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■2009/04/09 (Thu)
シリーズアニメ■
ようやく作戦会議が終わった。ダーケンさんは自警団の男たちに指示を与えて部屋を出て行った。
私は男達の仕事の後片付けをしなくちゃいけないから、スージー・エヴァンスと部屋に残った。
状況は思わしくない。
ベルリープの森で、帝国軍の姿が目撃されたのだ。もちろん正規軍への援助を申請したけど、24時間は軍隊を動かせない、というのが正規軍の回答だった。
つまり、命令実行を遅らせるのを口実に、この街を見捨てる。街を守れるのは、私たち自警団だけだった。
「ねえ、アリシア。私たちも撃たれるの?」
仕事を始めようとするとスージーが私に声をかけた。
「大丈夫よ。撃たれる前に撃てばいいの」
「そんな、できないわ。人を撃つなんて!」
スージーは悲鳴のように声を奮わせた。スージーの目は、すでに涙が溢れかけている。
そんな表情をされると、私も恐い気持ちになった。撃てない、かもしれない。
仕事をしなくちゃいけない。私は気分を変えようと窓の外を振り返った。
すると、向いの倉庫の上を、何かがもぞもぞ動いているのに気付いた。
私ははっとして、窓に飛びついた。
「に、逃げた!」
実はさっき、川辺でスパイを逮捕したのだ。ウェルキン・ギュンダーと名乗る男で、いろいろと立て込んでいるから、とりあえず倉庫に閉じ込めておいたのだ。
それが、今や倉庫を脱出して、屋根を伝って脱出しようとしていた。
私は銃を手に屋敷を飛び出すと、すぐにウェルキンの後を追って駆け出した。
屋敷を出たところで、ウェルキンが走っているのを見つけた。意外と早い。
「待ちなさい! 止まらないと撃つわよ。本当に撃つわよ」
私は大声で警告を発して、一度足を止めた。銃身を頬につけて標準にウェルキンの背中に収める。
でも、撃てなかった。頭の中に、スージーの言葉が浮かんだ。
私は舌打ちをして、ウェルキンを追って走ることにした。
ウェルキンはやがて街道を外れ、森の小道へと入っていった。
森に逃げ込むつもりか。と思ったけど、ウェルキンは速度を緩めた。私はようやく、ウェルキンの側まで駆けつけた。銃を向けて威嚇したかったけど、息がすっかり乱れてしまっていた。
「どうしたの?」
ウェルキンがまったく別の方向を見ているのに、私は友人みたいに問いかけてしまっていた。
ウェルキンは、無言で自分が見ている方向を指差す。
私は、ウェルキンに警戒しつつ、その方向を振り返った。森の茂みはちょっといったところで終わっていて、草が一杯に茂った斜面が見えた。
なんだろう、と思ったそのとき、斜面の向うから、大地を削り取るような激しい音が聞こえた。続いて見えたのは、帝国軍の旗だった。
もうすべて見なくてもわかる。帝国軍の戦車だ。
私は、体から力が抜け落ちるのを感じた。怯えている。戦争が接近しているのを察して、恐怖を感じていた。
「急ごう。待っている人がいるんだ」
ウェルキンは身を低くしつつ、言葉に深刻なものを込めた。
「待っている人って、いったい誰?」
私はいつの間にかウェルキンに従って、従いていこうとしていた。
「妹だ」
「妹? 誰の? あなたの妹?」
訳がわからない。スパイのくせに、この街の近辺に妹がいるなんて。でも、私は諦めのため息をついた。
「わかったわ。あなたと話していると訳がわからなくなる。私も一緒に行く。それが条件だからね」
「ありがとう。感謝するよ!」
突然にウェルキンが振り返って、声をあげた。
と、その時、私は直感して振り返った。
「伏せて!」
同時に銃弾が風を切った。私もウェルキンもその場に倒れこんだ。敵の銃弾は背後の森を掠めた。
