犯人は車に乗り込み、御坂に突撃した。御坂は逃げもせず疾走する車の前に立ちはだかり、自らの能力、レールガンを発動した。激しい稲妻が走り、車が吹っ飛んだ。
一つの都市が舞台となっているが、実体として都市社会は学園の一部として描かれている。学園世界が社会世界へ延長されている構造だ。だから学生たちが社会の治安を維持しているわけである。
『とある科学の超電磁砲』の物語において、男性の影は薄い。第1話の段階で、役名をもった男性は一人も登場してこない。異能力を持った少女たちが中心となって物語が進行する。
男性の役割といえば、その女性を取り囲んで襲い掛かるか、社会の秩序を乱すか、そのどちらかでしかない。男性の直線の力は、高度に発達した文化的な都市社会においては、秩序を破壊するものでしかない。男性の力は都市社会の中で野放図に迸り、穏やかな丸みをもった都市の景観を破壊せんと暴走する。
男性の力に対して、女達は力だけでぶつからず、軽やかに受け流し、その力を挫いてしまう。男性の特徴である力は、秩序社会の中において発揮されるのは犯罪と暴力のみであり、その力は女性によって捻じ曲げられ封じられてしまう。男性は調和によって整えられた社会において、存在意義を発揮されないのだ。
『とある科学の超電磁砲』において社会を統治し、維持しているのは美しき少女たちである。いや男性が担うべき立場に、少女が当てはめられているのだ。あの少女たちは男性を女性化させた姿だ。
抑圧的に押し黙るか、その力を暴走させるしかない男性は、自身の存在に失望し、少女たちに憧れを抱く。美しく、自由に振舞い、楽しげな笑顔を浮かべて、躊躇なく消費に身を投じる。肉体的な憧れと性的な欲望も同時にそこに現れている。
だから『とある科学の超電磁砲』は少女たちが中心となって、可憐な姿を、時には艶やかに戦う姿が強調的に描かれる。男性の影は物語から排除され、少女たちだけによる戯れが描かれる。
現代男性の失望を隠そうともせずに描かれ、映像の中に刻印されたアニメである。しかしそこに陰鬱なものはなく、むしろ爽やかな明るさが全体を満たしている。
歩道は煉瓦敷きになっている。窓と空のブルー、煉瓦のレッドと空と地上でくっきりと色が切り分けられている。そのどちらにも温かみのある色調が使われ、落ち着きのある画面を作り出している。緻密に描かれる背景美術だが、それだけにパースの歪みが目につく。奥に向かうほど平面的に描かれているのも気になるところだ。
『とある科学の超電磁砲』はアニメーションにおいて一大ジャンルを形成する学園ものの形式を踏襲している。この種のジャンルにおいては、学園ものという場所をいかに異空間として再解釈するか、そこに魅力を見出せるかに全てがかかっている。
『とある科学の超電磁砲』においては超能力というオカルト的な色彩があるものの、超科学的な法則性が与えられ、学園世界の風景に取り込まれている。解説が多く、物語の進行がしばしば停止して解説の時間に取られがちなのが気になるところだ。
だが一つ一つのデザインがよく練りこまれている。観察で描写された実景と独自に作られたデザインとがうまく組み合わされ、異世界的空気が演出されている。その中を活躍する少女たちの楽しげな表情の移り変わりを見ていると、解説の退屈さを感じない。物語以上に、作品のデザイン部分に魅力を感じる作品だ。
どの場面も描写がよく練りこまれているが、多すぎる線の圧迫感を色彩がうまく緩和している。おそらくはそんな都市を中心とした、少女たちのおだやかな日常が中心となるのだろう。少女たちの日常と進展を目的としない対話に付き合う余裕があれば見続けたい作品だ。
作品データ
監督:長井龍雪
原作:鎌池和馬+冬川基 キャラクター原案:灰村キヨタカ
キャラクターデザイン:田中雄一 プロップデザイン:阿部望
シリーズ構成:水上清資 美術監督:黒田友範 色彩設計:安藤智美
撮影監督:福世晋吾 編集:西山茂 音響監督:明田川仁
音楽:I’ve sound/井上舞子 音楽プロデューサー:西村潤
〇オープニングテーマ「only my railgun」
作詞:八木沼悟志/yuki-ka 作曲・編曲/八木沼悟志 歌:fripSide
アニメーション制作:J.C.STAFF
出演:佐藤利奈 新井里美 豊崎愛生 伊藤かな恵
〇〇〇寿美奈子 遠藤綾 瀬戸さおり 田中晶子 関山美沙紀
〇〇〇大原崇 興津和幸 間宮康弘 橘田いずみ
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