私はすぐに身を起こして、射撃した。だが相手は自分より訓練された軍人だった。私の銃弾は幹を削り取っただけで留まった。
「走って!」
敵の反撃が始まった。容赦のない射撃で、茂みの影に追い詰められる。私とウェルキンは走った。
すぐに森を抜けて草原に出た。草原は穏やかに黄色い花を咲かせて風に揺れている。
背後から、帝国軍兵士が追ってくるのを感じた。
草原を走って抜けると、すぐに街道と合流して、向うに屋敷が立っているのが見えた。私たちは、屋敷に逃げ込もうと走った。
銃声が背後から飛びついた。銃弾は危うく背後を抜けて、屋敷の壁に銃痕を作っていく。私は振り向きざまに反撃した。だが狙いを定めない射撃は、偶然にも敵に命中することはなかった。
「こっちだ! 急いで」
ウェルキンが屋敷の納屋の陰に隠れた。私も納屋の影に飛び込んだ。間一髪、敵の銃撃が納屋の壁を削り取った。硝煙の臭いが強く立ち込め、乾いた空気が灰色に霞んでいった。
そっと覗くと、草むらの斜面の向うに、兵士たちが移動しているのがちらちらと見えた。
「入って」
ウェルキンは、勝手知った雰囲気で、納屋の勝手口を見つけ、中に入った。
スパイじゃないのか? 私は訝しみつつ、ウェルキンの後を追った。
中を入ると、そこは暗い空間だった。窓は少なく、奥に有象無象がいっぱい影を作っていた。
そんな場所に、少女が一人待ち構えていた。
「お兄様!」
少女は感激したふうに、ウェルキンの元へ走った。
「良かった。無事だったんだな。紹介するよ。妹のイサラだ」
とウェルキンは振り向こうとした。
私は油断なく銃を構えて、二人を威嚇した。
「やっぱり嘘だったのね。妹を迎えに行くなんて。何が妹よ! 彼女はダルクス人じゃない!」
騙されるところだった。やっぱりこの人はスパイだったんだ。面倒にならないうちに、ここで二人を撃たなくちゃ……。
でも、引き金にかかる指が震えた。恐い。撃てない。
突然に、納谷全体がずずずと揺れて、埃が吹き上がった。窓が破られ破片が飛び散る。
攻撃が始まったのだ。私は急な衝撃に、銃を落として尻を突いてしまった。
とっさに、イサラが銃に飛びつく。
しまった!
私もイサラを止めようと飛びついた。
だがイサラは、一瞬早く銃を掴んだ。その銃口が私を振り向く。
が、違った。
イサラが撃ったのは窓の外を走る帝国軍兵士だった。
緊張が過ぎ去って、私は全身から力が抜けそうだった。ただ茫然と立って、イサラの顔を見詰めていた。
「武器があります。戦いましょう」
一方のイサラの瞳は闘志に燃えて、私に銃を返した。
この種のファンタジーほど、過剰に書き込んだほうがいい。パースを正確に引き、徹底的にディティールを描きこむ。とにかくしっかり描かないと、ファンタジー世界の重量感は、ただちに空々しい嘘くささにまみれて、崩壊してしまう。
『戦場のヴァルキュリア』は架空の時代、架空の国家を舞台としたファンタジーだ。
背景には実際の西洋史が置かれ、架空に作られた世界観に一定の重量感を与えている。
だが、描写自体は柔らかい。
色彩は明るいパステル調だし、キャラクターには和紙のような質感が与えられている。
戦争を間近にしているが、登場人物達の顔に暗い影はなく、ひどく朗らかな様子で物語が進行する。
このアニメーションが何を志向し、どこへ向かっていくのか。それらが明らかになるのは、まだまだこれからだろう。
作品データ
監督:山本靖貴 原作:SEGA
脚本:横手美智子 演出:今井一暁 山本靖貴
シリーズ構成:横手美智子 キャラクターデザイン:渡辺敦子
総作画監督:米澤優 中路景子 渡辺敦子
美術監督:谷沢善王 美術設定:塩澤良憲 色彩設計:中島和子
アニメーション制作:A-1 Pictures
出演:千葉進歩 井上麻里奈 桑島法子 戸塚利絵
石住昭彦 原田晃 進藤尚美 武虎
日比愛子 池田千草 斉藤貴美子
私は男達の仕事の後片付けをしなくちゃいけないから、スージー・エヴァンスと部屋に残った。
状況は思わしくない。
ベルリープの森で、帝国軍の姿が目撃されたのだ。もちろん正規軍への援助を申請したけど、24時間は軍隊を動かせない、というのが正規軍の回答だった。
つまり、命令実行を遅らせるのを口実に、この街を見捨てる。街を守れるのは、私たち自警団だけだった。
「ねえ、アリシア。私たちも撃たれるの?」
仕事を始めようとするとスージーが私に声をかけた。
「大丈夫よ。撃たれる前に撃てばいいの」
「そんな、できないわ。人を撃つなんて!」
スージーは悲鳴のように声を奮わせた。スージーの目は、すでに涙が溢れかけている。
そんな表情をされると、私も恐い気持ちになった。撃てない、かもしれない。
仕事をしなくちゃいけない。私は気分を変えようと窓の外を振り返った。
すると、向いの倉庫の上を、何かがもぞもぞ動いているのに気付いた。
私ははっとして、窓に飛びついた。
「に、逃げた!」
実はさっき、川辺でスパイを逮捕したのだ。ウェルキン・ギュンダーと名乗る男で、いろいろと立て込んでいるから、とりあえず倉庫に閉じ込めておいたのだ。
それが、今や倉庫を脱出して、屋根を伝って脱出しようとしていた。
私は銃を手に屋敷を飛び出すと、すぐにウェルキンの後を追って駆け出した。
屋敷を出たところで、ウェルキンが走っているのを見つけた。意外と早い。
「待ちなさい! 止まらないと撃つわよ。本当に撃つわよ」
私は大声で警告を発して、一度足を止めた。銃身を頬につけて標準にウェルキンの背中に収める。
でも、撃てなかった。頭の中に、スージーの言葉が浮かんだ。
私は舌打ちをして、ウェルキンを追って走ることにした。
ウェルキンはやがて街道を外れ、森の小道へと入っていった。
森に逃げ込むつもりか。と思ったけど、ウェルキンは速度を緩めた。私はようやく、ウェルキンの側まで駆けつけた。銃を向けて威嚇したかったけど、息がすっかり乱れてしまっていた。
「どうしたの?」
ウェルキンがまったく別の方向を見ているのに、私は友人みたいに問いかけてしまっていた。
ウェルキンは、無言で自分が見ている方向を指差す。
私は、ウェルキンに警戒しつつ、その方向を振り返った。森の茂みはちょっといったところで終わっていて、草が一杯に茂った斜面が見えた。
なんだろう、と思ったそのとき、斜面の向うから、大地を削り取るような激しい音が聞こえた。続いて見えたのは、帝国軍の旗だった。
もうすべて見なくてもわかる。帝国軍の戦車だ。
私は、体から力が抜け落ちるのを感じた。怯えている。戦争が接近しているのを察して、恐怖を感じていた。
「急ごう。待っている人がいるんだ」
ウェルキンは身を低くしつつ、言葉に深刻なものを込めた。
「待っている人って、いったい誰?」
私はいつの間にかウェルキンに従って、従いていこうとしていた。
「妹だ」
「妹? 誰の? あなたの妹?」
訳がわからない。スパイのくせに、この街の近辺に妹がいるなんて。でも、私は諦めのため息をついた。
「わかったわ。あなたと話していると訳がわからなくなる。私も一緒に行く。それが条件だからね」
「ありがとう。感謝するよ!」
突然にウェルキンが振り返って、声をあげた。
と、その時、私は直感して振り返った。
「伏せて!」
同時に銃弾が風を切った。私もウェルキンもその場に倒れこんだ。敵の銃弾は背後の森を掠めた。
私はすぐに身を起こして、射撃した。だが相手は自分より訓練された軍人だった。私の銃弾は幹を削り取っただけで留まった。
「走って!」
敵の反撃が始まった。容赦のない射撃で、茂みの影に追い詰められる。私とウェルキンは走った。
すぐに森を抜けて草原に出た。草原は穏やかに黄色い花を咲かせて風に揺れている。
背後から、帝国軍兵士が追ってくるのを感じた。
草原を走って抜けると、すぐに街道と合流して、向うに屋敷が立っているのが見えた。私たちは、屋敷に逃げ込もうと走った。
銃声が背後から飛びついた。銃弾は危うく背後を抜けて、屋敷の壁に銃痕を作っていく。私は振り向きざまに反撃した。だが狙いを定めない射撃は、偶然にも敵に命中することはなかった。
「こっちだ! 急いで」
ウェルキンが屋敷の納屋の陰に隠れた。私も納屋の影に飛び込んだ。間一髪、敵の銃撃が納屋の壁を削り取った。硝煙の臭いが強く立ち込め、乾いた空気が灰色に霞んでいった。
そっと覗くと、草むらの斜面の向うに、兵士たちが移動しているのがちらちらと見えた。
「入って」
ウェルキンは、勝手知った雰囲気で、納屋の勝手口を見つけ、中に入った。
スパイじゃないのか? 私は訝しみつつ、ウェルキンの後を追った。
中を入ると、そこは暗い空間だった。窓は少なく、奥に有象無象がいっぱい影を作っていた。
そんな場所に、少女が一人待ち構えていた。
「お兄様!」
少女は感激したふうに、ウェルキンの元へ走った。
「良かった。無事だったんだな。紹介するよ。妹のイサラだ」
とウェルキンは振り向こうとした。
私は油断なく銃を構えて、二人を威嚇した。
「やっぱり嘘だったのね。妹を迎えに行くなんて。何が妹よ! 彼女はダルクス人じゃない!」
騙されるところだった。やっぱりこの人はスパイだったんだ。面倒にならないうちに、ここで二人を撃たなくちゃ……。
でも、引き金にかかる指が震えた。恐い。撃てない。
突然に、納谷全体がずずずと揺れて、埃が吹き上がった。窓が破られ破片が飛び散る。
攻撃が始まったのだ。私は急な衝撃に、銃を落として尻を突いてしまった。
とっさに、イサラが銃に飛びつく。
しまった!
私もイサラを止めようと飛びついた。
だがイサラは、一瞬早く銃を掴んだ。その銃口が私を振り向く。
が、違った。
イサラが撃ったのは窓の外を走る帝国軍兵士だった。
緊張が過ぎ去って、私は全身から力が抜けそうだった。ただ茫然と立って、イサラの顔を見詰めていた。
「武器があります。戦いましょう」
一方のイサラの瞳は闘志に燃えて、私に銃を返した。
□■□■□
この種のファンタジーほど、過剰に書き込んだほうがいい。パースを正確に引き、徹底的にディティールを描きこむ。とにかくしっかり描かないと、ファンタジー世界の重量感は、ただちに空々しい嘘くささにまみれて、崩壊してしまう。
『戦場のヴァルキュリア』は架空の時代、架空の国家を舞台としたファンタジーだ。
背景には実際の西洋史が置かれ、架空に作られた世界観に一定の重量感を与えている。
だが、描写自体は柔らかい。
色彩は明るいパステル調だし、キャラクターには和紙のような質感が与えられている。
戦争を間近にしているが、登場人物達の顔に暗い影はなく、ひどく朗らかな様子で物語が進行する。
このアニメーションが何を志向し、どこへ向かっていくのか。それらが明らかになるのは、まだまだこれからだろう。
作品データ
監督:山本靖貴 原作:SEGA
脚本:横手美智子 演出:今井一暁 山本靖貴
シリーズ構成:横手美智子 キャラクターデザイン:渡辺敦子
総作画監督:米澤優 中路景子 渡辺敦子
美術監督:谷沢善王 美術設定:塩澤良憲 色彩設計:中島和子
アニメーション制作:A-1 Pictures
出演:千葉進歩 井上麻里奈 桑島法子 戸塚利絵
石住昭彦 原田晃 進藤尚美 武虎
日比愛子 池田千草 斉藤貴美子
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